第10話


 砦から中に入ると、数十本もの白色の石柱が左右から天井を支え、灯りの魔法で出来た光の玉が、石柱に取り付けられていた。

 建物内部は白色と淡い灯りが合わさり、幻想的な雰囲気の作りになっている。


 空気も清んでいるのを感じる。

 森林の中や、滝の側にいるようなマイナスイオンで満たされている感じだ。

 ユグドラシルの力で浄化されているのかもしれない。


 アルフィンは何回か来ているようで、迷いなく目的地へ進んでいく。

 この神殿の士官の人達だろうか、こちらを向いて頭を下げている。ここの神殿も結構大きいから人もそれ相応にいるんだろうな。

 途中何個か部屋の前を通り、歩いた先に講堂が見えてきた。


 アルフィンがノックすると、中から若い女性の声が聞こえて、扉の紋章が青色に輝き開いた。


 中には、二人の人物が立っていた。

 一人は、プラチナブロンドの髪を結い、左肩に掛け、白色のドレスを着た、もの凄い美女だ。醸し出す雰囲気は神聖なものを感じる。この人が聖女かもしれない。

 二人目は、黒色の髪を後ろで束ね、身長は女性にしては高めで、白銀の鎧を来た美人だ。年齢はアルフィンと同じぐらいかな。

 アルフィンが可愛い系なら、この人は綺麗系だな。


「お久しぶりです。リアンヌ様、シズク。

 突然の訪問に関わらず、お時間を頂きありがとうございます」


 アルフィンが二人に親しみの笑顔で声をかける。子供の頃から何回も来ていると言っていたので勝手知ったる仲なのだろう。


「お久しぶりアルフィン様。

 いえ、今はユグドラシルの調整も終わっている時間帯ですから大丈夫ですよ。

 以前お会いした時は、アルフィン様の16歳のお誕生日の日ですからあれから2ヶ月経つのですね」


「そうでしたね。この前はとても楽しかったですいつもありがとうございます。シズクもお久しぶりですお変わり無いようですね」



「アルフィン様、お元気そうで何よりです。

 私は相変わらず鍛練の日々で、あまり代わり映えしていませんが。こうしてアルフィン様が来てくださり嬉しいです」


「ありがとう。今度また、お茶でもしましょうね。美味しい茶葉をこの前頂きましたので。

 リアンヌ様今日はご報告したい事とお会いして頂きたい方がいましたので、こちらに来ました」


 その言葉に二人の目線が俺に向けられる。

 部屋に入った時も一度向けられたが、俺が後ろに控えていたのと挨拶が先だったので、再度向けられる形になる。


「そうでしたか。それではせっかくですからお茶を飲みながらお話を聞かせてください」


 リアンヌさんが部屋の中にある、テーブル席に案内してくれそこに座る。

 シズクさんがお湯を沸かし、紅茶に似たものを煎れてくれた。

 異世界で文化は違うけど、こういう紅茶や食べ物は同じような物があるのかな。

 紅茶はとてもおいしかった。



「それではまず、ご報告からさせて頂きます」


 アルフィンからはクリスタに向かう道中、カイザーベアが現れ、クルーゼ隊が全滅したこと、殺される寸前に俺が現れカイザーベアを討伐したこと。そして。



「城に帰り、御父様の前で真実の鏡を使用しました。

 その結果、タクトさんが予言の通り、異世界からマギア・フロンティアを救うべく現れた、魔王の称号を持つ救世主でした。

 ハーディーンを再封印する為、旅に出る前に、こちらに寄らせていただきました」



 一連の報告を聞いて、俺が魔王の称号を持っていることに二人は驚愕の表情をしている。

 リアンヌさんは、驚きはしていたが、納得の表情をしていた。


「そうでしたか……。クルーゼ様達にご冥福をお祈り致します。」


 手を組み、祈ってくれる。


「タクト様はユーリ陛下の後の魔王の称号をお持ちになるのですね。

 先程門番がアルフィン様の来訪を伝えに来た際、二人で来たと報告がありましたので、もしかしたらと思っていましたが。

 ご挨拶が遅れましたが、私はここ聖樹教会の管理責任者をしています、リアンヌと申します。ようこそお越しくださいました。これからよろしくお願いしますね」



 リアンヌさんが微笑みながら挨拶をしてくれた。


「はい。こちらこそ。よろしくお願いします。」


「初めまして、聖樹教会騎士団、聖女付きの騎士シズク・ナナクサです」


「タクトです。よろしくお願いします。」


 シズクさんと挨拶を交わす。


「それとタクトさんがユグドラシルを間近で見てみたいということなのですが、いいでしょうか?」


「はい。大丈夫です。それでは四人でこのまま向かいましょう」


 リアンヌさんを先頭にユグドラシルまで向かう。部屋を出て、そのまま廊下を進んでいく。近づくにつれ、圧倒的な存在感が増してきた。やがて巨大な扉の前に着いた。


 リアンヌさんが魔力を溜めた左手を紋章にかざし、扉を開閉して中に入る。


 ユグドラシルは巨大だ。頭を上に向けても頂上は見えない。街の外からも巨大な樹木なのは、分かった。

 500メートルぐらいはあると思っていた通り、やはり巨大だ。

 そして、ユグドラシルからは目の前に立つだけで、高密度の魔力の波動がドクン、ドクンと波打つのを感じる。

 樹木全体が目映い光を放ち、キラキラと輝いている。



「ユグドラシルを間近に見てどうですか?」


 リアンヌさんが聞いてきた。


「そうですね。遠くから見ても、存在感が凄かったですが、こうして目の前にすると、凄い力を秘めているのを感じます。聖樹とはどういう物なのですか?」


「ハーディーンは世界を手にする事と、これを破壊するのが、目的。聖樹はまだ分からない事が多いのですが、古より伝わる文献には、ユグドラシルを介して、この世界と異世界とを繋げる事が出来るという一説が残されています」


「アルフィンから聞きましたが、400年前の大戦よりも以前には既にあったとか」



「ええ。いつ頃からこの地にあるのかは分からのないです。ですが、ユグドラシルを破壊されてしまうと、この世界だけでは済まないほどの被害が出ることになります。歴代調整をしている私達、聖女だからこそ、このユグドラシルの力が分かります」



 聖女は誰よりも、ユグドラシルの近くにいたからこそ、この聖樹の力も、破壊された時の危険性も分かるのだろう。


「ハーディーンの封印が解かれ、予言の通りタクト様がマギア・フロンティアに来られたと云うことは、これから石碑を探しに世界に旅に出るということ。ユーリ陛下の遺言の〈魔王の称号持ちが現れた場合、力になるように〉との約束を今こそ果たしましょう」


 そう言って、リアンヌさんはシズクへ手を向ける。

 シズクはその事でキョトンとしている。


「シズクをタクト様達の旅に連れて行ってください。この子の、剣術の才能は世界でも屈指。まだ実力は粗削りですがきっと貴女方の力になれるでしょう」


「なっ。リアンヌ様何を言い出すのですか。私は聖女付きの騎士です。私が離れればリアンヌ様の護衛は誰がするのですか。」


「私は、この神殿にいる限り安全です。確かにあなたは私の騎士になりますが、今は世界の危機です。今こそあなたの力を世界の平和の為に使いなさい。それに、ここにずっといても得られない物はたくさんあります。

 世界を旅して、見聞を広め何倍も成長して帰ってきてください。私はそれを楽しみに待っていますので」


「……リアンヌ様。……分かりました。ご期待に応えられるように何倍にも成長して帰って参ります!」


「タクト様、アルフィン様。シズクをどうかよろしくお願いします。この子の力を旅の助けにお使いください。

 この子の力は、まだ完全に開花していませんが、実は私と同じ調整の専用スキルを持っています。調整のスキルはユグドラシルの維持に使用するのと他に、もう一つ能力があるのです。

 それは、邪な魔力を祓うこと。アルフィン様が持つ治癒魔法とは別に邪神軍に有効な力になります」



 シズクさんの力か。

 二人の力も気になる


 ステータスオープン。


 リアンヌ

 聖樹教会聖女

 レベル12

 スキル 調整(破邪)、結界、深層同調


 シズク・ナナクサ

 聖樹教会聖女付き騎士

 レベル23

 スキル 剣術、近接戦闘、身体能力強化、調整不完全(破邪)


 確かに、これだけの力なら旅をするのに助かるな。

 シズクさんの調整のスキル。

 邪な魔力、魔物等にも有効な能力。破邪顕正の能力か。



「アルフィン様、タクト様。旅の同行をさせて頂きます。若輩の身でありますが、ハーディーン打倒の為精進して参ります。これからよろしくお願いします!」


「シズクよろしくお願いしますね。幼馴染みの貴方が共にいること頼もしく思います」


「シズクさんよろしく。これから仲間として頑張っていこう。」


「はい。私のことはシズクとお呼びください。私もタクトさんと呼ばせてもらいますね。」


 シズクと握手をする。


「出発は明日の早朝になります。明日トランスヴァールの城下町の北門で待ち合わせにしましょう。」



 リアンヌさんとシズクに挨拶をし、トランスヴァールに戻る。

 新しい仲間と、冒険か。楽しみだ。


 その前に、今日は歓迎会をしてくれるんだった。


 そちらも楽しみだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る