第198話 私の前では弱音を吐いて良いじゃないか?

「ようルル。色々済まんな」

「来たかツネツギ。事態はギリギリだな」


「ああ、嫌な見せ場だがやるしか無い」

「なんだ覚悟は出来ているのか?」


「ああ、俺が泣き言を言えるように個室で待っていてくれたのか?」

「泣き顔を独り占めしてやろうと思ったのにつまらん」


「ありがとうルル」

そう言ってツネツギは笑う。


「なっ…!」

「そのいつも通りの会話が嬉しい。

神殿だからかな?昔の事を思い出したよ」


「ビッグベアか?」

「ああ、あの時左腕が折れていたのを俺は言わなかったのにルルはキチッと治してくれたよな」


「馬鹿者、お見通しだ。ちょっと怪我したなんて言いおって。

そもそもアレは躓いた私を庇って負った怪我だろう」


「覚えてないな。俺のミスだろ?」

相変わらず嘘の下手な顔で言う。

いや、本気で嘘をつかれたらわからないのかも知れないな。

本気で嘘をつかれたからツネジロウを止められなかった。


「千明には止められたか?」

「ああ、と言うか立ち話もなんだから座ろうぜ?」

この部屋に椅子は一脚しかない。

必然的に2人でベッドに腰をかける事になる。


「千明が感情的になって止めてきた」

「そうか」


「だが仕方ない。

千明はツネジロウを知らない」

「そうだな」


その時にたまたま触れたツネツギの手は震えていた。


「だが俺は千明に納得して貰ってここ…」

「馬鹿者!!」

私はツネツギを遮って抱きしめる。


「ルル?」

「震えておる。私の前でまで肩肘張ってどうする?」


「怖いなんて自分から言えないだろ?」

「それこそ馬鹿者だ。この後、ツネツギの事だからみんなの前に出て行った時は軽口を叩きながら「やだやだ」と言うのだろう?

なら私の前では弱音を吐いて良いじゃないか?

千明にも吐けないだろ?」


「ルル!!」

そう言ったツネツギは私を強く抱きしめる。


「馬鹿者、きちんと弱音を吐け。

私に促されてようやくとは何事だ」


「本当だな。ルルは凄いな」

「そうだぞ。もっと敬え」


「ん?凄いに反応しないのか?」

「私とて時と場合は考えておる」


まったく、馬鹿にしよって。


「そうか…」

「そうだぞ」


「生身でルルを抱くのは20年以上ぶりだな」

「私はそんな事を思ったことはないぞ?」


「そうか?」

「ああ、ツネツギが考え過ぎだ」


そのまましばらく抱き合う。

「なあルル」

「なんだ?」


「ルルはこれが終わったら行きたい所ってあるか?」

「なんだ?またか?」


「行きがけに千明と話した。ルルはどうかと思ってな」

「千明はなんと?」


「千歳をルルに任せて朝から遊ぶと言っていた」

「まったく、良いように使ってくれる」


「だからルルはどうかなと思ってな」

「そうだな、ツネノリを千明に預けて…か?」


「ルルもかよ…」

「嘘だ。私は日常に戻ったらのんびりとあの家でツネツギと過ごしたい。

たまには泊まれ」


「そうだな」

「あー、確かに千秋の気持ちもわかる。

ツネノリはメリシアの家に行かすか?」


「ゼロの一泊二日はセカンドだと5日くらいか?旅行だな」

「では逆にセカンドに泊まりがけで出かけるか?」


「家でのんびりが無くなるな」

「致し方あるまい。

極論はツネツギとの時間があれば良い」


「そうか、ありがとうな」

「ふん。とりあえず無事に戻ってこい。それからだ」


「了解だ」


そして2人で少しでも長く過ごした。

ツネツギが久しぶりの生身などと言うから変に意識をしてしまった。

何度かキスをしてツネツギの震えが止まった頃、いい時間になっていたのでみんなの所に行く。

映像の中の千歳は何度か危ない場面もあったがなんとか切り抜けていたと言う。


「ツネツギ!」

「頑張ってね」

「ツネジロウはやり切った。今度は君だよツネツギ」


「ああ、みんなありがとう。とは言えやだなー、痛いのわかってて行くのやだなー」

「馬鹿者、ここが見せ場だ。気合を入れよ!」

ツネツギが軽口を叩いて私が注意をする。

いつものやり取り。


「馬鹿、泣くなルル」

「え?」


「俺は大丈夫だから」

私はいつの間にか泣いていた。


「す…すまん…、あれ?なんでだ?あれ?」

私は涙を抑えたいのだが止まらない。


「はぁ…、ここでまたこの台詞を言うのかよ…」

ツネツギがヤレヤレと言ってからマリオン達を見る。


「みんな済まない。俺の嫁さんは案外泣き虫らしい。支えてやってくれ」

その台詞は昔神殿でビッグベアと戦う時にみんなに言ったものと似ていた。


「大丈夫、ルルは私たちが支えるから」

「うん。大丈夫だよツネツギ」

マリオンとジチが私の肩に手を置く。


「さあツネツギ時間だ、このまま君はギリギリのところで3時を待つ。

千歳は限界だ。

1秒も無駄にしたくない」


「ああ、その通りだな。

ところで東、一応なんだがな…どのくらい痛い?」

「聞くのかい?勇気があるね」


「何!?」

「そうだな、外で言うと高層ビルから転落して落ちた先にダンプカーが走ってきて踏み潰されて、奇跡的に即死しなかっただけで後数秒もあれば死ぬ状態くらいの痛みだ」


「馬鹿野郎!滅茶苦茶痛いじゃないか!!」

「ああ、わからないルルたちの為に言うなら、カムカの本気の一撃で吹き飛ばされた先に高速イノシシの群れがやってきて踏み潰された所にマリオンがアーティファクト砲を撃ち込んで、また高速イノシシの群れに踏み潰されるくらいかな」


「うわ…」

「行く間際にそれを聞くって凄いね」

「大丈夫、きっと旨く行くよ」


「チクショウ!!やってやる!!」

ツネツギは涙目でそう叫ぶ。

皆が不安げなのを盛り上げたくて始めたのだがまさかの結果に驚いているのが私にはわかる。


「皆、行ってくる!

ルル、ずっとありがとう!!」

その言葉とともにツネツギは消える。


「あ…」

その時になって、ツネジロウが何と言ったのかわかった。

多分、同じ言葉を言ったのだ。


「馬鹿者め…」


少ししたら映像の中では3時を迎えていてツネノリが叫んだ後、ツネジロウの髪は黒に染まる。


そして千歳が立ち上がった。


「千歳!?」

「ジョマだ、追加で勝負を持ちかけられた。

千歳が最後の力でツネツギをここに飛ばすみたいだ。ルル!ツネツギが来るよ!」


「ルルお母さん!!お父さんをよろしく!!」


その声の後私の目の前に血塗れのツネツギが現れた。

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