第265話 その笑顔を前にすると何も言えなくなる。

不思議で素敵な時間だと改めて思う。

今この場にはゼロガーデンから出られなかったルルさんとツネノリが居て、ツネノリにはメリシアと言う素敵なパートナーが出来た。


そして常継さんと千歳と6人でこの場にいられる。

それがとても素敵で不思議だ。

世界の壁を低くした北海さんには感謝しかない。


部屋に戻ると食事が用意されていて常継さんとツネノリは先に座っていた。


千歳が「席が違う!」と2人を注意して座り直させてしまう。


今は常継さんの右隣が私で左隣がルルさん。

向かって私の前が千歳、その隣がツネノリでその隣はメリシアだ。


「じゃあ、お父さんのお祝いだから…、おめでとうお父さん!

次ツネノリ!」


「父さん、おめでとう。これから大変だと思うけど頑張ってね。

母さんかな?」


「いや、メリシアも何か一言、ツネツギにくれ」

「はい。ツネツギ様、おめでとうございます。まだ知らない父達も喜ぶと思います。

お身体に気をつけて頑張ってください。

お母様」


「うむ。それにしても千歳やツネノリよりメリシアの方がキチンと話したぞ?」

「私は宿代で態度に表しましたー」

「ごめん母さん」


「ふふ、まあ良い。

ツネツギ。大変な仕事だが見事にやり切って見せよ。

私も千明も微力ながら支えてやる。

千明」


「はい。

常継さん。お疲れ様です。

大変な仕事ですが無理せずに頑張ってくださいね。

皆貴方を支えますからね」


皆が一通り言うと常継さんが皆を一度見て「ありがとう」と言う。

そして「ファーストとセカンドの神代行と言う大変な仕事だが何とかやり切って見せたいと思う。

東ほどスムーズにやれないが俺でもやれる所、俺にしかやれない事を見つけていきたいと思う。

ルル、ガーデンの事だからどうしても頼ると思う。

千明、また外では迷惑をかけるがよろしく頼む。来年は千歳の受験だからいつも以上に大変だがすまない」と言った。

私たちは「はい」と返事をする。


一通り待ってから「じゃあ乾杯ー!」と千歳が言って食事が始まる。


エテの食事は相変わらず美味しい。

これを食べればタツキアに居るメリシアの両親が本気になるのもわかる。


今日のお祝いは本当にお祝いでもあるが、おそらく何かしらの問題が出た時に人に戻れなくなる千歳の思い出作りも含まれていると思う。


自分の娘が世界を救った事も実感がないがそれ以上に人を超えた力を持った事なんかは更に実感がない。


あの千歳が人と違う力を持って神になる。

何度その言葉を反芻しても信じられない。


「お母さん、大丈夫だよ」

「え?」


「心配そうな顔してるよ」

「あなた心を?」


「見えなくてもわかるって」

そう言う千歳の髪は黒いままだ。


「お父さんも私も大丈夫だよ。

お父さんにはお母さんとルルお母さんもいるし。

私なんてお父さんがバリバリ頑張って私を名ばかりの神にしてくれるって言っているし、右腕がツネノリで左腕がメリシアさんなんだよ。

皆が居れば何とかなるって。

仮にダメでも皆がここまでやってくれたんだから仕方ないって思えるよ」


そう言って千歳は笑う。

その笑顔を前にすると何も言えなくなる。


「それよりも心配なのはツネノリの瞬間移動のセンスの無さだよ。

練習で何とかなればいいけどね」


「ぐっ」っと言って居心地の悪い顔のツネノリにメリシアが「ツネノリ様、瞬間移動は私に任せてくださいね」と言って励まして、そのやり取りで皆が笑う。


その後は特に何もなく普通に楽しい時間が過ぎていく。

食後にどうしても千歳と温泉に入りたいと言うノレルさんの為にルルさんはノレルさんになった。


「ごめんねノレルお母さん。

10人分の宿代を稼ぐとセカンドから魔物が居なくなって東さん困っちゃうと思ったんだよ」


「いいのよ。

ありがとう千歳。

本当にいつも優しいのね。

ルルが少し時間をくれたから今はこれでいいの。

温泉に一緒に行ってくれる?」


「うん」


そう言って2人は温泉に行く。



ツネノリが私の横に来た。

「千明さん」

「どうしたの?」


「俺、千歳から母さんや、父さんと千明さんを頼まれました。

人に戻れなくなったら千明さんをガーデンに送るから千明さんを頼むと言われました。

でもそんな事にはしません」


「ツネノリ…」

「あいつは…千歳は俺を半神半人にしたくないからと俺を神の国に連れて行かなかった。

だからと言ってそれで終われない。

俺は人の身で神を超えます」


「私も一緒に千歳様を守ります。

ですから千明お母様は安心してくださいね」


「千明、俺達には頼れる子供がいてくれる。

この先、何があるかは誰にもわからない。

だが、きっと大丈夫だ。

俺達は千歳を名ばかりの神にできるように頑張ろう」


「はい。ありがとうみんな」

私は何処かで思い詰めて居たのだろう。

その言葉で泣いてしまった。

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