第31話 まるでアナタは愛を詠う歌人のように−EX

「邪魔だオラァ!」


 ハクマが叫んで傲慢の炎による巨大な右手でルミナに掴みかかろうとする。


『まるでアナタは曇天に響く雷鳴のように』


 しかし、ルミナは即座に雷の槍を召喚して、難なく炎の手を弾き返す。


『遠く、遠く、遥かな場所にいるアナタに私の声は届いている?』


 ルミナは続けて喚び出した雷の槍をガードの剥がれたハクマに投げつける。


「ぐっ……」


 雷の槍は咄嗟に避けたハクマの頬を掠めて彼の顔に切り傷を刻む。


『私の声はどのような風に聞こえている?』


 ハクマは再度、情炎に包まれた右手を構え、強く握り締める。


「くくっ! チクショウ、いつの間にか楽しくなって来ちまったぜ!」


 突然、ニヤリと笑みを浮かべるハクマ。


『これくらい強い相手なら、潰し甲斐もあるってもんだ! テメエは絶対にひれ伏せさせてやる!』


 傲慢の炎は巨大な右手を形成するが、今度は右手だけでなく、左手や両足の形をしたものも現れる。


「予定とは違うが、久々に俺様も本気を出せそうだぜ! 傲慢の炎が生み出す絶望を味わいやがれ!」


 情炎の手足から徐々に腕や脚が生えていき、伸びた炎の終着点が胴体となる。

 そして、ハクマの背後には首のない炎の巨人が立っていた。


『この世の全ては俺様のためにある! 繁栄も絶滅も俺様のさじ加減だ!』


 轟々と燃え盛る炎の巨人は窮屈そうに背を丸めながらルミナに向かって進撃する。


『アナタに私の声が聞こえているならば、それはどんな風に捉えられていても構わない。私の声は全て愛。怒りを抱いているとすれば、アナタに満たすような愛を与えられなかった私に情けなさを感じているから』


 ルミナは言い終わって雷の槍を宙に放り投げる。

 すると、雷の槍は木の枝のように別れ始め、無数の稲妻が炎の巨人を貫いた。


「ぐああああっ!」


 決着は一瞬だった。

 炎の巨人は夥しい数の雷の直撃を受けて消し飛び、悲鳴を上げたハクマは煤けた床に両膝を突く。


「そんな……俺様の全力が……」


 ハクマは最後にそう言って昏倒する。

 二つの告白魔法が衝突して無残な姿となった廊下で圧勝したルミナが倒れたハクマに背を向ける。


「アナタはそこで寝ていてください。誰にも私と先輩の間には割り込ませないのですから」


 独り言を呟くルミナ。

 その時、ルミナは悍しい気配を感じ取る。


「これは……膨大な魔力が溢れ出している? もしかして、先輩の身に何か――」


 言いかけた矢先、廊下の向こうから真っ黒な影が迫って来ていた。

 真っ黒な影はルミナの足を掬い、ハクマに勝利した彼女を刹那で飲み込んだ。

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