3 満開の桜

 満開の桜


 古い竹宮小学校の校舎の庭には満開の桜が咲いていた。二人のいる図書室からは、その桜の木がよく見えた。ときどき、春の風に運ばれて数枚の桜の花びらが図書室の中にやってくる。(まるで春の訪れを告げる妖精さんのように)

 日差しは穏やかで、ぽかぽかとしていて気持ちいい。

 なんだか、ちょっとだけ眠たくなってしまう。(昨日は、ぐっすりとあんなに眠ったのに……)そんな春の午後の時間だった。


 竹は(笹野くんと二人だけのそんな幸せな時間を過ごした)笹野くんと図書委員の仕事終わりに、誰もいない教室で、二人で一緒に帰る準備をしながら、笹野くんから竹宮神社の伝承の話を聞いた。(二人は真面目なので、仕事中はあんまり無駄な話はしなかった)


 そしてその話のあとで、竹宮神社の伝承に出てくる、竹宮神社の中にある古い桜の木を、今度の日曜日に、二人で見に行くことになった。(その桜の木はどうやら、この間、竹が絵を描いたあの立派な古い枝垂れ桜の木のようだった)


 なぜそんな奇跡のような出来事がいっぺんに起こったのかというと、その竹宮神社の伝承には一人の神様のお姫様が出てくるのだけど、そのお姫様は『竹の姫』という名前をしていた。

 つまり、竹と同じ名前だ。

 そのことから、笹野くんは、どうやら竹の姫の伝説が残る、竹宮神社のある竹宮町に住んでいる、現代に生きる『豊田竹』という一人の女の子が、その竹のお姫様の生まれ変わり(つまり、『私の前世が竹のお姫様』だと笹野くんは思っている)だと考えているようだった。(きっと偶然じゃないよ。と言いながら、そんなおとぎ話を、やっぱりわくわくする顔をしながら、笹野くんは竹に言った)


 それが一番の理由になって、笹野くんは竹に竹宮神社の伝承の話をしてくれて、そして一緒に竹宮神社に行こうよ、と竹を誘ってくれたのだった。

 竹はもちろん、自分が竹のお姫様の生まれかわりだなんて、これっぽっちも思っていなかったのだけど、笹野くんから日曜日に二人でお出かけしようと誘われたので、すぐに「もちろん。大丈夫。いいよ」とにっこりと笑って、答えたのだった。(本当の本当に、竹はすごく嬉しかった)

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