第10話 空気の読めない世界でウチは人を知る

ウチは第1志望の高校に入学した。もちろんかるた部に入部した。


だがちょっと問題があった。


部員は全学年合わせて15人、男女比率は……





1:14





男子はウチだけだったのだ。どうやら13年振りの男子部員だったらしい。


そして、ここでハーレム的な展開になるかと少し期待はしてみるも、そんな現実は甘くない。


むしろ男子であるウチはあんまり人権無かったかもしれない。


というかどっちかって言うとウチが1番女子扱いされていたかもしれない。


多分女々しいからだと思う。部員1の女子力キャラとして扱われていた。


ウチはかるたに毎日毎日没頭し続け、メキメキと強くなった。


初心者の大会でもそこそこ良い成績が取れた。


1年生はウチを入れて8人。

ウチより圧倒的に強い経験者が1人、

100枚覚えてるけど、経験があまりないのがウチ。

残りは競技かるた自体が初めて。→6人。


ウチは1年生の中でナンバー2の立ち位置だった。


そして5月、全国高校選手権の県予選が行われた。


県代表の1校決める、いわゆる野球で言うところの、甲子園の予選である。


大会は団体戦で行われる。各校代表者5人が1〜5までの好きな番号に横並びで座り、同じ番号に座る相手校と対戦する。


試合は5組同時に行い、3勝した学校の勝ちである。


先輩たちが全青春懸けて挑む姿を1年であるウチらはただ見ていた。


入って5月にいきなり大会や、それに対する重みも良く分かってなかったのは内緒である。



結果は準優勝。決勝で2ー3と、惜しくも落としてしまい 、最後の最後で、切符を逃してしまったのだ。


つまり、3年生はもう引退。5月の中旬で。


早過ぎないか?ウチはそう思った。大会に関する事も色々と理解が追い付いてないのに、そんな事まで叩きつけられるのか。


閉会式後の部活の集まりでの挨拶で、2、3年生は泣いていた。


この大会は涙を流す程、とても重く、大事な大会なのかと、ウチでも理解出来た。


次の日から3年生は来なかった。来年こそは絶対に全国に行くと、2年生は燃えていた。


当然ウチらも置いてかれないよう、全力でついていった。







そして、季節は流れ秋。



1、2年生だけで行われる団体戦、関東予選が行われた。


夏の練習の成果が発揮される場だ。


そこで、予選に出るメンバー選考が始まった。


団体戦は試合に出るのは5人だが、エントリー出来るのは最大で8人。

8人の中から、その時試合に出る5人を毎回毎回選ぶというシステムなのだ。






メンバーを整理すると、


2年生→5人。(全員有段者)

1年生→8人。(有段者1人)


ウチより強い同期が有段者なため、圧倒的な実力差で、8人中、6人目までは言わずもがな決まっていた。


さて、残る枠は2つ。


ある日ウチと他同期2人が先輩に呼び出された。


先輩が以下のように言った。


「団体戦メンバーの残り2人は、今ここにいる3人の中から決めようと思ってる。今週の団体戦練習の活躍や、立ち回りで判断する」


との事だ。


残り2人の同期を以下よりA、Bとする。


競技かるたの団体戦はチーム内での声掛けが認められている。


仲間を励ましたり、チーム全体を鼓舞する事は公式ルールでOKとされている。


だがウチはあまり声掛けをしなかった。かつての経験から、人に対する興味を失っていた。


せっかく使えるルールを全く活かして無かった。



ウチとA、Bの実力順や、団体戦での声かけの量を比較すると、



個人戦実力差

ウチ≫B≫A



団体戦声掛け量

A≫B≫ウチ





こんな感じである。




1週間後、先輩から結果が告げられた。


残りの2枠に飛び込んだのは……














AとBだった。













ウチは落ちたのだ。先輩は続けて理由を話してくれた。


「3人で1番強いと言っても、他校に勝てる訳では無い。であれば勝てなくてもより団体の雰囲気を良くしてくれる2人を選んだ」




最もな理由だ。ウチは納得した。だけど、帰ってから悔しさが溢れ、ウチは泣いた。


ウチは皆の事を考えるようになった。これまで経験の無かった事だ。


だが、それほど苦労しなかった。これまでいじめられてきた経験からか、防御の為に人間観察がいつの間にか癖になっていた 。


どんな行動を取っていると今はこういう感情なのか、

こういうセリフを言ってるって事は今こういう感情なんだろうなぁとか、何となく感覚で分かるようになっていた。


我ながら良いスキルだが、身についた経緯が経緯なだけに何か嬉しくない。


とにかくウチは部員の事を観察して、分析し、理解する事に務めた。


団体戦でも声を出すように努力した。最初はかなり恥ずかしかった。


もうウチは1人では無く、部の中に属する1人なのである。仲間と思ってもらえるように頑張ると心に誓った。


ウチの中で、何かが変わった気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る