第253話 私は帰るよ。身体も放っておかれっ放しで寂しいだろうしね。
「さて、通常時間に戻そう」
そう東さんが言う。
「え?今時間制御していたの?」
「ああ、セカンドでイベントが終わって日付をまたいだんだよ?それでこんなに長く皆でいたら朝になっているよ。今日は8月28日。セカンドでは12月21日だからツネツギは仕事さ」
「何!?俺はこの酒臭い状態で仕事に行くのか!?」
「まあ、すぐにこっちに戻ってくれば問題はあるまい?」
「ああ、残念だけど社長とお話があるからね」
「マジかよ」
「ふふ、私と東と3人でイベント成功のお祝いをしていたことにすればいいのよ」
「それで酒臭いか…、東たちも臭いのか?」
「僕は飲んでも飲まれるなだから平気さ」
「ええ、私も」
「じゃあ酒臭いのは俺だけかよ!?」
また皆が笑う。
「千歳!神如き力で酒臭さを取ってくれ!!」
「こら、千歳を変な事に使うな」
「ツネジロウ!これは問題だろう?お前ならわかってくれるだろう?」
「まあ、知識としては持っている。だが千歳をそんな事には使わせないぞ」
「お父さん、大丈夫考えてあるよ」
「本当か!?」
「千歳…」
「金色お父さんも心配してくれてありがとう。でもこれでいいの。そこら辺の事は明日お父さんが入ったらわかるし、その前に知りたかったらルルお母さんに聞いて」
「わかった」
「千歳?今日はどうするんだ?」
ツネノリが聞いてくる。
「私は帰るよ。身体も放っておかれっ放しで寂しいだろうしね」
「そうか、寂しくなるな」
「そう?ありがとう。私もずっとガーデンに居たいけど、身体は外だからさ。
明日は宿題持ってセカンドに行くよ。
セカンドで宿題片付けちゃう。もう夏休みが終わるから確認と仕上げしたいんだ。
セカンドなら一日居ても8時間だからね」
「そうか」
「うん。終わったらツネノリの所に行くよ。明日は何処に居るの?」
「このまま家に帰ろうと思う」
「え?メリシアさんとセカンドに宿を取って2人でお疲れ会すればいいのに?メリシアさんは嫌?」
「千歳!?」
「ふふ、私は良かったんですけど、ツネノリ様に父と母と3人の水入らずでひとまず無事を祝うようにと言われたので今日は帰ります」
「そっか、ツネノリに会えるのはちょっと先になっちゃうね」
「ええ、寂しいですけどそれが世界の壁に阻まれた私達ですから…」
「やだ」
「え?」
「やだって言ったの!東さん!ジョマ!!何とかして!!ダメなら私が何とかする!!」
「千歳!?髪が真っ赤だぞ!」
「えぇ…千歳様?」
「千歳…具体的なイメージが無いといきなりは難しいよ…」
「うーん…難しいな。とりあえずセカンドの人は3年に一度だけ年を取るのは絶対ね。それでツネノリとメリシアさんの歳の差は開かないようにしてよね」
「それはやろう」
「ツネノリ様!」
「メリシア!良かった!!」
「それ以外って難しいわね」
「メリジロウでも作る?」
「千歳、バカにするな」
金色お父さんに頭をぽかりとやられる。
「ごめんごめん」
「東、一層の事、時間を撤廃する?」
「それをやるとプレイヤーからクレームが付くだろう?勤務時間や生活時間の問題などでプレイヤーがいつ来てもいいように作ったんだ」
「千歳様、神様、ジョマ様。ありがとうございます」
「メリシアさん?」
「今はこのままで平気です。今の三年に一度だけ年を取るだけでも十分に嬉しいです。
これでツネノリ様との年の差は無くなったんですから」
「ああ、後はメリシアが嫁いでもちょっと時間が空くだけで、こまめに顔を見せてくれれば十分ですよ」
「そうですね」
「ああ、元々俺達の娘はあの日亡くなったも同然なんだ。生きてくれているだけで十分に嬉しい」
「遠い地でも幸せに暮らしていける。こんなに素敵な人たちが一緒に居てくれる。それがわかれば私は十分です」
「お父さん、お母さん」
「寂しいから今日明日に嫁ぐのは止めてよね」
「そうだな、それにお前達は気持ちが固まったのか?」
「うん」
「はい、俺はメリシアが好きです」
おお、ツネノリがハッキリと言った。
その顔はとても凛々しくて格好良かった。
「私もツネノリ様が好き。ずっと一緒に居たい」
2人がそう言うとみんなが喜んでおめでとうと言っている。
そんなとても素敵な空気の中、宴はお開きになった。
「片づけはお姉さんとマリオン達でやるから気にしないでいいよ」
「いいの?」
「ああ、チトセ達は疲れているんだから早く帰りなさい。
お姉さん達は話し合って明日は一度それぞれの家に帰って休む事にしたんだ。
そして明後日からまた神殿でお仕事だよ。だからお姉さんとキヨロスくんは最後まで居てみんなを送ってあげるんだ」
「ジチさん、ありがとう」
「いいって」
私はそのまま準備を始める。
「お父さん、お母さん。みんなに挨拶いいかな?」
「ああ、俺はな。千明は?」
「さっきしました」
「じゃあ先に家まで送るね。私は、今度はログアウトしないといけないから一緒には帰れないんだ」
「ああ、そういう事か」
「帰りも千歳が送ってくれるの?」
「うん」
「千明、後で説明するよ」
「わかりました。千歳、それじゃあお願いね」
「うん」
「じゃあ、みんな。先に帰らせて貰う。今回は本当に助かったよ」
「いいって事よ」「楽しかったよ」「会えて良かった」と皆がお父さんに言う。
お父さんは思い出したようにルルお母さんの所に行く。
「ルル、今日は2人きりで話せてよかった」
「千明の前で照れるだろう?」
「そうか、俺はルルと千明を愛しているから照れないさ」
そう言ってお母さんの前でルルお母さんを抱きしめるお父さん。
なんかすごいと思った。
「また明日。今日はゆっくり寝てくれ」
「ああ、ツネツギこそ、酒臭さをなんとかしろよ」
そしてお父さんは金色お父さんを見る。
「ルルとツネノリを頼む」
「千明と千歳を頼む」
2人はそれだけで十分だったのだろう。
ニヤッと笑って済んでしまった。
「ツネノリ」
「父さん、本当にありがとう。助かったよ」
「いや、俺の方こそお前に何度助けられたか」
「明日からまたよろしくね」
「俺の方こそよろしく頼む」
「うん、母さんの事は任せて。父さんは千明さんと千歳を頼むね」
そしてお父さんはお母さんの横に戻る。
「ルルさん、ノレルさん、ルノレさん、ノレノレさん、ツネジロウさん、ツネノリ。またね。
皆さんもまた会いましょう。さようなら」
「じゃあ東、ジョマまた明日」
「ああ、また明日」
「遅刻しないでくださいね」
「東さん、北海さん。おやすみなさい」
「千明もお疲れ様。ゆっくり休んでくれ」
「千明様、また会いましょうね」
よし、いいかな?
「神如き力!場所は家!!一度行ったから見える!!お父さん、お母さん先に帰って待っててね。寝てたらいやだよ!」
「わかっている」
「はいはい。お風呂沸かしておきますよ」
「ありがとう!!行け!!」
お父さんとお母さんは消える。
「無事に着いたよ千歳」
「うん、見えた」
「千歳様は本当に上手ね」
「ありがとうジョマ」
私はそのまま歩き始める。
「じゃあ、ごめんねノレルお母さん、ルノレお母さん、ノレノレお母さん。
私帰るからルルお母さんの所に戻すね」
「千歳、本当に素敵な時間をありがとう」
「ジョマのお陰だよ」と言うとノレルお母さんは「そうね」と言って笑って私を抱きしめる。
「千歳、楽しかったよ。ありがとう」
「ルノレお母さん、ルルお母さんが身体を独り占めしたら言ってね。頑張るから」と言うと「無理しないでいいよ」と優しく言ってくれて頭を撫でてくれる。
「千歳ぇぇ、ありがとうねぇぇ、母ちゃんこんなに外に出たの初めてで楽しかったよ!」
「よかった。ノレノレお母さん。喜んでくれてありがとね」
「よし、行くよ!神如き力、完全開放!!」
そして目を瞑って3人を右端から集めてルルお母さんの魂とくっつける。
魂は無事に元の形に戻った。
「終わり!」
「ああ、無事にノレル達が私の身体に入ったな」
「へへへ、またやるね」
「ああ、無理はするなよ」
私はルルお母さんをジッと見る。
「どうした千歳?」
「えへへ、お願い聞いてほしいの」
「何?今何かあったか?」
「あったよぉ、みんな居て忙しかったから我慢したの。手を広げて?」
「何?こうか?」
「うん!」
私は右腕に抱き着く。
「ツネノリ!!」
「何?ああ、そういう事か」
ツネノリは普通に左腕に寄り添う。
「父さん」
「お父さん!」
「ああ、そうだな。この4人では初だな」
そして金色のお父さんが私とツネノリを抱く。
家族4人で抱き合う。
これは会えたらやろうと思っていた事だった。
「千歳…」
「ありがとねルルお母さん」
「何を言う。私こそありがとう千歳」
ルルお母さんが泣いている。
ヤキモチ妬きの心配性なのにお父さんをお母さんに勧めた時の気持ちは辛かっただろうな…
「ジョマ!」
「はい?」
「「真実の記録」で今を撮って。家族4人を撮って!」
「はい。わかりました」
ジョマは4枚の写真を撮ってくれる。
「宝物追加」
「ありがとう千歳」
ルルお母さんは本当に嬉しそうに写真を眺める。
「あ!大変だ!1個思い出した。神如き力!」
私は即座に思い出す。
「ツネノリ!これ持って!」
「何?」
私は「真実の記録」をツネノリに渡す。
「ツネノリを転送!お父さん達の所!」
「何?」
「いいから、それで写真を撮ってくる!」
有無を言わさずに私はツネノリを転送する。
「お父さん!お母さん聞こえる!!?」
…返事がない。
「あー、距離が遠いよ!東さん、お父さん達の声が聞こえない!明日から練習するから今は話して。「真実の記録」でツネノリ用の写真。お父さんとお母さんはスマホで撮って!」
「じゃあ、僕が向こうに行って撮って来よう」
そう言って東さんが消える。
5分くらいして「千歳、ツネノリをガーデンに戻せるかやってごらん」と言われた。
え?送るだけじゃなくて引き寄せるの?
「え?…ツネノリを引き寄せるの?どうすればいいんだろう?」
「何?チトセはやれないの?」
「げ、王様」
「ツネノリの次元球は見えているな…ここから神の世界に比べたら近いよ。僕ならできそうだ」
「嘘でしょ?」
「本当だよ。まあ千歳には出来ないのかも知れないけど、僕には出来るよ」
「ぐぎぎぎぎ…、ムカつく。やるわよ!出来ます!!王様は引っ込んでて!!」
私は乗せられたかな?とも思ったけどツネノリを無事に戻した。
「千歳、向こうの家は凄いな。あれが科学か…」
「ああ、ごめんね」
なんか昔漫画とかで見たタイムスリップしたお侍さんが「鉄のイノシシ」って車を怖がる話を思い出して笑ってしまう。
「どう?3人で写真撮れた?」
「ああ」
そう言って見せてくれた写真は親子3人で仲良く並んでいて安心した。
「今度はツネノリもウチに来てね」
「ああ、とりあえず当分先だろう?」
「何で?」
「千歳がガーデンに満足していないからだ」
「おお、流石ツネノリ。わかってくれて嬉しいよ」
そう言って私は今度メリシアさんの所に行く。
「じゃあ、私が送るね」
「はい。よろしくお願いします」
「すまないね千歳様」
「ううん、気にしないで」
「本当、千歳様に会ってから毎日が夢みたいだったわ」
「私はそんなに凄くないよ。ガーデンが素敵でたまたま私に合っていたんだと思うよ」
「じゃあ、ツネノリ様。また」
「ああ、メリシアも気を付けて」
「じゃあ皆さん、娘をありがとうございました」
「それでは失礼します」
そう言って挨拶をしたメリシアさん達をタツキアに送る。
もう、日本との送り迎えを繰り返したら、タツキアは簡単に思えてきた。
「じゃあ、後は私だね。ジョマ、ログアウトできるよね?」
「ええ、もう光の腕輪のログアウト禁止は解除してありますよ」
「じゃあ、帰るね。また次の話があるから早めに会おうね」
「はい。よろしくお願いします」
「東さん、またね」
「ああ、またね千歳」
そして皆を見る。
皆にお世話になりましたと伝えて皆も楽しかったよと言ってくれた。
「お父さん、ルルお母さん、ツネノリ」
「またすぐに来るんだから変な挨拶はいらんぞ」
「ああ、またな千歳」
「今晩は眠れるか?」
「頑張る…」と言うと3人が笑う。うー、由々しき問題なんだけどな。
まあ、いいや。
「ログアウト!!」
何か言う必要は無さそうなんだけど初めてなので声にしてみた。
一瞬気が遠くなった私の目の前には見慣れた天井がある。
「ただいま」
思わず呟く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます