月と雪と君

Khronos

〜永遠の満月の夜の中で〜

雪が降りしきる中、私はマンションまでの道を歩いていた。この辺りは最近物騒で、空き巣が相次いでいるらしい。

私達の部屋も最近荒らされていた。また、何かで引っ掻いたような痕が残っていたらしい。


「ふぅ」


ようやくマンションが見えてきた。部屋ある階を見上げ、恋人である優斗が帰っているかを確認するが、電気はついていない。


「あ、満月だ。綺麗だなぁ」


そういえばニュースで、今日はスーパームーンだと言っていた気がする。

優斗と暮らし始めて半年。しかし、彼の仕事は出張が多く、一ヶ月の1/3程は家にいない。寂しい思いもするが、私はこの生活に満足していた。


「ふぅ、やっと帰ってきたぁ」


1日の達成感に満たされながら、私はドアの鍵を開ける。部屋は闇に包まれ、やはり人の気配はしなかった。


「遅くても11時くらいには帰ってくるだろうから、晩御飯を作っておこう」


そう言いながら、リビングの電気をつける。そうして、リビング全体を見渡すと、一通の手紙がテーブルの上に置かれていた。


「何これ」


手に取り、便箋の裏を見ると、『冴へ』と、私の名前が優斗の字で書かれていた。私は慌てて、手紙を取り出した。


その手紙には、仕事が忙しく二人の時間が取れないこと、いつも家事を任せっぱなしで迷惑をかけていること、等を理由に別れよう、と書かれていた。


「なんでよ、私は幸せだったのに」


涙が止まらない。脳裏には、優斗と過ごした思い出が次々に甦ってくる。一緒に東京タワーに行って、夜景を見た初デート。二人でマンションの部屋を買った日。珍しく高級ディナーに行って、婚約指輪を渡された日。

どれも、私にとって忘れ難い大切な思い出。


「でも、優斗はそうじゃなかったの......?」


打ちひしがれる私の手には、優斗からの最後の手紙が握り締められている。


その手紙は次のように締められていた。


『冴、今までありがとう。

満月の夜に消えることをお許しください。

愛しています。』


泣きじゃくる声の中で、獣の遠吠えが聞こえた気がした。

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