第19話

「ぷはぁ~。生き返った」


 優は、カップに入ったコーラを蓋をはずしてぐびぐびと飲んで息を吐く。優のTシャツには、じわっと汗がにじんでいる。夏になったら優はもっとひどいことになるのでこんなことで僕はなにも言わない。ていうか、もう慣れてきたのでなにも感じない。


 でも、他の二人はそうではないのか、優の方を見ている。伊東さんなんて穴が開くんじゃないかってほど見ている。





 僕たちは今、某大手ハンバーガーショップの店内にいた。


 午前中いっぱい、この町の名所と呼ばれる場所を近くから回っていったので休憩だ。日野さんが「次々いくよ~」ととか言って前にたってどんどん歩いていくので、結構回ることができたと思う。


 疲れ果てた僕たちは近くにあったこの店で昼食をとっている。


「午後はどうする?」


 僕は一度ポテトを食べる手を止めて聞いた。


「うーん……リーナちゃん、どこか気になるところあった?」


 確かに、伊東さんが行きたいところにいくのがベストだろう。一応、この町の案内ということなんだし。三人の視線が伊東さんに集まる。


「……では……駅前にあったカラオケというところにいってみたいです」


 少し考えたあと伊東さんはそう言った。


「日本では一般的な遊びなんですよね? でも、私は行ったことがないので……」


「カラオケ? 行こ行こ!」


 日野さんも乗り気みたいだ。僕も歩き回るのは少し疲れたし、カラオケには賛成だ。優は一瞬渋い顔をしたが、反対はしなかった。



















 ◆



 カラオケ内にタバコの匂いと……優の汗の匂いが立ち込めた。……次第に気にならなくなるだろうから問題はないと思っておこう。


「今日は個人戦にする? チーム戦にする?」


 席につくと、日野さんがそう言ってきた。

 多分だが、チーム戦とはみんなで一緒に歌ってワイワイすること、個人戦とは採点機能を使って点数を競いあうことを指すのだと思う。


「とりあえず、チーム戦かな? 伊東さんもカラオケはじめてだし」


 そう言って伊東さんの方を見ると、カラオケに来たのが余程嬉しいのかボーッとしていた。顔まで赤くなっている。幸せそうにしている伊東さんは、先程までとは違う雰囲気で、これはこれで可愛かった。


「リーナちゃんもチーム戦でいい?」


「……は、はい。なんでも構いません」


 日野さんに話しかけられて、一瞬意識を取り戻したが、またボーッとし始めた。そんな伊東さんを見ながら僕は席をたつ。


「僕は先に飲み物とってくるよ。みんななにがいい?」


「あ、私もついてく。リーナちゃんと水野くんで先に曲いれておいて」


 日野さんもばっと立ち上がる。いっきにコップ4つは厳しいものがあったのでありがたい。飲み物の希望を二人から聞いて一度部屋を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る