第44話 これが魔女のポイントアップキャンペーンの正体だ…。
その晩はスタッフカウンターに勧めてもらった宿に泊まった。
部屋を分ける話をしたのだが、千歳の方から必要ないと言われた。
翌朝、朝ごはんを食べた俺達はフナシ山を目指して宿を出ると怪我をした連中がそこかしこに沢山居た。
「どうした?」
「突然、襲われたの…」
俺は1組のプレイヤーに声をかけた。
女の2人組で夜中のフナシ山に登っていたらしい。
「何故夜中に?」
「夜中の方が高ランクの魔物が出やすいのよ」
「それで?」
「よくわからない、ホルタウロスと戦って居たら突然凄い衝撃が襲いかかってきたの…」
凄い衝撃?
それはホルタウロスの一撃かと聞いたが違うと女達は言う。
そして明らかに違って居た事があったと言っていた。
通常、魔物に殺されれば15分間の行動不能ペナルティがあり、大概その間に魔物達は去って行ってしまい、そうなるといくら弱らせて居たとしても取り逃がす結果になると言う。
そして15分後に復活をすると普通なら傷なんかは全快しているのだが、今回は全快にならなかったと言う。
そこを別のホルタウロスに殴られて、更に15分、計30分のペナルティ。
それが治るとまた何処からか衝撃を食らってしまい、一晩中死に続けてようやく下山できたと言う。
「酷い…」
千歳は涙目で女達を見ている。
「とりあえずもうログアウトする事にするわ。
そうすれば外での3時間後、ここでの9時間後には傷も治っていると思うの」
そして女達は元の世界へと帰って行った。
「千歳、スタッフカウンターに行こう」
スタッフカウンターは地獄と化していた。
ログアウトをして何も話さない血だらけのプレイヤーも居たが、中にはスタッフに何が起きているのかを詰め寄っているプレイヤーも居た。
俺達に気付いた昨日も会ったスタッフが別のスタッフにこの場を任せると2階の別室に通してくれた。
「お2人は大丈夫でしたか?良かった」
スタッフの人は部屋に入るなりそう言ってくれた。
「はい、これは一体どういう状況なのですか?」
「…まだ一般プレイヤーには話さないように通達が出ていますが、お2人は神様や勇者様のお身内と伺っておりますのでご説明いたします。
これはプレイヤーがプレイヤーを殺したことで発生した状況です。」
「…なんですって?」
俺は一瞬理解に困ってスタッフの人に聞き返してしまった。
「落ち着いてください。
プレイヤーがプレイヤーを殺した状況です」
スタッフの人はもう一度そう言った。
「私達も昨晩まで知らなかった事ですが、プレイヤーを巻き込んで殺してしまったプレイヤーから連絡がありました。
その方はランク5だったのですが、同行したランク5の仲間を攻撃に巻き込んで殺してしまった。そうしたら急にポイントが400増えて居たと言うのです」
「400ポイント?」
千歳が聞き返す。
「はい、400ポイントです。
それで私達は運営に確認を取りました。
そうしたら恐るべき返事がきたのです」
「恐るべき返事?」
「はい。プレイヤーを殺すとランク1は何もないですが、ランク2の方を殺した場合には50ポイント、ランク3を殺せば100ポイントが殺した者に入ってくると言われました。…その数値は通常のランクアップに必要なポイントの半分です。
ただ、今はポイントアップキャンペーン…。ポイントは倍になって入ってきます。
もし、ランク1の者がランク2の者を殺せばその段階でランクアップします」
……何という事だ。
魔物と死闘をしても…頑張っても…昨日の羊なら通常のポイントなら4ポイントだ…
死闘で倒すよりもプレイヤーを狙えば…ランク5のプレイヤーなら一回殺すだけで羊50匹分のポイントが手に入る…
「それは!それは今何人が知ってしまっているんですか?」
「…わかりません。
一晩が過ぎた今の段階では恐らくこの街のプレイヤーの25%…4人に1人が知ったと思います。
ただ、向こうの世界の事はわかりません。
もし向こうの世界で情報が交わされればこの先は一気に殆どのプレイヤーが知ることになって、殺し合いが始まると思います」
…これが今回の魔女の狙い?
何という事だ…攻撃に巻き込んできてくるプレイヤーへの仕返しと言う表向きで用意しておいて、その実際はプレイヤー同士の殺し合い…を助長するもの…。
「しかも、申し訳程度の救済策…いえ、追い打ちがあります」
スタッフの説明がまだ続く。
「仮にプレイヤーに殺されたプレイヤーは15分後のペナルティを終えても傷が全回復せずに25%で蘇ります。
そのプレイヤーを殺したとしてもポイントの加算は無いそうです。
怪我をしたプレイヤーは一度殺されたプレイヤーと言う視覚情報になるそうです」
………!!
その瞬間、俺の脳裏に恐ろしい考えが出てきてしまった。
嘘だと言って欲しい。
人の闇を見てしまった気がした。
俺はさっき話しかけた一組の…2人の女性プレイヤーを思い出していた。
「それは…まさか…」
「はい、魔物に殺されれば15分後に全快で蘇ります。
そしてその後なら…」
説明をするスタッフの顔も真っ青になっていた。
千歳も全てを理解したのだろう。
恐る恐る俺を見る。
「これが魔女のポイントアップキャンペーンの正体だ…。
あの魔女は魔物を倒してランクアップをしようと言うのではない…
プレイヤーに人殺しをさせて、それでポイントをアップさせようとしている。
初心者への救済策?そんな建前は全てウソだ。
あの魔女は、中々ランクの上がりにくかったプレイヤーに向かって人殺しを推し進めているんだ」
「そんな…」
千歳はそんな事が存在している事に驚いている。
「まだ、運営からは情報公開が認められていませんが時間の問題だと思います。お2人も気を付けてください。」
「はい」
そうして俺達は東さんへの連絡をお願いしておいた。
父さんが来るのは早くて明日の0:00。
それまで千歳を守りつつ人殺し以外の方法でランク9を目指さねばいけなくなった。
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