第7話
side アルフィン
わたくしは、カイザーベアに殺される所をタクトさんに助けられました。
この国でも上位実力者のクルーゼ隊が為す統べもなかったカイザーベアを、たった一人で討伐するタクトさんを見て、世界に伝わる古の予言を思い出していた。
「この世界窮地に立たされし時、世界の理外れし者、魔導を極め世界を救わん。その者魔王を名乗る者なり」こんな予言を。
初代トランスヴァールユーリ陛下が命と引き換えに封印をした邪神ハーディーンが今から一年前に復活を遂げた。
ハーディーンに対抗する為、世界は各国が力を合わせて戦っているが、正直状況は劣勢だ。ハーディーンだけではなく、その配下も強大な力を持つ。
従える魔物も強力で、現在戦いの最前線である、エデン王国と、ルーデウス帝国は日々甚大な被害が出ており、この世界はまた窮地に立たされている。
邪神の目的は、聖樹ユグドラシルを破壊する事。ユグドラシルは守りを固めているが、邪神が攻めてきた場合耐えられるか分からない。
その様な情勢に、タクトさんが現れた。
これだけの強大な力を持つものが居れば、今まで誰にも知られずにいる事はありえない。だからこそ突然と現れ、カイザーベアを圧倒した、タクトさんを見てわたくしは予言の救世主こそタクトさんなのではないかと、心で確信した。
助けて頂いたお礼と、この確信の真意を確かめたくて、タクトさんに話しかけてみた。
タクトさんはとても優しく、紳士だった。
話しているとき自分を庇って亡くなったクルーゼ達の事が思い出され、今は泣いてる場合ではないと思うわたくしに、タクトさんは優しく諭してくれた。
その配慮に甘え思い切り泣いた。
今まで自分が小さいときから側にいた、兄の様な存在だったクルーゼ達を想って。
悲しみを吐き出し幾分か心が落ち着く。
お礼をしたいと城まで一緒に来て欲しいとのお願いも聞いてくれ、クルーゼ達の遺体も馬車に乗せるのを手伝ってくれた。
本当に優しい人だ。
タクトさんは遠くの国の田舎から来たとの事で、世界の状況が分からないらしく、説明をさせてもらった。
何か考え事があったのだろうか。ジッと、わたくしの顔を見たままのタクトさんを見て、先程の戦いの勇姿とタクトさんの人柄で顔が赤くなるのを、鼓動が早くなるのを感じた。
タクトさんはとても端正な顔をしているのもあるだろう。今までこの様な感情は感じた事はない。
内心ドキドキと若干浮わついた気持ちを感じながら、名前で読んで欲しいとお願いする。
そして、この世界の予言の一説を話しタクトさんが予言の救世主ではないかと、聞いてみた。
タクトさんが話しかけた所で、信号弾を見て救援に駆けつけた、レスター隊が来てくれた。
レスターにここまでの状況を話したが、レスターはタクトさんが邪神の手下ではないかと疑っている。
何度も違うと言っても聞いてもらえなかった。レスターは本当頑固なんだから。もう。
城に戻れば、真実の鏡がある。あの鏡は写した者の、名前、称号、レベルが写し出される魔法がかかっている為、もし姿を偽る魔法を使っていてもその者の正体が分かる物だ。
街へと戻り、タクトさんに色々とこの城下町の良いところも説明させてもらった。わたくしが小さいときから育ったこの街をタクトさんにも好きになってもらえると嬉しい。
城へと向かう途中、墓所に寄りクルーゼ達を弔う。
役人達が亡骸を棺桶に入れ、土に埋めていくのを見ながら、改めてクルーゼ達に、最期まで忠誠を尽くしてくれた事に感謝と、深い哀しみを感じながら、冥福を祈った。
クルーゼと、護衛隊の皆。
わたくしは必ず邪神を倒し、世界を平和にします。見ていてくださいね。
城に入り、謁見の間へ案内して、御父様とリーフにタクトさんを紹介した。
御父様もタクトさんと話してただ者ではないと分かったのだろう。模擬戦闘をして力を確かめたいと、レスターと戦うことになった。
そして、戦いが始まると終始タクトさんが圧倒していた。
カイザーベア戦の時よりも濃密な魔力を纏い、スピードも力も数段上の動きをしていた。
レスターは近衛隊長だ。その意味はこの国で一番の実力者ということになる。
そのレスターをまるで相手にならないとばかりに圧倒する。
レスターも戦う内にタクトさんの実力を、そして怪しいものではないと分かったのだろう。戦いの最後の方では、もはや疑いの眼差しも無くなっていた。
レスターも自分の敗北を悟ったのか、何か確認したいのか、最後にタクトさんの本気を見せて欲しいと、申し出る。
両者同じタイミングで魔法を放った。
レスターの炎浪えんろうは中級魔法だが、正直この国では扱えるものは一握りの人しか使えない魔法だ。
タクトさんの魔法はカイザーベア戦の時よりも力を抑えているみたいだけど、間違いなく上級魔法だ。
収束する魔力も、威力も圧倒的だった。
タクトさんの黒いイカヅチはレスターを炎浪えんろうごと飲み込んだ。
飲み込まれる直前のレスターは満足した表情を浮かべていた。
多分タクトさんの力を見て、直接受けて、この世界の窮地を脱する可能性をみたからだろうか。
模擬戦闘が終わり、御父様がタクトさんに予言の救世主かと問う。
やはり、タクトさんは予言の救世主だった。
異世界からこの世界を救うため現れたのだ。真実の鏡を使い確認もした。
タクトさんは魔王の称号持ちだった。
御父様からの、この世界を救って欲しいとのお願いもタクトさんは快く引き受けてくれた。
あぁ。女神様感謝致します。タクトさんと出逢わせて頂き。
side レスター
俺は、トランスヴァール皇国近衛隊長レスター・クールデイズ。
今日はいつも通り、隊の皆の訓練と世界情勢の情報の確認をしていた。
ハーディーンが世界に対し宣戦布告と同時に進軍し始めたのが一年前。
邪神軍に対抗するため、各国で討伐軍を結成、いつかハーディーンが復活したときの為に、準備して来たものを使用してようやく均衡が取れている状況だ。
だが、最近になって、特級魔物が出てきたことにより、事態は劣勢になった。
まだ戦いの最前線はエデン王国とルーデウス帝国で食い止めているが、いつ主戦場が南下してきてもおかしくない。
今は各国の連携と、戦力強化が必要だ。
俺自身も鍛練に力が入る。王を、姫様も、護れる力を手にするために。
今日アルフィン様が、護衛隊と共に、隣国のクリスタまで王の代行として向かっている。
まだ、この国の周辺は中級魔物が出るぐらいだ。
中級魔物程度なら俺も討伐できる。姫様の護衛隊長のクルーゼも同様だ。
クルーゼとは親友と呼べる間柄だ。よく共に酒を酌み交わせている。アイツがいれば大丈夫だろう。
配下の騎士の鍛練を見ていたとき、街の門番がこちらに駆けてくるのが見えた。
息を切らし、おそらく全力で走って来たのだろう。そして、駆けてきた門番から聞いた、報告は衝撃だった。
クリスタの方角の上空に、赤い信号弾が上がっているとの事だった。
信号弾には幾つか決まりごとがある。
もし、途中で命に及ぶ問題が発生した場合、赤色を打ち上げること。
クルーゼがいるならば、大抵の事は問題にならないはずだ。中級魔物も討伐できる。
では、この状況で使用したということは……
考えられる可能性としては、上級魔物が現れたのだ。
……直ぐに隊を結成し、救援に向かわねばならない。
報告にきた、門番に王に報告に行かせる。
俺は直ぐに隊を作り、クリスタの方角へ最速で走れる馬を走らせた。
どうか、アルフィン様、クルーゼ達も無事であってくれ!
信号弾にある程度近づいた所で、馬車を引きながら歩く、アルフィン様の姿を見た。
あぁ良かったご無事であったか!
だが、アルフィン様の周りには、クルーゼ達護衛隊の姿はなかった。一人の男が共に馬車を引いているだけだった。
アルフィン様から先程の信号弾の真相を聞いた。
………クルーゼ達は、最期までアルフィン様にトランスヴァールに忠誠を貫き通した。
友を失った哀しみを感じる。だがその姿を聞き、友として誇りに思う。
アルフィン様の目元が、真っ赤になっていた。クルーゼ達のことを想い涙を流してくださったのだろう。
信じがたい事を聞いた。アルフィン様の言うことを疑いたくはない。疑いたくはないが、あまりに現実離れな事だった。
上級魔物カイザーベアをたった一人で討伐したと言うのだこの男がだ。
アルフィン様はこの男を城まで連れてユルゲン陛下に会わせると言われたが、俺は反対した。
もし、この男が偽りの魔法を使った邪神の配下だった場合、陛下の命が、そしてユグドラシルまで近づけてしまうことになる。
そんな事態には絶対にさせてはならない。
ただ、アルフィン様は一度決めたことは曲げない、頑固な部分もあることを、俺も知っていた。
仕方なく、陛下に合わせ真実の鏡を使い、この男の本性をさらけ出す事に了承した。
こいつからは決して眼を放すなと、部下達にも言っておいた。
少しでも変なことをすれば、叩き切ってやる。
街に入り、城へと向かう途中、墓所に寄りクルーゼ達を弔う事にした。
棺桶に入り、土に埋められていく友に俺は誓いを建てた。
アルフィン様とこの国は俺が守る。
見ていてくれ。
城に到着し、ユルゲン陛下に謁見中に模擬戦闘を行う事になった。
陛下は何か確認をしたいのだろうか。俺はこの男の本性をさらけ出す事が出来るから渡りに船だ。
リーフ殿の合図で模擬戦闘が始まる。
まずはこの男の出方を窺う為、防御の構えを取った。
奴は、全身に密度の高い魔力を纏い、一足で距離を縮め攻撃をしてきた。
速い!!
一瞬で間合いを詰めるスピードで拳を叩き込んできた。
確かに、スピードはかなりのものだが、これくらいは防げる。
剣の横腹で拳を受け止めようとしたが、予想以上に重い打撃で、2メートル程弾き飛ばされた。
グウッ!
何とか踏ん張り、今度はこちらから剣に魔力を纏わせ上段から、叩きつける。
当たると思ったが、この男は攻撃を見切り、最小限の動きで回避された。足技を剣で防御しようとしたが、剣を弾き飛ばされる。
こちらの硬直時間に背後まで回られ、蹴り技を叩き込まれた。
物凄い痛みと衝撃を背中に感じ、その勢いのまま吹き飛ばされた。
痛みと、ダメージで虚ろな意識でアルフィン様が言われた事が信じられた。
同時にこれだけの力があれば、邪神軍に対抗できることも分かった。
俺は誤解をしていた様だ。
最後にこの男の本気の力を示してもらおう。
これからの為に。
自分に出来る最大限の魔法を放ったが、目の前の男はこちらを遥かに凌駕する魔法の奔流を放つ。
一瞬の均衡の後こちらに向かってくる魔法を見て、この男ならば、俺の代わりにアルフィン様をこの国を、そして世界を助けてくれると確信して一つの満足感を感じて魔法に飲み込まれた。
sideレスター
out
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます