第197話 ツネジロウの思いも知った今その言葉を言って良いのかがわからない。
「ルル、落ち着きなよ」
「落ち着いていられるか!」
少し前からツネジロウとキヨロスがおかしかった。
いや、ツネジロウがおかしかった。
その正体はキヨロスを頼って無理矢理次元移動を行う事であった。
あの時ツネジロウは飛びながら私の名を呼んだ。
何を思って呼んだのだろう?
そして今、セカンドガーデンはアーティファクト・キャンセラーの力により次元球が使えない為に状況が何も見えない。
子供達は、ツネジロウは無事なのであろうか?
今キヨロスはジチに連れられて別室に行っている。
本人は良かれと思っているしツネジロウの願いを反映した結果なので怒るのはお門違いなのだがどうしても顔を見ると怒りたくなるし。
3人の安否がわかるまでは私も冷静ではいられない。
「ルル」
私を呼んだのは神様だった。
「子供達は?ツネジロウは?」と聞く私を遮ってみんなを集める。
「ツネジロウはやり遂げた。ツネノリと千歳は無事に一部のスタッフしか知らない秘境に逃げられた。
ツネジロウはジョマに阻止をされながらも談判をして次元移動を成し遂げた。
そして談判をしたから瀕死で済んだ、本来なら死んでいた」
ひとまず3人が無事でホッとした。
神様は今から映像を出すと言ってツネジロウとジョマの会話と千歳とジョマの会話を見せてくれた。
ツネジロウはジョマに自身の大怪我すら盛り上げてみろと言うし、千歳は振り出しに戻った状況を利用して前に進もうとしていた。
そして千歳の提案の中にツネツギと千明、そしてツネツギと私の時間を用意するものがあった。
「ツネツギがくる?」
「ああ…、特例処置だよ。
ツネツギはツネジロウを使わずにここに来る。
そしてセカンドで夜中の3時、こっちでは朝9時にツネジロウと1つになる。
ルルはそれまでにツネツギとの時間を作って覚悟を決めてくれ」
覚悟…、それは時差ボケや過度のダメージがツネツギの為にならないから、送り出す側の覚悟。
今のツネジロウと1つになると言うのは自殺と何も変わらない。
その覚悟をツネツギが持つ為の時間。
そう言うことだろう。
「神様、アーティファクトが使えないせいで何も見えないんだ。
映像を出し続けてくれないかな?」
キヨロスが苛々しながら神様に頼んでいる。
「ああ、いいよ」
映し出された映像では千歳がツネジロウに手をかざして光の檻を作っていた。
「千歳!あんな寒空に外で!!それも夜中の3時まで!まだ6時台だぞ!!」
「それすら千歳とジョマの戦いになっている」
無茶苦茶だ。
いくら明日を準備に充てたと言え、雪が舞う中で9時間も人のままで力を使うなんて…
その交渉をツネジロウがしていた。
何も考えていないのか?
千歳ならやれると信じているのか?
「マリオン、ジチ、キヨロス」
私は頼れる仲間に声をかける。
「ツネツギとの時間を作らせてもらう。
済まないが子供達の事を見ていてくれないか?
おかしな点が出たらすぐに教えてくれ」
「うん。何かあったらすぐに教えるよ」
「当たり前だろ?ツネツギの覚悟作りはルルに任せたからね」
「そうだよ。大丈夫だから。チトセもツネジロウもやる。ツネツギだってやれるよ」
「神様、ツネツギ達の状況は?」
「千明が珍しく感情を表している。
ツネツギは謝っているよ」
「行くなと」
「そうだね。セカンドでの時差ボケに肉体と精神の差異はいい事が無いからね。
千明も我慢の限界だったんだ」
普通の感覚だ。
私も行くなと言いたい。
だがツネジロウを知って、ツネジロウの思いも知った今その言葉を言って良いのかがわからない。
少しして「千明が決心してくれた。ツネツギがもうすぐ来るよ」と言われた。
私は神殿内で専用に当てがわれた部屋でツネツギを待つ。
だがその前に神様が千明からメッセージだと言って教えてくれた。
普段の千明がよくわからないが、千明らしいしっかりとした文章。
私はそれに返信をする。
やはりツネツギの存在は大きくて重い。
私達全員で支えなければダメだ。
そんな事を含めて返事をして貰う。
「やはり私達は似たもの同士だな千明」
思わず口に出る。
「来るよルル」
目の前に降り立ったのは私の最愛の男。
この男を失いたくない。
死んで欲しくない。
一番にそう思ってしまった。
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