第27話

 かれこれ十数分僕は電話で日野さん……ひかりとたわいもない話をしていた。ひかりが苦しんでいると思って電話をしたはずだったのだが……

 確かに、最初こそ悩んでいそうだったもののいつの間にか元気になっており、世間話が始まったのだ。


 まあ、僕もひかりと話せることはうれしいのだが、さっきからどうしても視線が気になるのだ。


「……美夜、どうしたの?」


 僕は一度スマホを顔から離して、扉から目だけを出してこちらを覗いている妹に問いかけた。


「お兄ちゃんが電話ばかりして美夜にかまってくれない……」


 なんだか恨めしそうな顔でこっちを見てきている。


 スマホから「どうしたの?」という声がかすかに聞こえた。

 僕はもう一度スマホを顔に近づけた。


「妹が、電話ばかりしてないでかまってほしいって……」

「……なるほどね……なら、いったん電話はやめたほうがよさそうだね」


 何故かすぐに納得して、ひかりは少し残念そうにそう言った。似たような体験でもあるんだろうか?


「うん。そうしてもらえると助かる」


 僕はそう言ってから、電話をした目的を思い出す。


「……もう、大丈夫なんだよね?」

「うん……ありがと」

「ならよかった」

「なんで落ち込んでたかとか聞かないの?」

「……言いたい?」


 僕が聞くと少し迷った後、ひかりは「……まだ、やめとく」と小さな声で言った。


「じゃあ、それでいいよ」

「……」


「言いたくないなら聞かない。……じゃあ、また明日」


 ひかりが「うん……また明日」というのを聞いて電話を切る。


 その瞬間、美夜が膝の上に飛び乗ってきた。一応、電話が終わるまでは待っていてくれたらしい。


「……お兄ちゃん。誰と話してたの?」

「……友達だけど」

「……女の友達?」


 探るようにこっちを見てくる。多分ひかりの声が少し聞こえていたのだろう。


「そうだよ……」

「ふーーーーん」


 気のせいか美夜の視線がきつい。


「かわいい妹を差し置いて、女の子とイチャイチャ電話していたと」


 僕が黙っていると、美夜はそんなことを言ってきた。


「いや、イチャイチャなんかしt」

「言い訳なんか聞きたくない」


 言い切る前に美夜がかぶせて言ってくる。


「お兄ちゃんには、罰を下します!」

「……なんでしょう」


 ここは逆らわずに聞いておいたほうがいいと判断する。


「私をなでなでしなさい!」

「またか……」

「……お兄ちゃんは、文句言わずに言うことを聞いてたらいいのっ」


 こうして僕は夜遅くまで美夜を撫で続けることになった。

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