第274話 俺は同じ立場で千歳の為にそこまでやれるのだろうか?

午後になって一息ついたところで千歳が「行こう」と言い出して瞬間移動をすると目の前に城が現れる。


「大成功!」

「ここがノースか」


「ツネノリ様は初めてなんですか?」

「父さん達の話だと昔にも来ているがほぼ初めてだな」


そんな事を話している間に千歳が門番に話しかける。

待つ事なくすぐに男の人が出てくる。

「わ、美形!元アイドルみたいだ」

千歳が顔を見て驚いている。

確かに俺達の前にいる人は信じられないくらいに目鼻立ちが整っている。

テツイ先生の時も思ったが案外記憶は曖昧で薄っすらとしか顔が思い出されないが恐らくこの人が先生だ。


「よく来たね、ツネノリ。千歳、メリシア」

「わ、名前知っている?」

「私の名前もですか?」

「ふふ、前もって調べておくさ。折角来てくれたのに失礼だろ?」

そう言って俺たちの名を呼んだ人は笑う。


「ザンネ先生…ですか?」

「ああ、俺がお前の師だよ。さあ中に入ってくれ」


そう言って俺達は言われるがままにザンネ先生の後を着いて行く。


「あれ?中庭に行くの?」

「ふふ、流石は神の力を授かっている千歳だね。話が早くて良いね。

この為に来たんだろ?」


そして中庭にはジョマの置いた光の塊があった。

「サウス王とジョマから聞いた。

ツネノリはこの塊を破壊出来るようになりたいんだろ?

テツイは…傷は付けられたが破壊には至らなかったと…」

「はい」


ザンネ先生は腰に下げた突剣を2本持つと「テツイはアーティファクトだから傷付けられたのか…、それとも概念さえ意識すればどんな攻撃も通るのか…」と言いながらとてつもなく速い突きを数発放つ。


「厄介だな」

10回目に塊を突いたザンネ先生はそう言って切っ先を見る。


「見ろツネノリ、攻撃はロクに通らないのに剣がダメージを負ったぞ」

そうして見せてくれた剣は刃こぼれを起こしていた。


「そうなるとコレか…」

ザンネ先生は柄を出す。


「【アーティファクト】」

ザンネ先生の手には2本の真っ赤な光の突剣があった。


「ペックお爺さんに作ってもらったんですか?」

「ああ、やはりアーティファクトの剣は何かの時の為に欲しいからね」

千歳の問いにザンネ先生は優しく答える。


「メリシア、君の剣も擬似アーティファクトの光の剣だったね?強度も斬れ味も俺達は同じだ。マリオンだけではなく俺の使い方も参考にするんだ」

「はい」


そう言ったザンネ先生が物凄い速さで剣を振るう。

今度は延々と突き続ける。


「傷は付くな。だが破壊には程遠い。

【アーティファクト】!」

そう言ってザンネ先生は両腕に付けた火と雷の腕輪から力を出して光の剣に上乗せをする。

そのまま本気の突きを放つ。


その姿はあの映像で見た姿と全く同じだ。

しばらく突いたところで先生は剣をしまう。


「今日はここまでが限界かな?」

そう言うと「少し疲れた」と言って膝をつく。


塊は傷だらけになっていたが表面の指一本分には剣が入った跡があるがそこから先に刺さった傷は無かった。


「その先を通すには更に強い力が必要だな。

力と言ってもアーティファクトの出力ではない。

意志の強さや神と人の違いをハッキリと意識すると言うか、認識の問題だ」


「認識の問題…」


「どうかな?千歳は少し落ち着いたかな?」

「え?」


「俺が剣を振るう前に心配そうな顔をしたよね?俺を案じたと言うより、人が神を超えると言う無茶な話を案じてだね。

安心してくれ。

概念を少し知った俺でもここまで出来た。

後は修練だ。

俺達はやり遂げるから安心しなさい」

そう言って優しく微笑むザンネ先生。


「ありがとうザンネさん。

ツネノリと話す時と話し方が違うね。

なんかアーイさん達と話す時に近いかも」

「ふふ、君はアーイの事も知っているのかい?」


「うん、神様の記録を読んだからね」

「そうか。そうだね。

俺はツネノリの師として厳しい言葉遣いを意識したんだ。普段はアーイや千歳達と話す時の話し方だよ」


そしてザンネ先生は女中を呼んで中庭にお茶の支度をさせると「もう少しだけ付き合ってくれないかい?」と言って話し始める。


「ツネノリ、最終戦を見させてもらった。

圧倒的に修練不足だな。

アーティファクトに頼りすぎだ。

俺やガクならアーティファクトを取り戻す前にもっとやれた。

アーイですらお前よりは動けた。

そしてアーティファクトを取り戻した時に光の剣を飛ばす事に偏りすぎだ。

何故突剣を出さなかった?何故一つの攻撃方法に偏る?

もっと柔軟になるんだ」


「はい」

的確で厳しい指摘。

その通りだと思った。

テツイ先生も俺に改善点があったと言っていたしザンネ先生の指摘、恐らくマリオンさんやキヨロスさんも俺の戦い方には不満があったと思う。


「だが強くなった。

教えたことが身体に残っていて俺は嬉しく思う」

素直に褒めて貰えるとは思っていなかったので俺はとにかく驚いた。


「先生…、俺の方こそありがとうございます。

先生の教えのおかげで生き残れました」

順番が無茶苦茶だが俺はようやくお礼が言えた。


その後キチンとメリシアを紹介する。

ザンネ先生は「ツネノリ、とても素敵な人を見つけたね。おめでとう。彼女にふさわしい男を目指し続けなさい。

メリシア、ツネノリは見た通りの男だ。君を裏切るなんてあり得ない。だが多分気が利かない所もある。それでも良かったら一緒に居て幸せになって欲しい」と言ってくれた。

なんて優しい目で言うのだろう?

この人の優しさは底無しに思えた。


俺は嬉しさで泣いてしまいそうになる。

メリシアを見るととても嬉しそうにしているのがわかる。


千歳がザンネ先生を見て少し困った顔をして口を開く。


「ザンネさん、昔の記録を読んだ時も思ったけど、なんでも出来るのに不器用で優しすぎるよね」

「そうかい?これが俺だからね」

そう言うとザンネ先生は笑う。


「私はザンネさんも幸せになって欲しい。

それはツネノリも私達も、アーイさんやこれから来る人。

お城のみんなもそうだよ。

いいんだよ?

結婚をして1人の人に、そしてその人との子供に愛情を全て向けても。みんなザンネさんに幸せになって欲しいって思っているよ」

千歳?千歳は先生の何を見たと言うのだろう?


「千歳…、ふふ…敵わないね。ありがとう。心に留めておくよ」

ザンネ先生は嬉しそうに頷く。

それを見た千歳も嬉しそうに「忘れないでね」と言う。


俺は後で千歳からザンネ先生の話を聞いた。

ザンネ先生はアーイさんやアーイさんの弟のカーイさんを守るために悪者を演じた。

戦争を辞めたがったノースの王様の次にジョマの使いに狙われるアーイさん達の為に自らがジョマの使いの手先になって戦争を激化させた。

アーイさんとカーイさんを妹のように弟のように愛すべきものとして守るために…。

俺は同じ立場で千歳の為にそこまでやれるのだろうか?


その後、しばらく剣の使い方や戦い方なんかの事を教えてもらう。


「ザンネさん、来たよ」

「千歳、流石だね。

君が居ると俺は何も話さなくて良くなる感じだ」


「そんな事は無いよ。今日の私はおまけだから」

「そうだね。今日はツネノリがメインだね」


千歳とザンネ先生は何を話しているんだ?

俺とメリシアは首を傾げる。


少しすると1人の男が歩いてきた。

「ザンネ、僕の兄弟弟子が来たんだって?」

「ああ、カーイ。ツネノリだ」


「やあ、よろしく。僕はカーイ。このノースの王になっている」

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