伊加利 常継の章⑨残り2日。

第168話 東は納得した…いや東を納得させた。

起き抜けのスマホチェックで気が遠くなることには慣れたつもりで居たがまた更に気が遠くなる。

今回はSNSの書き込みではなく東からメッセージが来ていてそれを読んだ。

なんと千歳だけではなくツネノリも一回休みになり、千歳は二回目の休みを取ることになっていた。


そこは俺としてもありがたいし、何よりもあの2人の強さはセカンドの中では規格外すぎて著しくバランスを崩す事もあり、協力プレイと言うのは無理があるレベルなので、下手に恨みを買うくらいなら休んでくれたほうがいい。


そして自信家のプレイヤーから勝負を申し込まれた事。

2人とも休日で気が抜けたのか、強いとは言え勝てない相手ではない敵からのダメージ。


それにキレた千歳が人を捨てようとしてジョマに止めてもらった事、ツネノリがジョマと東の判断で3人目の師匠を知り、その知識で敵を撃破した事なんかが書いてあった。


「3人目ってキヨロスかよ…、それもジチと一緒で料理まで仕込まれたって?」

俺は思わず口にしてしまう。

キヨロスが子供達に厳しい理由もツネノリを鍛えて自信を持った事らしいし、色々と複雑な気持ちになった。


後はツネノリの鈍感力が話題になっていて神殿では俺に似たと言うことになっていた。


「はい、ツネノリの鈍感さはあなた譲りですよ」

東から同じく連絡を貰った千明が俺を見てそう言った。


「マジかよ」


千明はニコニコと朝食の用意をする。

「ルルさんと私の気持ちに気付かない人が何を言っているんですか?」


「ぐっ…」

今朝も風当たりは厳しいようだ。


「残り2日ですね」

「ああ、子供達は残り5日だ。

ようやくここまで来た」


「はい、貴方と東さんは今日からが本番ですね」

「ああ、そして千歳は明日以降が本番だ」


俺と東はサードガーデンの件で朝から社長と話し合いがあるし、千歳はイベント終了後にジョマの件が残っている。


「私に出来る事があったら何でも言ってくださいね」

「ああ、千明が居てくれると分かっているだけで心強いよ」


そう言った俺は身支度を済ませると足早に出社をする。


玄関ではもう当たり前になった北海…ジョマのお出迎え。

「おはようございます副部長。休日出勤ご苦労様です」

「ああ、今日もありがとう。娘と息子の事もありがとう。

随分と助けてもらったみたいだ」


「いえ、お休みを挟んだ事が原因でしたので、可能な限りフォローをさせていただきました」

「社長は来ているかな?」


「はい。あの方はいつも普通の従業員より早く出社しますから」

「わかった、では東と行く。君も来てくれ」


「サードガーデンですか?」

「ああ、東は納得した…いや東を納得させた」


「ありがとうございます」

そう言ってジョマがプレゼントを貰える子供みたいな顔をして喜ぶ。

初日の面影はどこにもない。


「あ、1つ…2つかな、良いでしょうか?」

「何だい?」

俺は当たり前に聞く。

初日なら身構えていたのだが今は警戒をしていない。

これも千歳のおかげだろう。


「今日なんですが…、今日もプレイヤーからの要望で常則様、千歳様、副部長、それと昨日の対戦相手の山田…セカンドではクロウですが、彼を含めた4人を外して欲しいと要望が多数届きまして…」

「マジか」


「はい。すみません。このイベントは失敗しました」

余程ショックなのだろう、ジョマが悔しそうに話す。


「いや、それでいいと思う」

「はい?」


「プレイヤーが盛り上がってセカンドが輝くのが1番だ。

俺達や特定のプレイヤーだけが輝いても面白くないだろ?」

「あ…」


「だから君のイベントで今の所1番盛り上がって輝いている。自信を持ってくれ」

俺がそう言うとジョマは嬉しそうに「ありがとうございます!」と言った。


「それで?もう一つは?」

「はい。あの常則様の鈍感力ですが、副部長譲りだと私も思います」


そう言ってジョマは一足先に社内に入っていく。


「くそ、ジョマまでそれを言うのかよ」

俺は不満気に開発室に入る。


「東、社長の所に行くぞ!」

「常継、僕も常則の鈍感力は君譲りだと思うよ」



「んぎぎぎぎ…どいつもコイツも…、チクショー!!」

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