第6話

 ピコン。


 リビングのテーブルで宿題をしようと英語のノートを開いたとき、スマホの通知音がした。


 なんだとと思い見てみると、『ひかり から2件の新着メッセージがあります』と表示されている。


「ひかりって……日野さん?」


 と、呟く。

 そういえば、今日、休み時間も優に購買とか、先生に提出物を出すから着いてこいだとか言われてばたばたしてたから、日野さんに宿題見せてもらったお礼とかしてなかったなぁとぼんやりと思う。


 お礼しなくちゃな、とラインを開く。


 その時、急に僕の視界は塞がれた。


「だーれだ?」


「だーれだ、ってこの家のなかには僕と美夜みよしかいないだろ?」


「ばれちゃったか~」


 てへ、と舌を出しておどけて見せたのは月野 美夜。髪をツインテールにしている。僕の妹だ。中学三年生なのだが、ある時期に部屋から出てこなくなった。まだ、家の外には出たがらないが、家のなかをパタパタとあばれまわるくらいにはなってきている。


 そして、もう一つ。

 僕がいうのもなんだが、美夜は極度のブラコンだ。


「おにいちゃーん! ギュッってして!」


「ダメだ。美夜ももう中学最後の年なんだぞ。お兄ちゃんばなれしなさい」


 めいっぱい手を広げて俺の膝の上に向かい合うように座った美夜の肩に手を置いて言う。


 美夜は口を尖らせた。


「お兄ちゃんのけち」


「けちで結構。それよりも、お風呂のお湯いれてきてくれるか?」


 僕が言うと、「じゃあ、頭なでなでして」と頭をつきだしてくる。


 うーん。しょうがないな……

 僕もやはり美夜には甘いのかもしれない。


 なんといっても可愛いしね。


 僕は美夜の頭を優しくなでてやる。


 美夜は気持ち良さそうに目を細める。


「はい、おしまい」


「え~。あとちょっと!」


 30秒くらいして、なでるのをやめると、美夜が「もうちょっとだけ」とねだってくる。


「じゃあ、お風呂のお湯いれてきた後でな」


 と僕が言うと、美夜はパタパタとお風呂の方へ走っていき、すぐに戻ってきた。


「続き!」


 と、僕の膝の上に腰掛け、背筋をピンと伸ばす。


 結局、このあとしばらくして、美夜はテレビをつけて俺の膝の上で見始めた。

 その間も僕は頭をなでることをやめさせてもらえず、もう勉強どころではなかった。



 ようやく、美夜がお風呂に入りにいったので解放された。


 だが、「お風呂から上がったら、またなでてもらうから」と言われたので一時的な解放でしかない。


 頭をなでてもらうのがそんなに良いのかはよくわからないが、とにかく、早めに明日の英語のための宿題をやっておかなければならない。


 そうこうしてるうちに、僕は日野さんからのラインの存在を忘れていっていた。

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