第13話 空気も文字も読めない世界の名前をウチは知る

高3の秋、ウチは面接のみで受かる大学を選択した。


筆記試験など絶対に無理だと分かっていたためである。


そんなある日、ウチはとある先輩とかるたの練習に励んでいた。


そこでウチは人間関係が全く上手くいってない事をポロッとこぼす。


すると先輩はLINEにとある記事のURLを貼ってくれた。


その記事のタイトルには「発達障害」と書いてあった。


空気が読めない、冗談や嫌味が通じない、それ故に人間関係に支障が生まれるというもので、人によっては読み書きの発達にも影響が出ると書かれていた。


ウチの体験に当てはまるものしか無かった。もしかしてウチはこれなのか、発達障害について強い興味を持った。


先輩はオススメの病院を紹介してくれた。

それにしても、何故先輩がそれを知っていて、すぐにそんなURLが出せたのか。


それは、先輩も発達障害を持っていて、空気の読めない言動が多い事から、周りからは少し煙たがられていた。


ウチはその先輩の事は人として好きだったので、よく絡んでいたが、いつどこで空気読めない言動をしていたのか、さっぱり分からなかった。


そこから更に数日後、家で過ごしていると、母はとある新聞記事をウチに見せてきた。


それは、字を上手く読むことが出来ず、文字が歪んだり霞んで見える「ディスレクシア」という障害を持つ人が見える世界というもので、記事には文字が歪むイメージ写真が載っていた。


ウチは思わず叫んだ。

「これだ!!!!ウチもこう見えてるんだ!!!!!」


母がこの記事を見せてくれたのは偶然だと思っていた。


だが、どうやら母は前から気にしていたらしく、どこかでウチが文字の読みづらさについてこぼした事を、覚えていたらしく、ウチに記事を見せてくれたらしい。


これは数年後に知った事実である。






ウチは大学生になった。新しいキャンパスでの生活。


緊張しながら教室の扉を開けた。その瞬間、ウチは目をつぶった。


「眩しい……」


大学の教室は天井、床、壁までもが白1色であった。


光が全方向に反射する。目を刺すような明るさだった。


ウチは今まで昼間はカーテンを閉め切った暗い部屋でずっと過ごす生活をしていた。暗いのが好きなのだと自分で思っていたが違った。


ウチには視覚の過敏もあったのだ。


このままでは教室に入って授業が受けられないと思った自分はメガネの購入を検討した。


ブルーライトカットが入ったメガネを買った。

その時についでに、ウチは弱い遠視と弱い乱視を持っている事が分かった。


ブルーライトカットのカット率は弱めにした方が良いと目医者の人は言った。

カット率が強すぎると、外した時により眩しく感じてしまうからとの事であった。


そんな訳でウチは弱いブルーライトカットのメガネを購入し、教室に入る事が出来た。


大学ではレポート課題や、文献を漁る事が非常に多く、ウチには中々しんどかった。


なのでウチは大学に正直に自分の症状を打ち明け、今の課題や授業が辛いことを伝えた。


すると大学はすぐに対応してくれて、手書きではなくタイピングでの提出を許可してくれたり、そもそもの課題内容を変えくれたりなどの対応を取ってくれた。


そしてウチは、病院で診断を受けたいと思うようになり、両親に相談した。


母は前から薄々感じていたらしく、OKしてくれた。


しかし、ここで首を縦に振らなかったが父である。


父は言った。

「障害がつくことで逃げる気じゃないのか?」




逃げる?


今まで辛いことを耐え忍んできて、限界がきて、そもそもの原因が分かりそうなのに、何故その道を塞ごうとする?


仮にそれを逃げと呼んでも、それの何が悪いと言う?





ウチは怒りが込み上げたが、父に反抗はしなかった。どうせ言ったところで無駄だと何年も前から悟っている事だ。


だからウチは母に陰ながら相談し、病院に行く機会を窺った。


そしてウチと母は病院に行き、検査を受けた。


簡単な2択質問や、パズルを使った知能検査、記憶力テストなど、様々な事をやった。





それから1ヶ月後、結果が出た。









結果は「高機能自閉症」という診断が下された。


コミュニケーション障害、言語コミュニケーションの遅れ、想像力も大きな問題があり、人との関係性を作ることが非常に困難であるとの診断であった。


また、過去の経験から強い劣等感を抱いていて、細かい事にすぐ気づくが、猜疑的な面があるとの事も分かった。




最初の感想としては、診断がついて良かったという気持ちだった。


今まで辛かった経験に理由がついた。それが何よりウチには大きな事だった。


家に帰り、ウチは父に結果を報告しようと、まず病院に行った事を伝えた。


父も病院に行ったことには気づいていたが、止めなかったのは、行った以上止めてももう遅いと分かっていたからだろう。


父はウチから診断結果が出たと言うと、すぐに口を開いた。


「そう(障害)じゃないって言われたんでしょ?」


やはり父はそう思っていたのだ。

ウチは父から目を逸らさず、淡々と返した。


「そう(障害)だって言われたよ」


そう言って診断結果が書かれた紙を渡した。


父はしばらくそれを見て、結局何も言わなかった。


ウチは伝える事は何も無いと、無言で自分の部屋に入っていった。



ウチはこの日から発達障害、ディスレクシアを持つ者となった。


誰が何と言おうと、これがウチであるのだと。

絶対にブレない芯を持てた気がした。

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