皆が優良物件をすすめてくる
砂山一座
プロローグ
門から屋敷までの道のりは長い。
およそ手入れをしているとは思えない、
訪れるものを拒むように森が続き、曲がりくねった道の先は見えない。
(商家なんて、客商売なのになぁ)
などと、のんきなことを考えて足を動かすが、まだ先が見えない。
入口が
まぁ、私のような迷惑な客人には相応しいのだ。
大昔の約束を、当事者でもない世代に突きつけるわけで、招かれざる客に違いない。
相手にとって到底飲み込めないような要求を掲げているのに、私が単独で外国であるカヤロナ国に乗り込んできたのは、商人にとって契約書が何より重いからだ。
この大陸の商人達は、紙面上の取り決めを極力、尊重する。
信用を失えば職を失うのがこの辺りの国々の商人の常識だ。
私は
契約書通りに利のやり取りを
それを頼みの綱にやってきたのだから、借金帳消しの所だけは呑んでもらわなければ。
本来、私一人が身を売ったところで、どうやっても払いきれないような額の借金なのだ。
それを結婚で帳消しにしてくれるなんて、破格の申し出だと思う。
祖父もカヤロナの商家も、どうして麦の穂で城を買う様な契約を交わしてしまったのやら。
祖父に温情をかけたようには見えないし、そもそも取引だって、後にも先にも
どうして紙面にしてまで、こんな契約を残したのか。
疑問はあるが、とにかく行ってみないことには話が進まない。
長い道の先に、石造りの美しい屋敷があった。
左右対称に建てられた屋敷の他にも何棟か建物が並ぶ。
森の入口で使用人と名乗る人に先触れをしてもらっていたので、遠慮なく叩き金をドアにたたきつけ来訪を知らせる。
しばらくすると、少し軋む音をたてて、バタバタと足音が聞こえ、厚い扉が内側に開かれた。
そこには、顔、顔、顔、顔。
男性ばかりがわらわらと集い、私を覗き込んだり見上げたりしている。
それぞれに整った容貌をしているが、髪の色も目の色もそれぞれで、似ている感じはしない。
誰も声をあげず、
「私、シュロの商家のサリと申します。先代の結んだ誓約書通り、こちらに嫁ぎに参りました」
おぉー、と低い嘆声がそれぞれから洩れる。
「ほ、本当に……」
「話には聞いていたが……」
「そうか、国外という手が……」
モゴモゴと驚きの顔で各々何か言っているが、招かれざる客に対して、というには語調がおかしい。
客間らしき部屋に通されると、先ほどの先触れを頼んだ使用人が、にこにこしながら香りの良いお茶を出してくれる。
まあいい、拒まれようが、歓迎されようが、やる事と覚悟は決まっている。
契約書通りなら、親子ほど歳の離れた相手の花嫁となる手筈だ。
「私、この国に骨を埋めるつもりで参りましたので……」
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