第22話
放課後。僕は一人で体育館に向かっていた。もちろん理由は伊東さんとの約束だ。
伊東さんは授業が終わるとすぐに教室を出て行ったので、おそらく先についているのだろう。
教室にいると、また、伊東さんに人が集まってきてしまうだろうしベストな行動だと思う。伊東さんは可愛いから、男女問わず、たくさんの人が近づいてくるからな……
体育館にたどり着いた。その入り口を通り過ぎ、裏手に回る。そこには、伊東さんがじっと立っていた。
5月の陽の光が伊東さんに向かって柔らかく差し込む。その姿は学校のアイドルである日野さんと比べてもほとんど見劣りしない。
「伊東さん……待たせた?」
僕がそういうのを伊東さんが制止する。
「リーナって呼んでください」
少し戸惑う。でも、今からするだろう話を考えたらそれくらい呼べるくらいの関係性は必要なのかもしれない。まぁ、土日に一緒に遊んだりもしたし……
「……リーナ、待たせた?」
僕が尋ねると伊東さん……いや、リーナは小さく首を横に振った。
「それで……なんで僕をここに?」
早速話を聞こう。
リーナは僕の質問に対して少し顔を赤くして下を向いた。数日で、僕が持ったリーナの印象からすると少しギャップがある。僕は、リーナは何を考えているからわからない時もあるが、基本的に大人な人だと思っていた。でも、今のリーナはまるで恋する乙女みたいだ。
そんなわけないと思っていても、告白されるんじゃないかとドキドキしてしまう。
リーナはしばらくそうして俯いていたが、決心を決めたようにこっちを見た。そして、言葉をつむぐ。
「ワタシ……好きみたいなんです」
リーナはもじもじとして再び俯いた。
僕はじっとリーナを見つめる。
今の彼女を見たらほとんどの男は惚れてしまうに違いない。ああ、可愛いなと思う。
リーナはもう一度はっきりと言う。
「ワタシ、水野くんのことが好きみたいなんです」
穏やかな風が吹いた。
僕はリーナの顔を見る。
リーナは満足げな顔をしていた。
「やっぱりね」
リーナの顔を見て、僕はそう言った。
リーナは驚いた顔をする。
「気づいてたんですか?」
「うん。午後いっぱい考えた結果たどり着いた結論がそれだった」
僕は落ち着いていた。
改めて考えてみると、先週からリーナはずっと優のことを見ていた。一瞬リーナが僕のことを見ているのではないかと思った時もあった。でも、思い返せばそんなときいつも僕の近くに優がいた。確信とまではいかなかったが予想はついていたのだ。
「それで、僕が優とリーナとの仲をとり持てばいいのかな?」
「……それを頼みたかったんです」
リーナはそう言って頬を赤らめた。
「月野くんは水野くんと仲が良さそうなので……」
それくらいならしてあげてもいいかなと思い僕は「わかった。言ってもらえたらそのときは協力するよ」と承諾する。
他の人なら拒否したかもしれないが、数日リーナを見ていたら悪い人ではないと思ったからだ。むしろ、優にはもったいないいい人だと思う。
でも、聞いておきたいことが一つある。
「でも、どうして優?」
これはいくら考えても分からなかった。
人を好きになるのが早いとか、アプローチが早いとかは、住んでいた国の文化的な違いで片付けることもできなくないが、これだけは聞いておきたい。
別に優に良いところがないと言いたいわけじゃない。良いところなんて沢山ある。でも、リーナを数日で惚れさせるほどの魅力があるかと聞かれたら疑問に思うのだ。
すると、リーナは優のことが好きと打ち明ける時よりも一層恥ずかしそうにした。
「……言わなければダメですか?」
そして、上目遣いでこっちを見る。優のことが好きだとわかっていながら、少しドキッとした。
「……仲を取り持つなら、それは聞いておきたいかな」
僕がそう言うと、リーナは少しもじもじしてから言った。
「ワタシ……日本で言うところの『匂いフェチ』なんです」
ダメだと思いながらも、自分の顔が少しだけ引きつったのを感じてしまう。
強い風が吹いた。
「水野くんの匂いといったら……5メートル先からでも体が反応するのがわかりました♡ カラオケの時なんかは……♡」
あぁ、これは本格的にダメなやつだ。
俺は聞かなかったことにしようと決める。
嵐の予感だ。
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