第103話 もっと一緒に居たかったな。

私は何処かを漂っている。

さっきまであった身体の痛みは嘘のように消えている。


多分…、いや間違いなくあの時死んだのだ。

瓦礫が直撃した時、間違いなく死んだと思ったのに何故か一瞬目が開いた。

そしてそこにはツネノリ様が居た。


彼は泣いていた。

私の為に泣いてくれていた。


私は名前を呼んで泣かないでと言いたかったのだが言えたのだろうか?

それすらもわからない。


死んだ今でもツネノリ様を想うと胸が熱くなる。

この気持ちは恋なのだろうか?

愛なのだろうか?

本当なら今日も無事に戻ってくれたであろうツネノリ様と話して気持ちを確かめたかった。

住む世界の違いなんか関係無くて、そばに居たかった。笑顔でいて欲しかった。

私は死んでしまったが、あの赤メノウがツネノリ様を守ってくれると信じてここで無事を祈ろう。


「もっと一緒に居たかったな」

つい思いが口に出る。


「せめて夢の中でくらい逢えないかな?」

それなら寂しいけどまだ我慢も出来る。

夢のひと時でも一緒に居たい。

私はそう思ってしまう。


「遠慮深い娘だな。素直に生き返りたいと言えば良かろう?」

突然聞こえた声に私は驚いて前を見る。

前にはツネノリ様と同じ綺麗な紫色の髪の人が立っていた。


「見つけたぞメリシア!」

「はい?」


「お前はメリシアだろう?」

「そうですが…」


「よし!流石ツネノリ!私の指輪をつけていてくれたおかげで見つけやすかった!

それにしてもツネノリも遠慮深いのぉ、どうせなら指輪は薬指に付けてやらんか?」

「え?え?指輪?ツネノリ様?まさか…」


「ああ!はじめましてだな。

私はルル。ツネノリと千歳の母だ!」

「ツネノリ様と千歳様のお母様?なんでお母様がここに?

まさか!!?」


「私は死んでなんかいない。

メリシア、お前を迎えにきたのだ」


「え?迎えに?」

「ああ!元の身体にと言うのは無理だが遜色ない状態で生き返らせてやる!」

生き返る?


「え?…でも朝…神様と千歳様の会話で蘇生は無理だって…」

「またそれか、それは神が力を使えないと言うだけだ。

だから私達が人の手でそれを可能にする!」


この方は何を言っているの?

私には考えの及ばない話をしているのはわかる。


「そんな…、そんな事が?」

「ああ、出来る!だから行くぞ!

ん…?そう言えば確認していなかったが嫌か?」




「嫌じゃ…ありません…」

私は嬉しさのあまり泣いてしまう。

また会える。

ツネノリ様にまた会える。

会ってこの気持ちが何なのかを確かめられる。


「なら行こう。ひとまず身体が出来上がるまでここに入ってもらう」

そう言ってお母様が出したのはブローチだった。

「ブローチですか?」

「ああ、私の作った人工アーティファクト「魂の部屋」だ。

今のままだとガーデンに帰ってもまたここに戻されるらしいしな」


「……」

「なんだ、不安か?」


「いえ…、私の常識では考えられない事ばかりで…、凄いです…」

私は思ったままを口にする。


「凄い!?そうだろう!そうだよな!そうなのだ、この「魂の部屋」にはな、魂を入れるだけではなくな!…」

お母様が怒涛の勢いで話し始める。


「ルル、そこまでだよ」

そう言って現れたのは神様だった。

「神様」


「やあ、メリシア。こんな事になって済まないね。僕自身が力を使えれば良いのだがそうも行かないのは今朝見ていたよね?」

「はい」


「だからこのルル達に君の事を任せたんだ。

あ、後ルルに「凄い」は禁句だよ。

一度言うと話が止まらなくなるからね」


「神様!私は今メリシアに「魂の部屋」の説明を!」

「素晴らしいアーティファクトなのはわかっているよ。後は上手くいったらツネノリとツネツギに存分に話してあげると良い」


「むぅ…、時間が惜しいのは承知しています。ではメリシアよ「魂の部屋」に手を翳せ。

そしてアーティファクトと唱えよ」

「はい、お母様。よろしくお願いします」


私は躊躇なく手を伸ばす。

生き返れたらツネノリ様に今の気持ちを伝えよう。

その事ばかりを考えてしまう。


「【アーティファクト】」

私の目の前は光った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る