運命【4月20日をテーマにショートショート】


わたしはマボロシの郵便配達員。


宛名のない手紙を見つけ出し、

その願いを叶えてくれそうな相手に届けにゆくのだ。


届け先はどこだって問題ない。


地の底から空の彼方まで、どこでも郵便を届けることができる。

もし、海の人魚から雨が降らず困っているという手紙があったなら、

一目散に空の神様に伝えて、雨を降らすことだってできる。


手紙の差出人は、いつもてんでバラバラだ。

けれど、最近では人間がいちばん多いような気がする。

近頃の人間は、いろいろ望みすぎているに違いない。


わたしは毎朝、珈琲とトーストを摂る。

珈琲には牛乳をたくさん入れて珈琲牛乳に、

トーストにはジャムをこれでもかという程塗りたくっている。


こうしないと、身体がもたないのだ。

配達員は、じゅうぶん体力仕事である。


今日の仕事は二件だけ。差出人は、両方とも人間だ。


一つは、女子大生から。

《 やりたいことが見つかりません。どうしたらいいですか。》

もう一つは海外で働く青年から。

《 僕は青年海外協力隊に参加しています。

そこで、もっと世界を救いたい。なのに人が足りません。》


ふむふむ。どうやら今日は早く終わりそうだ。


帰ったら、お気に入りのバニラアイスにウイスキーを

数滴たらして頂こう。映画を見るのもいいかもしれない。



わたしは早速、二人の手紙をお互いに届けることにした。

きっとこれで充分だろう。


少女は海外で人を助ける使命に導かれ、

青年はその少女に手伝ってもらえばよいだけだ。


こうやって、わたしが思いのままにやったことを

人間は「運命」と、勝手に呼んでいるらしい。

命れいを運んでいるだけなので、あながち間違いではないが。


・・・


数か月後、また同じ二人が差出人だった。


こいつらはこの前届けたばかりだろう。

しぶしぶ二通の手紙を開いて読んでみる。


まずは女子大生から。

《 青年海外協力隊に参加してみたのですが、思っていた世界と

違いました。どうしたらよいのでしょうか。》


次は青年の手紙だ。

《 優秀な人材が足りません。もっと世界を救いたいです。》


こいつらは何をしているんだ。

お互いの想いを叶えてやっただろうに。


そもそも、自分で動いて何かを生み出したことがあるのだろうか。

人間には、なかなかわがままな奴が多すぎるんだ。


わたしは、二つの手紙を暖炉に投げいれて、灰にした。

そしてジャムたっぷりのトーストに嚙り付き、

珈琲牛乳で流し込んだ。



このように、運命はときどき気まぐれだ。

二度目はないこともある。


だから、自分で探しにゆくのだ。




ーーーーーー

4月20日は、

郵政記念日

女子大の日

ジャムの日

青年海外協力隊の日

珈琲牛乳の日


これらのキーワードをつなぎ合わせてショートショートを書いてみました!


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ウ〇コ時間に読めるショートショート けったいん @kettain

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