第266話 いいじゃない、私の愛は本物よ?

こんな素敵な温泉にこられて千歳には感謝しかない。

「ノレルお母さんも温泉好きなんだよね?」

「ええ、誰に聞いたの?」


「前に東さんの記録で見た時に書いてあったの。

ツネノリが生まれた時にサウスの温泉に来たって書いてあったから」

「懐かしいわね。私もルノレもノレノレも温泉は好きよ」


「やっぱり10人分稼げば良かったかな?

ごめんねノレルお母さん」


「いいのよ。ありがとう千歳」

私は目の前の娘がたまらなく愛おしくて抱きしめる。


「うぅ〜、お母さんが居るのにノレルお母さんが優しいから甘えちゃうよ」

「いいじゃない。千明も許してくれるわよ」


私は2人で温泉に入れている事が嬉しくてついニコニコと黙ってしまうのだが、千歳は何か勘違いをしてしまったようだ。


「ノレルお母さんも金色お父さんみたいに怒っている?」

「どうして?」


「今、黙って居たから怒っているのかと思ったの」

「違うわよ。2人でお風呂に入れた事が嬉しいのよ。話すことすら勿体ないくらい嬉しいのよ」


「良かった…、でもやっぱり気にはなるよね?」

そう言って千歳は俯きながら私に話す。


「ならないと言ったら嘘になるわ。

ルルもルノレもノレノレもみんな千歳が心配。

私だって何か出来ないか考えているもの。

でも信じているから今は何も言わない」


「本当?」

「本当よ」


「ありがとう」

そう言った千歳の顔がとても可愛らしくてたまらなくなる。


「心配し過ぎよ。

それに一言だけ言ってあげる。

ツネノリは多分千歳を守る為に更に高みに登るわ」

「うん。神を超えるって言われたよ」


「それにキヨロスは神になってでも千歳を守るわ」

「それ、嫌なんだよね。奥さんも子供も居るんだよ」

「それでも必ず自分を最後にしてまずは千歳を守る」


「…うん…」

「そして、ツネツギだって勝ち目がなくても千歳の為なら神に喧嘩を売るわよ」


「やっぱり?」

「当たり前よ。そしてルルや私達が何もしないと思う?」


「え?」

「ルルなんて既に神の世界に行く方法を、神に攻撃する手段を考えているわよ。

みんな千歳の為に神様に挑むつもりでいる」


「そんな…」

「かつて神様に言われた神の領域に踏み込んだアーティファクトだって再現するかも知れない」


「ダメだよ」

「なんで?

みんな千歳が大事なのよ」


「それでも人の身で戦うのは危ないもん」

「それは千歳も一緒よ。

千歳は自分で決めて神と戦ったのでしょう?

だから私達も自分で決めて千歳の為に戦うのよ」


千歳は何も言えなくなって涙目で「うぅ」と言ってしまう。

可愛いけど困った顔はあまり見たくはない顔



「おしまい」

そう言って千歳を抱きしめる。



「え?」

「せっかくの千歳との時間をこんな話に使いたく無いの。

千歳は1人じゃ無い、それだけ覚えていてね。

そして私は千歳の為なら命なんて惜しくないわ」


「ノレルお母さん…」

「後はスタイルを気にしていたけど、千歳はきっと大丈夫よ。

私達はもう無理な歳よね」


「そうかな?」

「そうよ。さあ、折角だからこの景色を…星空を見ましょう?」


「うん」

そして2人で屋根の隙間から見える星空を眺める。


「流れ星!」

千歳が嬉しそうに反応をする。


「願い事をする?」

「知っているの?」


「前にツネツギが教えてくれたわ。

でも神様にお願いって私達は直接言えば通じるから…」

「そうだね。

私も半分神様だからある程度は叶えられるし…」


「ふふ」

「どうしたの?」


「前にそうやって言ったらツネツギってば「風情がないなぁ…」ってふてくされたのよ。

思い出してしまったわ」


「言いそう。

じゃあアレかもね、タツキアに神社があるのはお父さんの好みかもね」

「そうね」


やっぱり千歳とは普通に話しているのが一番楽しいし幸せを感じる。


そう思いながら千歳を見る。

千歳は手を合わせて流れ星に願い事をしていた。


「千歳?」

「またみんなで来られるようにね。

後は私が人のままで居られるように」

そう言う顔はなんとなく気恥ずかしいと言う雰囲気だ。


「私も願うわ」

私は手を合わせる。

願い事はツネノリやツネツギには申し訳ないが、今は千歳が悲しい思いをしないように。

人のまま幸せを掴めますように。

それだけしかない。

本来ならば息子のツネノリの幸せを、夫のツネツギの幸せも願うべきなのだ。

だが千歳の幸せを願いたい。


私の千歳。

ツネツギの言葉を借りるなら私の天使。

ジョマの言葉なら私の太陽。

ツネノリは博愛と名付けたがそんな物はいらない。

周りよりも自分を大切にして欲しい。

幸せになって欲しい。


私の全て。

そうだ、千歳は私の世界だ。




「お母さん!ノレルお母さん!!」

目の前には髪を真っ赤にして恥ずかしそうに頬を赤く染めて八の字眉毛で私の顔を見る千歳が居る。


「どうしたの?のぼせた?」

「違うよ、ノレルお母さんのお願い事が気になった私も悪いけど恥ずかしいよ〜」


ああ、読心の力で私の心を読んだのね。

「何を照れるの?千歳は私の世界よ。

それに聞いてくれれば隠し事なんてしないのに」


「むぅ〜…恥ずかしいです」

そう言って少しだけお湯の中に隠れる。


「ふふ、本当千歳は可愛い私の天使だわ」

「やめてよ〜」


「いいじゃない、私の愛は本物よ?

お願いだから幸せになってね。

人よりも一つでも多く幸せになってね」

「うん。頑張る」


「ふふ、ありがとう」

その後、少しだけ星を眺めてから出る事にする。

どうか千歳が幸せを掴めますように…

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