第139話 楽しそうで何よりだな。

東は作った200本の「タマゴ喰い」をスタッフカウンターに置きに行く。

イベントを盛り上げる点からスタッフに半分、プレイヤーに半分を持たせる事を提案する。


「そうだね。では北海にもそういう風に伝えておくよ」


よし、俺は意を決してゼロガーデンに降りる。

0と1の間に何日居たのかわからないが相当量の情報が俺に襲いかかる。


「ぐぅあぁぁっ!?」


ツネジロウの葛藤、キヨロスとの模擬戦、千歳との事。

そしてルルの怒りと涙。

そしてツネジロウの心理状況が入ってくる。


…昔、千明と付き合う前に東とルルによって土日にゼロガーデンに来れなくなった時の嫉妬なんかもツネジロウは感じていたんだな…

俺が去年1年千歳から疎まれていた時の苦悩なんかもか…

そう思うともう少し労わって行かなければと思った。


そんな俺を千歳が心配そうな顔で見ている。


「お父さん?大丈夫?」

「大丈夫だ、ツネツギはツネジロウの体験を追っているんだ。今回は0と1の間にも居たし、普段と違う体験も多かったからの。ツネツギの負担もあるんだろう」


俺が言葉を発せないのを見てルルが千歳を落ち着かせる。

暫くしてようやく落ち着いた俺が口を開く。


「ふぅ…。すっげー疲れた。

おはようルル。おはよう千歳」


「ああ、よく来た」

「おはようお父さん。ご飯出来ているんだよ」


「ああ、私と千歳で作った。千歳は働き者で助かるな」

ルルが嬉しそうに言う。

ツネジロウの記憶の中でもマリオンと子供の人数に関して話していた。


ルルは一緒に料理をしたりする娘も欲しかったのかもしれない。

そう思うと申し訳なくなる。


「お父さん?」

「何だ?」


「その考えは良くないし私が居るんだからいいでしょ?」

「え?」

そう思って千歳を見ると黒髪が茶色になって…茶色!?



「千歳!力、神如き力を使っているぞ!!」

「あ!!ダメダメ、落ち着かなきゃ」

そう言って千歳が深呼吸を繰り返すと髪の毛が黒に戻る。


「まったく…、昨日は大人しかったのに…、ツネツギが来た途端にこれか?」

「あはは、ごめんねルルお母さん」

照れ笑いをする千歳とやれやれと言うルルの姿は母と娘にしか見えない。


「千歳、一体ツネツギの何を読んだのだ?」

「うーん…読心の力って良くないね。知らなくても良い事まで知っちゃうよ」


「お前、気をつけないと新学期大変だぞ…」

「うん、そこら辺は東さん達に何とかしてもらいたいなぁ…」


「千歳、それでツネツギは何を思って千歳はそれの何に注意をしたのだ?」

「ああ、もっとルルお母さんとの子供が欲しかったって話。ゼロガーデンにも娘が欲しかったなって思ったから私が居るんだからいいでしょ?って言ったの。ルルお母さんは私が娘でもいいよね?」


「ああ、千歳は私の娘だぞ。それにしてもまったく…ツネツギめ子供が欲しいのならもっと早くに言えば何とかなったであろうに…、四十を過ぎて言われてもなぁ…、もう一度身体を割って二十代に戻るか…?いや…もう一度身体を割っているから同じ方法はダメかも知れないなぁ…」

「ルルお母さん!ダメだよ変な事考えちゃ!!いいじゃん私が居るんだから!」


「あ、ああ。そうだな。ついツネツギが子供を欲しいと言うのであれば…と考えてしまった」


「もう、ルルお母さんはお父さんが好きすぎるんだから」

そう言って千歳が笑ってルルも笑う。

俺もそれを見てホッとしたのかつい笑ってしまう。


「よし、食事にしよう。ツネジロウまで気を使ってツネツギを待っていたのだからな」

「ああ、助かる。朝からこっちは東が千歳の事を説明に来たりしていたから何も食べていないんだ」


「そうなの?ごめんね」

「いや、見た感じいつもの千歳でホッとしたよ」


そして朝食を食べる。


「なぁルル。この家ってコピーなんだろ?」

「ああ、神とジョマはそう言っておったのぉ」

それにしても良く出来ている。神って言うのは凄いもんだ。


「研究室とかはどうなってんだ?」

「私も気になったので扉を開けてみたが何もない壁だった。あるのは風呂とトイレと私達の寝床だけだった」


「それにしてもあのベッドで3人川の字で寝るとはな…」

「千歳は可愛かったのぉ…」


「ルルお母さん、恥ずかしいよ」

「そうか?ツネノリにはない可愛らしさで私は嬉しかったがな」


「ああ「グロいぃぃぃ」って起きて俺の腕やルルの腕にしがみついていたな。ツネジロウも可愛いと思って頭を撫でていたな」


「金色のお父さんも優しかったよ」

「俺と同じ感じじゃないのか?」


「ううん、ツネノリとも話したけど違うんだよね。まあ、お父さんも優しいから大丈夫だよ」

「大丈夫って…、まあ良いけどさ」


ひとしきり食事を楽しんだ後、一個気になって聞く。


「ここは時間の流れはどっちなんだ?ゼロガーデンだから通常時間だとすると千歳が居るのは午後4時までなのか?」

「おお、それなら神様が時間操作をして下さっているからセカンドと同じ時間の流れになっておる」


「じゃあ、ゼロガーデンで言う午後7時…、セカンドで言う明日の朝9時までか?」

「そうなるかの」


「どうする千歳?俺はこれからメリシアの両親に会いに行く事になる。それからツネノリの所に行くんだがタツキアに行くか?」

「行かないよ」


「何?」

「だってルルお母さんと居たいんだもん。今日は一緒に洗濯をしてからこの家のお掃除をして、2人でご飯を作って食べてから午後はアーティファクトについて教えて貰うの」


「ルル、戦いから離す為の一日だろう?アーティファクトに触れさせていいのか?」

「大丈夫、ただの情報交換だ。千歳の柔軟な考え方を学びたいし、千歳も自身の適性を見極めたいと言っておる。ジョマとの戦いもこのままでは済むまい?」


「そんな訳で、お父さん一人で行ってねー」

「…おま…楽しそうで何よりだな」


「うん!」と言った千歳がルルの腕に抱き着く。

「済まんのおツネツギ。メリシアには次元球を持たせておるので向こうに着いたら自分から通信させてくれ」


ルルがニコニコとしながら千歳を見ている。



「あ!!!」

突然千歳が大声を上げる。


「どうした!?」

「何事だ!?」


「忘れてた!」と言った千歳が腕を出してくる。

「ほら、ルルお母さんもお父さんの方に腕を出して!」


「何?」

「いいから!お願い~」

千歳が甘えた顔でルルにお願いと言うとルルも緩んだ顔で「こうか?」と言う。

俺はその仕草を見て気づく。


「ああ、そういう事か」

「そうだよ~」


「なんだ?何を言っておる?千歳?ツネツギ?」

困惑するルルを無視して俺は2人の前まで進むとそのまま2人を抱きしめる。


「ぬあ?何を!?」

「ふふふふ~」


それはセンターシティのホテルで千明がツネノリと千歳と抱き合っていた姿と被る。



「ツネノリが居ないのが残念だけど、私がお父さんとルルお母さんを独り占めするの」

「千歳…、お前って娘はまったく…」

「ルルは嫌か?」


「嫌などとは言っていないぞ。千歳はどうしてこう私がしたい事やして欲しい仕草をするのだ?まさか神の…」

「違うよルルお母さん。私の髪は黒いままでしょ?

私がして欲しい事とルルお母さんのしたい事が一緒なだけだよ」


そう言う千歳が腕に力を入れる。

ルルが嬉しそうに涙を浮かべる。

「今度、ツネノリと4人でもこうしようね。でも今は家族3人でするの」


その声に合わせてルルも力を入れる。


「ねえ、ルルお母さん。これからもこうやって会ってくれる?私が来ても邪魔じゃない?」

「馬鹿者、邪魔な訳があるか!それこそ男共を抜きにして2人で会いたいくらいだ!」


「ふふふ、嬉しいな~、うちのお母さんとも違うお母さん。私お母さんが2人も居て得してる感じだね」


そう言う千歳をルルと2人で暫く抱きしめた。


「さて、名残惜しいが俺は行く。先に神殿に行ってメリシアに用意をさせたらタツキアで次がツネノリだな。ツネノリはサイバだったな?」

「うん。ツネノリ初めての1人宿泊だったけど1人で寝られたかな?」

千歳がふと疑問を口にする。

俺も聞いていて何となく気になってしまう。


「…大丈夫だろ?」

「そう言えばツネノリには一人旅とかさせていなかったから、必ず部屋は違えど人が居たな…」


「まさかなぁ…」

俺はそう言いながら少し不安になる。

ルルや千歳に「考えすぎだよ」と言って欲しかったのに2人とも「ははははは」としか言わない。


「……ツネノリが寂しがっていたら優しくしてやろうな」

「うん」

「そうだな」

俺達の間に奇妙な連帯感が生まれる。


俺は2人から離れて身支度を整える。

「じゃあ行ってくる」

「はーい、行ってらっしゃい」

「気をつけてな。ツネノリを頼む」


「ああ。あ、千歳、さっきのお母さんが2人って奴だが、5人だぞ。いい機会だからノレル達にも挨拶をしておくと良い」

「ノレルお母さん?別のお母さん?ああ、そう言えばノレノレお母さんにまだ会っていないや!!」


「こら、ツネツギ!私と千歳の時間を奪う気か?あ!…こら!やめろ!!」

そう言うルルの左腕が胸のアーティファクトに伸びていく。


誰かな?まあ、ノレノレかな?

そう思っているとルルの身体が光って青い髪のノレルが出てくる。


「ノレルか?」

「ああ、呼んでくれてありがとうツネツギ。一応出るタイミングを伺っていたんだ」

ノレルは俺と千歳を交互に見る。


「わあ…髪が青い。ノレルお母さん?」

「ああ、初めまして千歳。会いたかった。私の娘」

そう言ってノレルが千歳を抱きしめる。

ノレルは娘が欲しかったんだな…

てっきり一番手はノレノレだと思ったんだがノレルだった。


「じゃあ二人とも、俺は行くから後よろしく」

そう言って俺はコピーハウスを後にする。

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