第12話 字の読めないウチは青春を懸ける 前編
ウチは高校3年生になった。
新入生を迎えたと思ったらすぐに県予選。相変わらず慌ただしい。
今年は新たな高校も増え、予選は更に激化した。
前回危なげなかった1次予選すらもギリギリで通過するという綱渡りっぷりだった。
さて、ここからが本番の2次予選。前回同様、勝ち上がった6校が2グループに分かれる。
くじ引きが終わった後、誰かも分からない声が、ウチらのブロックを見たのか、フッと聞こえた。
「死のグループだ……」
確かに。特に秀でていた強豪校が固まってしまった。
ただ、やる事は変わらない。
(以下、同グループの高校名を甲、乙と表現する)
まずは甲と乙の試合。3-2で甲の勝利。
次にウチらと甲の試合。ウチは向こうの主将が相手だ。長期戦を覚悟した。
チームメイトはとても頼もしく、次々勝利を決め、ウチ以外の4人は割とすぐに抜け、3ー1と、最後までもつれる事無く、勝負がついた。
ちなみにウチは運命戦まで試合が続き、辛勝。
ウチらと甲は、4ー1で勝利を飾った。
次は乙との試合、乙は先ほど1敗していて後がない。
迫り来る鬼気は軽く引いてしまうものがあった。
ウチは下のランクである2年生が相手だ。そこまで苦戦せずに勝利。
だが、この時既にチームとしてはやや押されていて、ウチが抜けた事で、戦況は2ー2となっていた。
残り1人は我がチームの主将。同ランクの相手との対戦。運命戦までもつれ込んだ。
これが出れば決勝……!!そう思いながら見守った。
負けた。
女神は微笑まなかった。乙との結果は2-3。
ウチらのグループリーグの最終結果は、まさかの三つ巴となった。
ここで大事になってくるのは、全チームが1勝1敗という成績で並んでしまった以上、各校それぞれの勝ち数で差をつける。
ウチら (4-1、2ー3)→勝ち数 合計6。
甲 (3ー2、2ー3)→勝ち数 合計5。
乙 (3ー2、2ー3)→勝ち数 合計5。
あの時の甲との運命戦の1勝で差がついたとは…。ウチ自身がびっくりだ。
ウチらは1位通過で、決勝に駒を進めたのだ。
※余談ではあるが、もしウチが運命戦で負け、甲との試合が3ー2になっていたら、全チーム勝ち数も同じになってしまい、次の判断材料は主将の成績となる。
そうなっていた場合、ウチらの主将は先ほど乙との試合で運命戦で敗北しているので、もしそうなっていたら、ウチらはブロック内ビリで予選落ちだった。
いよいよ決勝。もう片方のブロックの1位通過の高校と対決だ。
ウチの対戦相手はまたしても主将。運だから仕方ないが、これはまた長くなるぞ……。
対戦は荒れに荒れた。試合の状況は、現在互いに1人ずつ抜け、1勝1敗。
しかし、ウチを含めた残り3組は、運命戦の1歩手前まで来てもまだ決着がつかない。
そしてウチは……またしても運命戦にまでもつれ込んだ。
また重くのしかかる空気。
すると、隣から声が聞こえた。
「2勝!!」
勝った。ウチらのチームが運命戦に入る前に1勝をもぎ取った。
残りはウチと後輩の2人。後1勝。どっちかが勝てば良い。少し気が楽になった。
しかし、ここでウチはとんでもない事実に気付いた。
自分の対戦相手と、後輩の対戦相手の札を見る。
「札合わせになっている……!?」
※解説。
競技かるたでは、競技時間短縮のために、全組使う札は予め同じに揃えているので、終盤になっても残っている札は全組同じ。
そして、自陣の方が敵陣より近いので取りやすい。
そこで、味方同士で札の現在位置を互いに確認し、運命戦になっても味方同士の札が揃っていれば、1勝2敗で追い込まれても、揃えた札が出れば、一発逆転でチームは勝利出来る 。このテクニックを「札合わせ」と呼ぶ。
札合わせの進行を相手校にスムーズに行わせない事をウチらとしてはやらなければ本来いけないのだが、さっきまでもう1組残っていたため、どこがどう勝ち抜けるかという見定めなど出来るはずが無かった。完全にマズい状況だ……。
自陣の札が出ることを祈るしかない。それしかやれる事がない……。
目の前以外、何も見えない。札は更に歪んできた。
「出てくれ…出てくれ……」
誰にも聞こえない声で、弱々しく何度も呟いた。
いざ、勝敗の時ーーーーーー
ウチは負けた。
またしてもダメか…そんな時、後輩の方から声がした。
「私は今 下から入りました」
「いや間に合ってないです。先に触ってます」
揉めている。
競技かるたは基本審判がいないので、どちらが取ったかは自己判断に委ねられる。その意見が食い違った場合、「揉め」と呼ばれる話し合いで解決する。
どうやら最後に出た札をどちらが先に取ったかで揉めているようだ。
ウチは負けてしまったので、現在チームの状況は2勝2敗。ここで勝った方が全国大会への切符を手にする。
お互い譲る訳が無い。
すると、どこからか声が聞こえた。
「審判に聞いてください」
こういった運命戦では度々揉めが発生するので、特例として、運命戦には各組に審判がつくことになっているが、自己判断、互譲の精神に則り行っているので、審判は明らかに事実と違っても、意見を求められない限りは、ジャッジを自ら下してはいけないのだ。
今回は役員が見兼ねてこのような指示を出したのだろう。
その声が聞こえた時、全員の視線は審判に集まる。
審判はゆっくりと口を開き、答えた。
「こちらの取りです」
そう言って手を伸ばしたのは ーーー
ウチらの方だった。
後輩からは「3勝!!」という大きな声が響き渡る。
ウチらは抱き合い喜んだ。見ていたチームメイトたちも涙を流しながら駆け寄って来た。
ウチらは2年連続で全国大会への出場が決まった。
手にした優勝カップの感覚は今も思い出せる。
そしてウチは、去年のような腑抜けた事はしないと、予選からの帰り道、何度も言い聞かせたのであった。
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