第111話 だがこの状況は受け入れて欲しいと思う。

ジチが料理を作ってくれている間に俺達はこの先の話をする。

「ルル、俺が外に行く前にざっと話をしたい」

「ああ、その為に来てもらった。ツネジロウはこのままここで過ごすことになる。明日もここから始まる」


「東、千明は?」

「ああ、無事に帰ってきている。今は少し疲れてたと言って休んでいるよ。だから少し話しこんでも平気だよ」


「ああ、助かる。千明には済まないと言っておいてくれ」


俺は皆を見て「みんな、この事態に集まってくれてありがとう」と言って頭を下げる。


「説明は全部伝わっていると思う。この先、メリシアが無事に生き返った場合、セカンドガーデンに居るボウヌイと言う村に居た人間を全員蘇らせて貰いたい」


「その為に私はこれから「魂の部屋」を量産する。風呂場には一度に20人ずつなら入れるだろうから魂の部屋は40個だと思っている」


「僕たちは人形を作ればいいんだね。全部で何体だい?」

「全部で2000人だ」


「それは多いねぇ」

「申し訳ない、だがどうしてもファーストガーデンとセカンドガーデンを守るためにも必要な事なんだ。頼む!お願いしたい!」


「僕は全然かまわないよ。カリンとマリカ、それとリークも頑張ってね」

「はーい」

「お爺ちゃん無理しないでね」

「…が…頑張ります」


「それで僕は応援するために「究極の腕輪」を使ってジチさんはご飯を作る」


「すまない」


「はいはい!はーい!!

いいんだけどさぁ、報酬の話させてよ!

これも仕事なんだよね?」


「マリオン…、そうだな。そこは大事だよな。東!」

「ああ、メリシアも含めて約2000人。1人蘇生する度に100エェンを支払うよ」


「100エェン!?本当!!」

マリオンが目の色を変えて喜ぶ。


「だが一言添えるぞ?私とキヨロスとジチの所も取るからな?」

「えぇ~」


「文句を言うな。私は1人10エェンでいい。キヨロスは?」

「僕とジチさんも10エェンでいいよ」


「えぇ~、アンタ王様だからお金いらないじゃん」

「駄目だよマリオン、あのお金は国の皆の為のお金なんだから。

僕だってお金必要なんだよ、一の村の父さんと母さんにもあげたいし、リーンの両親やガミガミ爺さんにもあげたいんだから」


「…仕方ないなぁ…、じゃあ残りの80エェンをお爺ちゃんとカリンとマリカとリークで分ける訳か…」

「うわ」

「お母さんの計算が早い」


「うちは40エェンだとして2000人だから…80000エェンだ!凄い!!」

マリオンがウキウキとしている。

…あまりに不謹慎に感じてしまう。


「マリオン、いいか?」

「何ツネツギ?」


「これは最低の話なんだ。まだあの女の攻撃が続くから死者は増えると思う…すまないが…」


「気にしないでいいよツネツギ!皆がジャンジャン生き返らせてくれるからさ!!」


「お母さん…」

「それって言っていいの?」


「うん、生活が大変なのはわかるけどそれって言っていいのかな?」

キヨロスまでマリオンのテンションに引いている。


「だがそう言ってくれると助かる。俺達は1人でも多くの人が死なないように頑張る。だが万一の時は皆が後ろで頑張ってくれていると思えると助かる」


そう話していると東の声がする。

「ツネツギ、千明が起きたよ」

「わかった、今すぐ行く」


「皆、また明日来る。ルルやメリシアの事をよろしく頼む」

「任せておいてよ」

「うん、大丈夫。安心して向こうに行って」


「あ、ツネジロウの事もよろしく…あまりこき使わないでくれよ」

「あははは、大丈夫だよ。心配しすぎ」


「ルル、済まないな」

「ああ、気にするな…、それでな…」


ん?

ああ、何となくわかる。


「そうだ、千歳がルルに会いたがっていた。全部終わったら会って話がしたいらしい」

「何?千歳がか?まったくしようのない娘だな」

ルルが嬉しそうな顔で迷惑そうなフリをする。


「ああ、ツネノリも俺達と千歳の4人で食事をしてみたいと言っていたぞ」

「ツネノリもか!まったく…可愛い所がある」


「それで千明も含めて5人家族で集まってみたいと2人から言われた」

「ああ、ノレル達も千明と千歳に会いたがっておる。これが終わったら集まろう」


さっきのルルの顔はツネノリが千明に取られたと思ってヤキモチを妬いている時の顔だからな俺にはよく分かる。


「ツネツギ、5人じゃないでしょ?」

「ん?ああそうだなマリオン。そこにメリシアも入れたいな。そしてその後はゼロの仲間達と皆で会いたいものだ」


「そういう事」

「ルル、じゃあ行ってくる」


「ああ、しっかり休め。夜中の戦いは神に頼んで私も気にしておく。安心してくれ」

「本当済まないな」


俺はそう言ってルルを抱き寄せる。


「わぁ、大胆!」

「本当、お母さんだけじゃないんだね。みんな大胆だね」


「うちの父さんと母さんは違うよ」

リークが反論をしている。

まあ、ナックとマリーは最終決戦にしか参加していないしな。


「大丈夫、万一の時は僕が何とかするよ」

「え!?キヨロスが乗り出すとあの魔女が何をしでかすか分からないから裏方で頼む!」


「そう?」

「あははは、アンタ非常識すぎるんだよ」


「マリオン酷くない?」


俺は懐かしい気持ちになりながら神殿を後にする。


開発室に帰った俺は時計を見ると時間は午後6時半だった。

「あれ?こんなに早いのか?」

「0と1の間に居たしね。後は色んな場所を行ったり来たりしたから時差ボケかもね」

東が笑いながらそう言う。

時差ボケはファーストを作った時は結構悩まされた。


「お帰りなさいあなた。お疲れ様です」

千明が笑顔で俺を迎えてくれる。


「ああ、千明もありがとう」

「いいえ、貴重な体験でした」


「お疲れ様、常継」

「メリシアはいつ終わる?」

「多分、今晩中には終わるよ。0と1の間だからね。ただ長時間あの空間に居させたくないから途中途中で通常時間に戻すよ」


「ツネノリ達には?」

「そこはルルに任せるよ」


「きっとツネノリ喜ぶわね」

「ああ、そうだな」


「みんな素敵な人達ね」

「ん?」


「ああ、千明が少し暇をしていたから神殿の映像をダイジェストで見せていたんだ」

「…お前…」


「駄目だったかい?」

「いや、駄目じゃないがあのメンバーは仲間の中でも濃いだろう?」


「そうね、あのルルさんが怯えている人ですものね」

「ああ、キヨロスか…」


「凄い人なんですってね。ルルさんがルノレさんになってもルルさんって呼び続けるし」

「あれは魔王だ魔王…、今回だってキレたら何をしでかすかわからん」


「でもリークくんに詰め寄った時は仕事人って感じがしたわ」

「え?リークってナックの所の息子だろ?キヨロスが詰め寄ったのか?可哀想に…」


「泣いていたよ」

「東、その映像俺も見たい。後で送ってくれ」


「ああいいよ。

そして丁度…と言うか見ていたんだろうね。お迎えだよ」


「こんばんは副部長。お迎えに上がりました」

「北海さん!さっきはどうも。何か4時間ぶりのはずなのに、私セカンドに居たから感覚がおかしくなっちゃって、凄く久しぶりの感じだわ」


「はい、千明様。私も久しぶりの感じです」

「さっきはお疲れ様。辛かったのにちゃんとイベントを盛り上げていて見事だったわ」


「いえ、千歳様や千明様の激励があってこそです」


「さあ、常継また明日だ」

「ああ、じゃあな東」


「東さん、今日はありがとうございました」

「千明もまたね」


そして俺達は廊下を歩く。

千明と北海は止まらなく話している。

まあ、話すと言うか千明が一方的に話している。


「あ、あなた。北海さんはコーヒーが好きじゃないのよ」

「え?そうなのか。でも朝は…」


「あ、千明様…、いいんですよ。副部長から頂いたコーヒーは美味しかったですし」

「駄目よ、好きなものがあるなら好きって言わなきゃ」


こうして話す北海はとても魔女に見えない。

本当に千明と千歳にかかれば北海の問題も無くなるのではないかと思ってしまう。


「あなた、ちゃんと自分で北海さんの好きな飲み物を聞いてくださいね。東さんに聞くのも反則ですからね」

「あ、ああ。わかった」

「…あなた。まさかとは思うけど手あたり次第買って行ってどれが好きとか聞かないでしょうね?」


「うっ…」

「北海さんも何とか言ってよ」


「ふふふ、副部長。チャンスは3回で楽しみにお待ちしていますね」

「マジかよ」

俺は2人の女に囲まれてタジタジになってしまう。


「ヒントは差し上げます。ヒントは甘い飲み物です」

「あら、あなた。良かったわね。これであの自販機の半分が消えましたよ」


「まだ半分もあるだろ…」

そう言うと2人は声を上げて笑う。

そんな事を言っていると玄関が近づいてくる。


「北海さん、駅までご一緒してくださらない?」

「え?」


「駄目かしら?忙しい?」

いや、北海は神なのだ同時進行くらい余裕でやれる。

だが何で千明は魔女を誘うんだ?


「…本当敵いません。千明様は私の気持ちを察してくださったのですか?」

「違うわよ。私がもう少し一緒に居たいって思ったの。駄目?」

気持ち?北海は千明と居たがっているのか?


「…本当敵いません。千明様の適度な距離感に私メロメロです」

「ふふ、私も北海さんの距離感は好きよ。このまま仲が良くなっても家までは来ないでしょ?」

「はい、私も呼ばれても困ります」


そう言って北海は一緒に社外へ出る。

「あ、あなた。北海さんがまた下着くれましたからね」

「…本当に申し訳ない」


「うふふ、構いません。でも千歳様は女の子なんですからね。気を使ってあげてくださいね」

「努力するよ」


その後も駅まで千明が北海に話しかける。

本当にその姿は仲の良い同僚と言った感じだ。


「あーあ、あっという間に駅に着いちゃった。また会いましょうね」

「はい。ありがとうございます。私もあっという間でした」


「それでは明日もよろしく頼むよ」

「はい、副部長もよろしくお願いします。後、常則様の件良かったです」


「ああ、起こった事には何も言わない。だがこの状況は受け入れて欲しいと思う」

「はい、あそこも東が見張っているので中は覗けませんでしたが、あの人員であればやる行動は「人形人間化」ですよね」


「そうだ、ルルは「奇跡の少女」と言う計画名にしていたよ」

「読みはマリオンですね」


「不服かい?」

「いえ、素晴らしい試みだと思います。東の手も借りず人がそれを可能にする。そういう事であれば私はずっと賛成です」


「ありがとう」

「いえ、皆さんも大変だと思いますがよろしくお願いします」

そう言って話をする北海は本当にビジネスパートナーにしか見えない。


「ああ、サードの件。一応毎日説得はしているよ」

「はい、期待しております」


「それじゃあね北海さん。頑張ってね!!」

「千明様…。はい!ありがとうございます!!」

北海は褒められた子供のような目で嬉しそうに千明に反応をする。

何だ、本当に何か違和感がある。


そして電車に乗り込んだ俺は千明に質問をする。


「今はダメ、北海さんが心配して見守ってくれているから北海さんの話は帰宅してからです」

「え?そうなのか?」

「あら、本当に鈍感ね。北海さんはずっと見守ってくれていますよ。それこそ家は覗き防止で東さんがいるから余計な事はしないけど、北海さんは帰宅するまで見守っていてくれているの」

なんという事だろう…俺は愕然とした。


「あ、じゃあ違う話をしましょうか?」

「何の話だ?」


「常則よ」

「常則?どうかしたのか?」


「ふふふ、ルルさんには内緒ですよ」

「ああ、約束する」


「私、常則にお願いされたのよ」

「何!?あの常則がお願い?」


「ええ、うふふふふ」

いったい何をしたらあの常則がお願いをすると言うのだろう?


「ご飯ですよ。ご飯」

「ご飯?」


「常則ってご飯党なのね」

そう言ってツネノリがオムライスとカレーで悩んだ話とハヤシライスまで知って慌てたり大喜びをした話を聞いた。


「全く…相変わらず子供だな」

「あら、可愛いじゃない」


「それで?何を頼まれたんだ?」

「千歳が「炊き込みご飯とか混ぜご飯を作ってあげて」と言ってくれたの。そうしたら常則が食べたいって言ってくれたの」


「それでお願いか」

「はい」


そんな話をしながら俺達は家に着く。

家に着いた俺は真っ先に千明に北海の事を聞く。


「あら、本当にわからないのね。じゃあ好きな飲み物の話ね。正解はあるけど何でもいいのよ」

「なに?」


「ズルをしないで北海さんの事を考えて行動をする。それが、彼女が求めている事なんですよ」

「求める…」

言われてみれば相手は神だと思ってつい答えに行きつこうと思ってつい行動をしていた。


「別に間違えたからって彼女は世界を滅ぼしたりしませんよ」

「そうか…、じゃあもう一ついいか?」



「駅での事ですか?あれにしてもそう。北海さんは北海さんでセカンドを盛り上げてくれているの。結果メリシアさんが亡くなってしまったけどそれは結果でしょ?

誰も盛り上げてくれたことにお礼も言っていないじゃない」


「お礼…」

お礼何て…


「言えるでしょ?彼女が頑張ってくれたから千歳との事も家族の問題も全部前進したんですよ?」

「あ…ああ、確かにそうだ。それは俺も言った」


「でも盛り上げてくれたことはお礼を言っていないでしょ?」

「ああ」

「まあ明日言っても「奥様に聞きましたね」って言われるから逆効果ですからね」

俺はそう言うとわかったと納得をした。


時間は20時になっていた。千明と夕飯を食べながらセカンドの情報をSNSで見てみるととんでもない状況になっていて俺は驚く。


「東!」

「なんだい?ゆっくりしていればいいのに、今からリークの映像を送ってあげるからのんびり千明と見ているといい」


「そんなのは後回しだろう?子供達は無事か!?」

「ああ、問題ないさ。そっちも纏まったら動画を送ってあげるよ」


くそ、なんだあの巨大な魔物は…

最終日だからって北海めハリキリ過ぎだ。

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