伊加利 千歳の章⑧千歳の可能性。

第112話 私の選択がセンターシティの人達を苦しめる事になるかも知れない。

「はい」

そう言って私は腕を出す。


「何だその腕は?」

ツネノリはわからない感じで私を見る。


「わからないの?もう!しょうがないなぁ」

そう言って私はツネノリの前に立って抱きしめながらベッドに倒れこむ。


「千歳?」

「腕を貸してあげるから今日は私の腕の中で寝なさい!落ち込んでいるでしょ?」


折角私がそう言ってあげたのにツネノリは笑って私を見る。

「何よ?」

「いや、済まない。ありがとう千歳」

そう言ってツネノリが微笑む。


「千歳にも千明さんにも勿論父さんにも世話になりっぱなしだな」

「だからいいよ、今日は私の腕で眠りなよ」


「いや、メリシアも蘇るし落ち込んで居られないだろう?」

「うぅ…、確かにそうだけど」


「それに千歳こそ爆弾の量を抑え気味に戦ったから怖い夢を見てしまうんじゃないか?」

「うっ…」


「ほら」と言ってツネノリが腕を出してくれる。

「悔しい…、負けた気がする」


「じゃあ腕は必要ないか?」

「いる!」

そう言って私はツネノリ腕を枕にしてツネノリの胸に身体を埋めて眠る姿勢になる。


「ありがとうな千歳」

「え?」


「魔女との談判とか聞いたよ」

「んー、いいよ。私も何もしないのは気持ち悪いだけだし」


「それでもだ。ありがとう」

「どういたしまして。良かったね」


「ああ、良かった」

「後10日生き延びて皆で美味しいものを食べようね」

「そうだな」と言うツネノリの声を聞きながら私は寝る。

本当、良かった。

私はずっとガーデンに住めるわけではない。私が帰った後ツネノリが哀しみや後悔に苦しんだらどうしようかと思っていたがこれなら安心だ。

まあ、メリシアさんに振られたら慰めにくらいは顔を出せると思う。

東さんがダメって言ったらジョマに頼んでガーデンに連れてきてもらおう。


起きたら朝の9時だった。

ツネノリも同じくらいに起きたので一緒にご飯を食べるとジョマの声が聞こえた。


「おはよう千歳様。よく眠れた?」

「おはようジョマ。大丈夫だよ」


「それは良かったわ。じゃあ今日の話を済ませるから用意をしておいてね。

今日は11時半にコロセウムに集合。そこで最終ボスの話をするわ。頑張って守ってね」


「お兄様?」

「何だ?」


「彼女の件、余計な事は言わないようにしますけど、お父様から聞きました。順調だそうですよ。元気な姿で会えるように頑張ってくださいね」

「言われるまでもない」


「もう、ツネノリそうじゃない!」

「千歳?」


「ジョマ、教えてくれてありがとう!ツネノリもジョマのお陰でやる気になったはずだから大丈夫だよ!励ましてくれてありがとうね!!」

「千歳様…、もう…千明様と千歳様には敵いません。

それでは時間厳守ですので11時半には来てくださいね。それとも召喚の光が必要ですか?」


「んー、間に合わなそうだったら東さんに頼むから平気だよ」

「じゃあ、またあとで」


そう言ってジョマは消えた。


「千歳…」

「ツネノリ、ジョマはジョマの仕事をしているの。別に私達を困らせたくてやっていないんだって」


「俺にはわからない」

「まあ、良いんじゃない?私やお母さんがわかっているから」


私達はホテルの朝ご飯を食べる。

とても美味しかった。


お母さんか東さんが手を回したのだろう。

ツネノリのご飯はキノコのリゾットだった。


「千歳!?リゾットと言う名だそうだ。この米も旨いぞ!!」

「うん、良かったね」

お米馬鹿…。



私達は食後に身なりを整えて11時半に間に合うようにコロセウムを目指す。

コロセウムに着くとまだ結構な数のプレイヤーが居たようでコロセウムはプレイヤーで埋め尽くされていた。


「東さん、今日は何人居るの?」

「5000人って所だね」


「東さん、昨日みたいなやつらは…」

ツネノリが怒った声で東さんに質問をする。


「ああ、ログアウトをしようとする連中かい?彼らは明日の朝…次のイベントまで眠って貰ったよ」

「は?」思わず私が反応をしてしまう。


「ちょっと思う所があったからね。僕も可愛い子供たちを殺されて腹が立っているんだ。彼らは朝まで何をしても起きないよ。それこそどんなに怖い夢を見ようと、家が火事になろうとね」

その声はとても怖くて私は震えてしまう。


「だからツネノリは安心してくれ」

「はい」


「ああ、彼女から聞いたよね。メリシアは順調だよ。安心してくれ」

「ありがとうございます」


「伊加利さん!」

そうしていると私を呼ぶ声がする。

振り返ると、見覚えは無いんだけど何処かでみたような気のする。おじさんと女の子、それとおばさんが居た。


「あの?どちら様ですか?」

「やっぱりわからないよね。僕です佐藤です」


「佐藤!?」

「そうそう、俺が田中」

「俺が鈴木な」


何でも話を聞くと、ログイン不可になった自分の端末ではなく、田中は田中父のアカウントでログインをしておじさん。

佐藤は田中弟のアカウントでログインしている。

「でも何で女の子の姿なの?」


「田中君の弟が女の子のグラフィックでプレイしたいって…」

ああ、これが何日か前に言っていた性別詐称のプレイヤーか…


「俺のは母ちゃんのアカウントな。母ちゃん隠れゲーマーなんだよ。ランクも14とかあるんだぜ?」

「鈴木より鈴木のお母さんが戦ってくれた方が良かったんじゃ?」


「ひでぇよ伊加利!!俺母ちゃんにお願いして変わって貰ってログインしているんだぜ?」

その声で皆が笑う。


「お兄さん、タツキアの事は済みませんでした」

佐藤が可愛い女の子の姿でツネノリに謝る。

これ、見る人が見たら勘違いするんじゃない?


「俺達も頑張ったんですけどダメでした」

おじさんとおばさんもペコペコとツネノリに頭を下げる。

なんだこの姿。

カオスだよ。


「いや、皆よくやってくれたと思う。全てはあの逃げ出した連中だ…」

そう言ってツネノリが3人を慰める。


そんな話をしているとジョマが現れた。


「はーい!皆おはよう!今日はvs巨大ボスの最終日。

今日のプレイヤーさん達は昨日みたいに直前でログアウトするような行為はしないわよね?

私、イライラしちゃって個人的には一瞬ランク1に戻しちゃおうかと思ったのよ。運営として我慢したけどね」


あ、ジョマは本気でイライラしてたんだ。

あの声と言い方は怒っているのが私にはよくわかる。


「今日は最終日ですから新しい魔物を投入します!その名はギガンスッポン!!

モニターをご覧ください!」


ジョマの手の先にはモニターがあり、そこには巨大な亀…スッポンが映し出されていた。


「スッポンの凶暴さに味!全部がこのイベント向けです!」


ツネノリが「あの亀はなんだ?」と聞いてくる。

「外の世界に居る凶暴な亀よ。噛みつかれたら離さないなんて言われているんだから」


「大きさはスーパービッグドラゴンよりは小さいけど移動速度はそこそこあるわ!」


プレイヤーの中からは「何だ、あれ一体なら何とかなるだろ?」なんて声も聞こえていたがジョマがそんな事をするはずがない。


「ギガンスッポンはあれ1匹だけだけど、それ以外にギガントダイルが三方向から断続的にここを狙って来るわよ」

うわ…エグい。


「一応言うと、ギガンスッポンは今から3時間半にここに着くようになっている。今日はギガンスッポンを倒したらその瞬間にイベント終了。

参加者は死んでも生き残ってもログアウトしなければ一律8000エェンをプレゼントするわ。

あと、盛り上げる為にセンターシティの外に仮設の建物があってその中には爆弾がたくさん入っているから活用してね」


そう言ってジョマは消えていた。


「千歳?どうする?」

「多分、ツネノリと私で一方向から来るギガントダイルとギガンスッポンをなんとかしないとダメかも。何体くるのかわからないけど5000人のプレイヤーには二方向からくるギガントダイルを受け持ってもらわないと…」


「伊加利さん!」

「佐藤」


「伊加利さん、今日は伊加利さんのお父さんが居ないから伊加利さんが指示を出して!

今日のプレイヤー達は一丸となって戦うよ!

大丈夫!!

外の世界のSNSでみんなやる気になっていたから安心して!」


「佐藤…わかった。

ちょっと待って!

ジョマ!」


「はいはーい、なにかしら?」

私が呼ぶとジョマはすぐに来てくれる。


「質問させて、ギガントダイルのくる三方向は教えてもらえるかな?」


「構わないわよ。ついでにギガンスッポンも教えてあげる。

まあ、ギガンスッポンに関しては大きいからそのうち全部が見えるけどね」

「後、三方向にはギガントダイルが到着するまでの残り時間の表示されたモニターとか置ける?」


「うーん…欲しい?」

「欲しい…けど他のお願いとブッキングしたら困るから待って。

ジョマの予測内訳の話って雑談として話せる?」


「千歳様はどう考えているのかしら?」

「私はセンターシティが壊れても皆が逃げられたらある種の勝ちでも良いのかもって思っている。

だから2500、2500、それと私とツネノリ。ギガンスッポンは見ないのもアリかと思う」


「ふふふ、千歳様らしい。

でもハズレよ。

センターシティの人口はとても多いの。それをしたら焼け出された人達がこの寒空の下とても困るわね」


そうなるのか…

じゃあダメだ。


「じゃあ正解のヒントだけあげるわ。

仮に三箇所に1500人ずつ配置するとギガントダイルの進行は完璧に防げるはずよ。

ログアウトしないって言う前提込みだけどね」


1500人…

4500人…

残りの500人にツネノリと私でギガンスッポン?とても無理だ。


「ありがとうジョマ。

ジョマの考えだと私とツネノリの全力も必要だよね」

「そうね」


「仮に私が一箇所、ツネノリが一箇所、そしてプレイヤー1500人で残りの3500人がギガンスッポンなら?」

「大胆な事を考えるわね。多分千歳様もお兄様も手詰まりになって突破されて終わるわね」


やはりか…

「ありがとうジョマ。後は自分でなんとかするよ」


「ええ、頑張ってね。応援している。

モニター、設置しておくわ」

そう言ってジョマが消える。


「千歳?」

「うん…ちょっと難しいよね。街を完璧に守らないとまずいみたい。

そしてプレイヤーの人達を信じたい。

でも万一も考えなきゃ行けない。

私の選択がセンターシティの人達を苦しめる事になるかも知れない」

どうしよう…

お父さんならなんて判断するんだろう?

どうするんだろう?

今とても怖い。

でも言えない。

皆が私を見ているのだから。


「狼狽えるな!」

!!?


私の胸ポケットから声がする。

「母さん!?」

ツネノリが驚いて反応をする。


「え?ツネノリのお母さん?」

「お前の母でもあるぞ。私はルル!千歳の心配は私がなんとかしてやる!

神にあのデカブツの姿は見せてもらった。

私の大嫌いなぶっつけ本番だがやるしかあるまい。

私がいればなんとかなるはずだ。耳を貸せ!」

そう言うとルルお母さんは作戦を教えてくれた。


「ツネノリ、聞いているな?お前の機動力も鍵の一つだ」

「うん、母さん」

「途中まではお前もギガントダイルの方に回れ。ギガンスッポンが近付いたら足止めに参加しろ。

トドメは私と私の千歳がやり切る」


凄い…。

本当にルルお母さんの言う通りになれば可能だ。

そして、それならギガントダイルの心配も無くなる。


「みんな聞いて!作戦が出来たの」

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