伊加利 常継の章⑧世代交代の気配。

第138話 じゃあ千歳は日本に戻れるのか?

帰宅して自宅からスマホで見たセカンドのイベントは滅茶苦茶だった。

センターシティを三方向から絶え間なくギガントダイルが襲いかかってきて徐々にギガンスッポンと言う超大型の魔物がセンターシティを狙う物だった。

俺はすかさず東に連絡を取ったが東からはこちらでなんとかするから休んでいろと言われた。


おちおち休んでいられるか?

俺の焦りを感じた千明が「信じて待ちましょう?」と言って夕飯を出してくれた。

「ごめんなさい。常則の事があったから簡単な物しか作れなくて…」

そう謝るがしっかりとサラダとパスタにスープが出てくるのが千明だ。


「いや、十分すぎる」


途中、東からはスマホに「まったく、常継がうるさいから動画を送るよ」と言って動画が入ってきたので飛びついてみたらナックとマリーの息子のリークがキヨロスに「やる気見せなよ?」と詰め寄られて泣いている動画だった。


「東ぁぁぁっ!!」

「煩いなぁ…仕方ない奴だ。見たいと言ったのは君だろう?」

そして動画が4つ届く。


一つはツネノリが機動力にものを言わせてギガントダイルを蹴散らす動画

一つは神殿でのやり取り…ツネジロウとキヨロスの戦いは見ててひやっとしたが問題はそこじゃない。

メリシアを実戦に投入しやがっていた。

本人の意思があったとは言え戦闘用に蘇らせてギガンスッポンにぶつけやがった事に目の前がクラクラきた。

一つはそのメリシアがツネノリの赤メノウとしてギガンスッポンを見事に斬り付けてツネノリの為に特大のアーティファクト砲を使って道を切り開いていた。

最後の動画は千歳がルルと協力して「創世の光」を発射していた。

ルルが考えていた方法はアーティファクトの次元移動だったのか…

動画の中で北海が千歳を案じて出てきたり、撃退後にツネノリとアーティファクトの使いすぎで眠りについた千歳を逃していて俺はますます北海の事が分からなくなった。


「あら?わからないの?全部ガーデンの為ですよ。だから頑張れば勝てる敵を用意してくれて居るんです」


「だがセンターシティはギリギリだったぞ?」

「でも勝てたから無事でしたよ?」

確かにそうだがどうしてもゼロガーデンでの出来事が邪魔をしてしまう。


その後はセカンドも夜になったので俺は不安を抱えながらも寝た。


事件はそんな夜中に起きていて、朝起きたばかりの俺の元に東から「非常に大事な話がある。

そちらに顔を出すから身だしなみを整えたら連絡をくれ」と言われて千明共々朝食は後回しで身だしなみを整えることになる。


「やったぞ」

俺はもうスマホを使わずに天井に向けて話しかける。

ツネノリや千歳も真似をしているのでガーデンでの端末は最早千明とルルと連絡を取る為になっている。


「やあ、おはよう」

そう言って東が申し訳なさそうに入ってくる。


普段の飄々とした顔と違う表情を向けられた俺は思わず息を飲む。


「常継、時間は止めたし通勤もこのまま僕が開発室まで連れて行く、時間ギリギリまで千明と3人で話をさせてくれ」

「一体何があった?」


「千歳の事だ」

その言葉で俺の全身は汗ばむ。


「何があった?」


東は順を追って話す。と言い「創世の光」の発射の為にアーティファクトを使って昏睡状態の千歳を神の世界に連れて行った事。

地球の神との交渉を見事にやり遂げ、更に作られた開発室で眠っている俺や千明も参加をして北海が創造神ではない別の神と言う事、何故北海が傷を癒す為に地球に身を寄せていたかも知り完全解決の筋道を見つけたと言っていた。


「ここまではいいかい?」

「ああ、千歳がそこまでやれたのは正直驚いているが完全解決が目指せるのならいい事だと思う」


「そして千歳は北海から次のイベントをクリアする為にはキヨロスの持つ「革命の剣」を理解する必要があると言われた」


そして千歳が東に二つのお願いをする。

一つは絶対に北海を魔女と呼ばない事。

もう一つはキヨロスと話をしたいと言う事。


キヨロスとの会話で少しやりあったと聞いて、これまた気が遠くなったが、まああのキヨロスに気に入られたのなら悪い気はしない。

変な話だが俺達の子供達の中でキヨロスから好印象の子供は貴重なのだ。

皆キヨロスに鍛えられて大概は泣いている。


そしてキヨロスが「革命の剣」の事を漏らさず伝える為に「意志の針」を使った事。


そこから千歳の異変が始まったいた事を言われる。


「異変だと?何があった!?」

「あなた落ち着いて、東さん続きを」

俺は慌てるが千明がそれを制止する。

千明が居てくれて良かったと思う。


「千歳はキヨロスの伝えたい以上の情報、当時の心理や記憶みたいなものも勝手に読み取ったんだ。

そしてキヨロスに感化された。

お陰で千歳は光の玉…ツネノリは千歳玉と呼んでいる。

それに行き着いた」

そうして東は映像を出す。

千歳は拳大の光の玉でツネノリをサポートしている。


「問題はこの後だ」

そう言って悪魔化出来るプレイヤー、その最後の4人がホテルを強襲する。

千歳がキヨロスと言い合いになりながら光のメスで一体の悪魔を圧倒する。


「どうしてアイツはグロいの嫌いなのにグロい攻撃しかしないんだ?」

「ツネジロウも皆疑問に思っていたよ。問題はこの後だ…」


悪魔化したプレイヤーがスタッフを襲いたかったと言ったことにキレた千歳が豹変をする。


光のメスを光の釘に変えて悪魔に突き立てて爆発させる。

しかも殺さないように…長く苦しめる拷問のような形でだ…


「あなた?変だわ…」

映像を見ていた千明が違和感に気づく。


「変?」

「セカンドはプレイヤーに痛みなんて無いのに…、それにサイバなら街外れからホテルまでツネノリの足ならもう到着しても…」


「そこだよ千明。これが問題なんだ」


千歳は神の世界に赴いたことで神隠しにあった人間と同じく「神如き力」に目覚めてしまったと言う。

「意志の針」で必要以上に情報を受け取ったこと。

プレイヤーに痛覚を付与したこと。

時間操作により永遠に近い時間でプレイヤーを拷問し続けたこと。


東はそのまま…今のままだと千歳が元に戻れなくなるとしてジョマと協力して千歳を止める。

そのままゼロガーデンに連れて行った。


「おい、なんで千歳が次元移動できる?北海のプロテクトは?」

「あの状況下で彼女がそんな真似する訳ないだろ?」

「じゃあ千歳は日本に戻れるのか?」

「常継は何を言っている?千歳が戻ると言うわけ無いだろ?」


ゼロガーデンでは俺達の家が複製されていてそこでルルとツネジロウが東と北海に協力して千歳の心を取り戻す事になっていたのだが、東と北海の封印を超えて成長する千歳の神如き力。

致し方なく予定を変更して全てを説明して千歳に状況を受け入れてもらう道を選ぶ。


そしてその先も問題だった。

「ツネジロウの秘密…だと?」

俺のガーデンの身体として存在するツネジロウが次元移動出来ないこと。

次元移動をしたら最悪死ぬこと。

ルルやツネノリの視線がツネジロウではなく俺を探していた事にツネジロウが気付いていた事。

そんな事があってルルがガチギレして、ツネジロウを殴った事。


「とまあ、昨日の夜から結構激動だったよ」

「千歳が神様…」

「千明、大丈夫。北海も手を貸してくれただろ?髪の色に注意していれば暴走はないよ。

だが済まない。

良かれと思った事でこんな事になってしまった」

そう言って東が頭を下げる。


「それで、今日はどうなる?」

「ああ、千歳は怖い夢対策でゼロガーデンのあの家でルルとツネジロウと川の字になって寝ているよ。ついでに溜まった洗濯とかルルに頼むみたいだよ」


「何?俺はあの家から始まるのか?

それにしてもなぁ…、情報過多で降りてすぐ疲れそうだな…、一瞬で全部追体験するからなぁ…」

0と1の間に居られるだけでも事なのにそこで更にアレコレあったとかなるのは覚悟が要りそうだ。


「あなた、頑張ってくださいね」

「…頑張るよ」


「そしてツネツギはタツキアに行ってメリシアの無事をメリシアの両親に伝えたらツネノリと合流してイベントに参加をしてくれ。

千歳は戦いから離す為にも1日お休みだ」


「千歳抜きか…辛いな…」

「北海は僕とツネツギが少し考えれば閃くと言っていたよ。それもあって来たんだ」


「考えろって…?

もうゼロガーデンからモノフを呼び付けて片っ端から「悪魔のタマゴ」を食わせて歩こうぜ?

東が監視、俺が移動、モノフが食べるって感じでさ」


「それはダメだろう?」

「わかっているよ。くそっ…もう「暴食の刀」だけ持ってきてツネノリに振るわせるかな…、ルルが居れば次元移動出来るんだろ?」


「次元球が「暴食の刀」に食われてしまうよ…」


「ん?」

「ツネツギ?」


「だったら「暴食の刀」を量産して期間限定で配ろう」


「何だって?」


「モノフのとは違って、切れ味落としてなまくらにして「悪魔のタマゴ」にしか効果がないようにしてスタッフカウンターで配るんだよ。

プレイヤー、スタッフ関係無くして皆で自衛するんだ。

東、北海の電話番号を教えてくれよ?」

俺は東がから北海の電話番号を聞き出すと千明に渡す。


「何を聞けば良いんですか?」

「ああ、今日のイベントが起きる街と悪魔のタマゴを配るプレイヤーの人数かな?」


「わかりました」と言って千明が北海に電話話する。


「千明、スピーカーで頼む」

「はい」


「おはよう御座います千明様」

「おはよう北海さん。昨日もありがとう。後は千歳の事もありがとう」

北海は千明の電話番号も知っていたのだろう。驚くことなく話が始まる。


「いえ、私がしたかった事ですから。

それで、この電話が来たと言うことはそこには東と副部長が居ますね?」

「当たりよ。今日のイベントのことで聞きたいことがあるんですって?いいかしら?」


「はぁ…

まったく…、男共は自分で電話すればいいのに千明様を使う辺りが情けないと言うか…」

「あら、私が北海さんに電話したかったから了承したのよ。嫌だったら自分でかけなさいって言ってるわ」


「ですね。千明様ならそうしていますね。

ありがとうございます。

それで用件は?」


「あなた、折角のスピーカーですから話せばどうかしら?」


俺は千明に頷く。


「俺だ、伊加利 常継だ。

今日のイベントで聞きたいことがある。

悪魔のタマゴはどこの街で何人に配る?」


「おはよう御座います副部長」

「おっと、挨拶が抜けたな。おはよう」


「ふふ、今日はサイバとグンサイですよ。悪魔のタマゴは180個です。

千歳様が居ないから頑張ってくださいね。

それでどうされます?」


「俺達は「暴食の刀」…レプリカだがそれを配って防衛に回る」


「あら素敵ですね。そして正解です。

千歳様と千歳玉に期待出来ない以上街ぐるみの防衛が必要ですね。

それでは頑張ってくださいね」


「ああ、では社で会おう。

後、千歳の件を東から聞いた。

本当にありがとう」


そして通話を終わらせる。


「僕は出社したら「暴食の刀」を複製しなければね。

何本にしようか?」


「スタッフに戦闘力は無いから200くらいか?それなら北海も文句は言うまい」


「わかった。名前はどうする?」

「んー…、千明は何がいいと思う?」



「そうですね。「タマゴ喰い」でしょうか?」

「よし、それにしよう。ツネツギ行こう」


俺は鞄を持って靴を履く。


「あなた、気をつけて行ってきてくださいね」

「ああ、行ってくる」


「あ、北海さんの飲み物チャレンジ、忘れちゃダメですよ!」

「何!?」


「ああ、機嫌を損ねたら大変だな。頑張れ常継!」

「マジか…」


俺は出社して自販機の前で唸る。

見かねた若い子達が「1万円札なんですか?両替しますよ?」「奢らせてください!」等と来たが「済まない、これも勝負なんだ」と言って断って悩む。


コーヒーでは無い甘い飲み物?


炭酸系、

乳酸飲料系、

お茶系、

栄養ドリンク…


わからない。


とりあえず大人の女という線で甘い飲み物…

レモンティーにしてみた。



「副部長、ハズレです。紅茶は嫌いでは無いですが、正解ではありません」

「くそっ!まあ飲めるなら飲んでくれ」


「ご馳走様です。後二回です」と笑われた。


「ぬあっ!わからない!!」

「ふふふふふ、楽しいですねこれ」


くそー…、ヒントは無いのかヒントは?

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