第二章 ■■■■■

第1話

side 春宮紫苑

冒険者と言えば何を思い浮かべるであろうか

華々しい冒険譚だろうか、それともダンジョンや魔境に挑み、まだ見ぬ強敵と戦っている姿、もしくは膨大なお宝を見つけ、大金持ちになっている姿であろうか

残念ながら僕はどれにも当てはまらない

何故なら僕は今―


「シオン!コレを裏のクず箱に入れとイテくれ!」

「分かりました!」


―必死こいてバイトに精を出しています


 △▼△


僕は今、シオンという名前で冒険者をしている

冒険者とはファンタジー小説で定番の職業のアレだ

活動しているのはアルファード王国ではなく、アルファード王国の西にあるラックルス都市国家だ

正直なところもっと離れたかったのだが、団長から貰ったお金が半分以上使ってしまったので今、稼いでいるところだ

ランクはE+ランクなのだが、冒険者になってまだ一ヶ月なので早いほうらしい

しかし……、低ランク冒険者は日雇い労働者と大差がない

何故って?

稼げる仕事のほとんどがバイト、それもほとんどが日雇いだからだ

一応、長期はあるにはあるが数がとても少ない

モチロン、採取や討伐などのTHE・冒険者といった仕事はあるのだが安すぎる

例えば、討伐では

ゴブリン5匹で3000ゴルド

採取では薬草を10株500ゴルドとなっている

結構簡単に見えるかもしれないが、草なんてどれがどれだか分からないため、一日中探し回って全部間違っていたなんて結構あり得る話だ

実際に僕もギルドに入りたてのときにやらかして一日の稼ぎがゼロになったことがある

一方、日雇い労働はだいたい3000~6000ゴルドになる

一番低くてもゴブリン討伐と同じくらいである

おまけに昼食込みだ

食事は自炊すれば安いが、今は自炊出来ないので、結構お金がかかるのだ

そして、討伐や採取では怪我をしたり、武器や道具の買い換えが必要になるかもしれない。こういったものにかかる金は馬鹿にならないのだ

こんなのバイトするしかないだろう

と、言うわけで僕は今日もバイトに精を出す


 △▼△


「シオンさん。バイトの方が稼ゲるのは分かリマすが、少しは討伐とか、採取とかしてミたらどうですカ?」


バイトを終わらせ、報酬を受け取るためにギルドにきたら受付嬢にそんなことを言われた


「何でだよ。別にしなくともランクは上がるんだろ?じゃあ、危ない橋を渡らずにやった方が良いじゃないか」

「いや、そのママバイトばっカりだとランク上がりませンよ?」


そう言われてもなぁ……

最初の頃は不満だったが、こっちの方が良いくらいだ

戦うことの何千倍も楽なんだからな


「むゥ~~。何でこんナにあなたのこトを思って言っていルノに聞いてくれないんでスかぁ~~。シオンさんの馬鹿ーー!」


あ、やべ

泣き始めた


「おうおうシオン、テメエ、サティちゃん泣かすトハいい度胸だナ!」

「そウだぜ。お前いつもやッてないんだからたマニはやれよな、腰抜け!」

「そうだソうだ!」


ギルドの花である受付嬢が泣かされたことにより周りの冒険者達が騒ぎ始めてしまった

しかも、騒ぎを聞きつけて併設された酒場にいた奴らまでこちらに来ている

……はぁ、仕方ない

適当にゴブリン退治でも受けとくか


「分かった、分かった。受ければいいんだろ?」

「あ、じゃあコの依頼お願いシマすね♪」


嘘泣きかよ

むかつくなぁ

しかも何か押しつけられたし


 △▼△


あーくそ、やられた

今回受けた依頼はコボルト退治だった

コボルト、一言で言うと人型わんわん

大きさはゴブリンと同じくらいで上位種になるにつれ大きくなり、狼のような風貌になる魔物だ

依頼の内容を確認するが、何もおかしいところはない

強いて言うなら討伐する数が10匹であることくらいである

期間は今日含め4日

頑張らねば


 ▼△▼


そんなことを考えているとどうやら宿に着いたようだ


「ん?ああ、帰ってきたのカイ。晩飯はどうスる?」


宿屋の女将さんが愛想よくコチラに聞いてくる


「ああ、お願いします。800ゴルドでいいですか?」

「ああ、大丈夫だよ。それジャあ、食事の時はこノ券を渡してオくれ」


財布から銀貨を八枚手渡し、木でできた券を渡される

明日のこともあるのでさっさと食事を済ませて寝てしまおうと部屋に戻り、荷物を置く

僕が泊まっているのは大部屋なので自分の使っているエリアを間違わないようにしないといけないのが面倒くさい

まあ、一拍900ゴルドとかなり安いのだけどな

個室に泊まればここはだいたい2500ゴルドはかかるのだ


あと、今日の晩飯は硬いパンと具だくさんのスープだった

結構美味しかった


 △▼△


翌朝、僕はいつもより早く起き、門へ向かう。今はだいたい5時くらいか

普段はだいたい6時に起き、9時くらいから仕事といった感じだったので朝がつらかった。一時間早起きしたのは言うまでもないほどつらい


 △▼△


門番に冒険者カードを見せ、外に出る

冒険者カードとは冒険者になったときにギルドから渡された魔道具だ

普段はただの板きれだが、所有者の魔力を流せば、所有者の冒険者ランクや受けている依頼、討伐依頼ならどのくらいの魔物を倒したか分かる優れものだ

門番にOKを出され、門の外に出る

夜は門が閉められるので、さっさと終わらせよう。野宿だけは勘弁だからな


 △▼△


コボルトはゴブリンと同じく群れて生活する

そして、巣の外でも3~5匹ほどの集団で動いている

だから、1匹見つけたらゴブリン同様結構早いのだが、なかなか見つからない

門の外は平野なので見張らしは良いから直ぐに見つかると思ったのだが、なかなか見つからない

…まあ、根気よく探せば見つかるだろう


 △▼△


「グキャギャギャ!」

「ギがギギ――

「ええい、うざいんだよ!」


剣を振り回し、ゴブリンの頭を砕く

さっきからゴブリンとしか遭遇しない

依頼は複数受けれたのでゴブリン退治も受けとけばよかったな…


「ガガギ―

「逃がすかよ!」


最後に残ったゴブリンが逃げようとするが、逃げられると面倒なので、キチンと仕留める

特に怪我することなく倒すことができた

さて、少し疲れたがさっさと解体してしまうか


 △▼△


倒したゴブリンを一つの場所に集め、並べる

倒した数は三匹

ゴブリンからとれる素材は魔石くらいなものだ。直ぐ終わるだろう

ゴブリンをナイフで解体していく

……ああ、血でべちょべちょして気持ちが悪い

おまけに肉を切る感触もぜんぜん慣れない

早く慣れなくちゃな……

……お、あった

心臓に小石サイズの魔石があった

魔石とは、全ての生物の体内のどこかにある魔素の塊である。魔力が多ければ多いほど大きくなるため、魔力を多く含む魔物の魔石は他の生物と比べ大きくなる

そして、魔石は主に魔道具の燃料や魔道具の素材として取引されている

まあ、魔物という他の生物と比べ多くの魔力を持つとはいえゴブリンではとても小さいのは仕方がない

しかし、それでも重要な収入源であることに変わりはない


そのまま他の二匹を解体し、二つの魔石をとることができた


 △▼△


「おや、シオンさん。どうデシたか?」

「ゴブリンばっかりでコボルトはいなかったよ。あ、ゴブリンの魔石の買い取りお願い」

「分かりマした。…しかしコボルトが見つからなかったのでスか。確かに地に潜っていタリするので見つけにくい場合もありリますが、討伐のしなさすぎですヨ。これからはキチンとバランスよく依頼をこなしてクダさい」


ぐうの音も出ない

流石に高をくくりすぎたか


「ゴブリンの魔石が14個で2500ゴルドになリマす」

「……安いな」

「仕方ないデすよ。ゴブリンなんですかラ」

「それもそうか……。あと、ゴブリン退治の依頼も受けたいんだけど」

「ゴブリン退治ですか。別に大丈夫でスヨ。では冒険者カードを出シて下さい」


冒険者カードを受付嬢に手渡す

向こうは手慣れたものでさっと冒険者カードに依頼を追加する


「…ハい、終ワりました。明日も頑張ッてくだサいね」


頑張りたくないです

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る