第6話


一人きりのトイレに、突如とつじょ、響いた

『誰か』の声―――――。


驚きの余り、一瞬、涙も引く。



トイレの灯りがか細く点滅し、

一瞬の闇から抜けたのち――――――、

目の前の光景に、私は『唖然』とする。


「鏡に映った私」が、あごでも外れたのかと思う程、口を目一杯に開いているのだ。



その姿は、まるで祖父のような…………

絵画の『叫び』そのものだった。



あんなにも口を開けた覚えなどないのに……

「正しく姿を映す」はずの鏡が「知らない私」を映している。

そうして、不自然に開かれた「鏡の中の私」の口の中から………ギョロリと、こちらを見詰めるに気付き、戦慄する。



「私が会わせてあげる………」



再び、女の声が響いた後………

鏡の中の私の口から、女が這い出て来る。

あごは完全に外れ、無理のある質量で女を吐き出す鏡の中の私は…………

目を宙に泳がせ、苦しそうに痙攣けいれんしている。



鏡の中の光景を見て、本当に息苦しさを感じた私は、ある事に気付く。



何故だか「私」は、自分の拳を口の中に入れているのだ。

「鏡の中の私」の口から、女が這い出る動きに呼応するように…………

「現実の私」は、拳を喉の奥へ、奥へと進めて行く。







「………ん゛………、

ん゛ん゛―――――っ!!」



言葉にならない叫びの中………

転げ落ちた祖父の歯が頭に浮かんだ。



祖父の死が………

事故でも、事件でもなく…………


この女によるものだとしたら―――――?



(………嫌だ…………!!

死にたくない……!死にたくない………!!

死にたくない―――――!!!)




女の微かな笑い声と…………

言葉にならない断末魔の叫びだけが、



私の中で響いた――――――――









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叫び 綾兎 @hisaka-ayato

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