4.最後の一杯:アフター

【アフターストーリー】


 酒場に着いた後、ナナは気づく。


(そういえば、あれって間接キスじゃ……)


 あの時、同じグラスで飲み合ったことを。

 

(……間接キス? )


 アロイスは、グラスの別縁からじゃなく、私が飲んだ所を間違いなく飲んでいた。


(……ッ!)


 ナナは、思わず流し台でグラスを洗うアロイスを見つめた。


「ん、どうした」


 すると、それに気づいたアロイスがこちらを見つめた。

 ナナは慌てて「何でもないです!」と言って顔を伏せた。


(か、間接キス……)


 "そういう体験"がほとんど無かったナナにとって、それは中々な体験だったらしい。


(アロイスさん、私の飲んだところから飲んでたよね……。間接キス……)


 顔を隠しながら、そーっとアロイスの顔を眺める。彼の桃色の唇に、視線を集中してしまう。


(何も言ってこないけど、二人でひとつのグラスを飲むときはアレがマナーなのかな。それとも、私が気にしすぎてるだけかなぁぁ……)


 とってもモヤモヤする。

 アロイスは惜しげもなく私が飲んだところから一気に飲んでいたけど、何も思っていないのかな。


(それって私は女子として見られてないってことじゃないかな……。そうなのかな……。あーうー……)


 頭を抱えて考え込んでしまう。

 ……しかし、その悩ませる男の頭の中にも、そのモヤモヤが同じようにあったりして。


(参った。あんな風に顔を隠してるってのは、俺を気持ち悪がってるってことだよな)


 アロイスもまた、彼女の様子を見て、悩んでいたり。


(やっぱり、ナナの飲んだ場所を避けて飲むのは、彼女の性格から嫌だと思って同じ縁から飲んだけども、気持ち悪がられていたか……)

(アロイスさん、私を女子だと思っていないのかなー……)

(あ、後で謝った方がいいのだろうか)

(……ダメだ、モヤモヤする)

(ダメだ、このままじゃ)


 二人は、覚悟を決めて声を揃えた。


「アロイスさん、私って女子っぽくないでしょうか!」

「ナナ、俺って気持ち悪かったよな。すまん!」


 重なった声に、二人は「えっ」と再び声を揃えた。


「ア、アロイスさんが気持ち悪いって、気持ち悪いことは何もしていませんよ?」

「ナナも女子っぽくないって、女の子らしい女の子だぞ?」

「……えっ」

「……えっ」


 二人とも悩む必要はない。

 ただただ仲が良いだけだから。


………


【 アフターストーリー 終 】



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