第2話

「え、それだけ?」


 私は思わず、そう口に出してしまった。

 幸いなのか、目の前の彼は私の漏らした言葉に気づいていないようだ。真剣に本を読んでいる。


 そんな彼を私はじっと見る。


 月野 影くん。それが彼の名前だ。今年はじめてクラスが一緒になったものの今日まで話したことはなかった。


 今日までのイメージとしては、物静かで友達はそれほど多くない。たまに水野君と話しているのを見るくらいだ。


 そんな彼に私はついさっき「おはよう」と言った。


 しかし、まず、数回は話しかけていることに気づいてもらえなかった。


 そして、やっと気づいてもらえたと思うと、そっけなく「おはよう」と返されただけだった。


 こんなことは私にとってはじめてだった。


 いつも、私が話しかけるとみんな嬉しそうに会話を続けようとしてくれる。


 しかし、月野くんは私の顔をちらっと見て、挨拶を返し、すぐに自分の世界に戻ってしまった。



 もしかして、これが、噂に聞く「嫌われる」ということなの!?

 私は突然そう思った。

 そして、不安になってきた。


 自慢じゃないが私は今まで嫌われた経験がない。

 だから、私にとって嫌われるということは命を脅かすほどのものに思えてしまったのだ。


 いや、でも挨拶は返してくれたし、嫌そうな顔もしていなかった……よね……?

 私は、嫌われているはずがないと思おうとする。


 しかし、私の中に芽生えてしまった不安の種はもうどうすることもできない。


「ねぇ、月野くん。」


 私は不安を払拭しようともう一度自分から話しかけることにした。


「それ、なに読んでるの?」


 私は指さして尋ねる。


 笑顔でだ。


 私も自分が可愛いと言われる部類に入ることはわかっている。


 そして、笑顔には自信がある。


 お姉ちゃんも可愛いと言ってくれる。


 この笑顔なら……と思い尋ねたのだ。


 しかし……


「パーリー・ポッター」


 彼は私に見向きもせず、そう答えただけだった。


「え?」


 動揺しまた思わず声が出てしまう。


 それと同時にやはり彼は私のことが嫌いなのではという不安が大きくなっていく。


 いや、まだわからないわ。

 まだ、二回しか、話しかけていないじゃない。


 私は自分にそう言い聞かせて、


「パーリー・ポッターは私も映画を見たことがあるわ。鼻がない敵が怖いよね」


 とまた話しかける。


「そうだね」


 やはり、彼はそれだけしか言わなかった。


 私は確信した。


 今まで私からの言葉を三回も聞き流した人はいなかった。


 だから、三回も聞き流した彼は私のことが嫌いだと。


 私は嫌われているということが怖かった。


 それなら……


 今から仲良くなるしかないわね。


 我ながら単純だ。


 しかし、それに勝る案は無いように思えた。


 私は月野くんと仲良くなろうと決意した。

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