第5話

side 春宮紫苑

ベルのやらかしの始末を終えた後、焼けたコボルト達にトドメをさしていく

生命力が強いのは流石魔物といったところか。あれだけの炎を受けても死んでいない個体がいくつかいた。僕が持ってきた盾なんて木製だったためか消し炭になっていたというのに


「コボルトの毛皮はダ目そウダが、魔石は大丈夫ソうだな」

「おい、解体は全員にトドメをさしてからだろうが。全員死にかけとは言え魔物だ。何があるか分からないだろう」

「分カってるよ。てッイうかお前、魔術使エたんだナ」

「魔力が少なすぎて全然使えないがな。今日はもう無理だ」


一応、こっちに来てからも色々と努力しているんだが成果が見られる兆しはない


「まあ、それに詠唱しな―


背中に突如切り裂かれた感覚と何かが染みる感覚、少し遅れて激痛がした

痛みをこらえて振り返るとそこには血の滴らせた爪をした黒いコボルトがいた。遠くからも二匹やってきている

…どうやら生き残っていたようだな


 ▼△▼


黒いコボルト達は全身にひどい火傷を負い、よく生きているな、と感心してしまうほどだった

武器を持っているのは一匹でメリケンサックだ

持っているというよりはくっついているといったほうがいいかもしれない


「“〈キュア・ポイズン〉”……大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。ありがとう。……しかし、コボルトって毒なんて持っていたか?」


コボルト達と距離をとり、ベルに解毒してもらう

先程染みる感覚がしたのはコボルトの爪の毒のせいらしい

軽い毒だったらしく簡単に解毒できたようだ。傷はそこまで深くないので放置している


「さぁな。進化したやつならあり得るだろう。…でもあいつらコボルトか?いくら何でもあれだけの炎食らって生きてるのはおかしいぜ」

「もしかしたらそもそもコボルトじゃないのかもな。何か別の魔物じゃないのか?」

「そんなのってここら辺にいたっけなぁ…?まぁ、いいや。さっさと終わらせるぞ」


同感だ。早く終わらせて帰ろう。今日は早く寝たい気分だ


▼△▼


黒いコボルト?達が吠えた

己らを鼓舞しているのだろう

大地を踏みしめ、駆けてくる

速い

全身火傷で瀕死とは思えない動きだ

三匹同時に爪を立て、牙を剥いて襲いかかって来る

無我夢中で剣を振り、コボルト?の攻撃を弾く

近すぎてベルの援護は期待できなそうだ

攻撃は激しく火傷で弱っていなければ殺されていただろう

だが、確実に言えることがあるならこの状況は限りなく僕に有利だということだ


 ▼△▼


固い物と固い物のぶつかる音はまだ途切れない

さっきから同じことの繰り返しだ

弾いては弾かれ、避けては避けられて

実際にはとても短い時間だったのだろうけどすごく長い時間を過ごした気がする

ネジの切れたブリキ人形のように一匹が血を吐いて、倒れた

残りの二匹も同じような状況だろう。しかし、弱ったそぶりは見せずに苛烈に攻撃を仕掛けてくる

だけど、一匹抜けたおかげでかなりの余裕ができた。このチャンスを逃すわけにはいかない…!

剣を強く握り、振る

コボルト?達は瀕死でロクに力が入っていないため簡単に攻撃が弾かれ、吹き飛ばされる

その隙を逃すほど間抜けじゃあない。瞬時に間合いを詰めて剣を突き刺す

オークの時と違い、すんなりと貫くことができた

残り一匹…、と目を向けるとすでに矢達磨になって事切れていた

…あれだけ苦戦を強いられたというのにあっけない最後だったなぁ

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