第43話 助かる。こちらこそよろしく頼む。

狩場は森みたいな場所だった。

「ねえ、ポイントアップなのに他の冒険者を見ないのはなんでだろ?」

千歳の質問ももっともだった。


「なんだろうな、もしかするとここはポイントが低いから初心者でもあまり来ないとかかもな」

「そっか、じゃあとりあえず狩ってみてダメだったら考えよう」


そう言って俺達は森に足を踏み入れた。



森に入ると凶暴なウサギが五匹襲い掛かってきた。

俺は剣で3匹を倒し、千歳は拳で2匹を倒した。

ポイントを見てみたら10ポイントが入っていた。

これで13…3600を目指すにはあまりにも手間がかかりすぎる。


その後もウサギのほかに大きな鴨の魔物や羊の化け物が襲い掛かってきたが何とか倒すことが出来た。


森に入って3時間で43ポイント。

…まずいこれは余りにも効率が悪い。


「ねえ、お兄さんも武器を拳にしてみたら?今のうちに練習してみなよ」

「まあ、それもそうだな」

俺は千歳の真似をして光の拳を出してみる。


初めて拳を使って見たが案外悪くない。

それどころか剣よりも扱いやすい場面もあった。


拳の練習で更に2時間を使った。

時刻は夕方5時。

ポイントはようやく100ポイントに到達し、俺達のランクは2になっていた。

「100ポイントで1ランクかな?」

「そうかも知れないな」


そうしていると耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「アハハハ、頑張ってる?ようやっとランク2になったわね。

この通信はランクが2になった時に聞こえるようにしておいたの。

あ、これは前もって用意しておいた奴だから返事をしても無駄よ。

ランク2になる為にランク1の魔物を50匹倒した気分はどう?大変だったでしょ?」


…通常であればランク2になる為に100ポイントが必要なの。

このペースでランク9って大変よね。

可哀想だから、もう少し高ランクの魔物も出る場所に転送させてあげるわね」


転送?

そう思った時には俺達の足元は召喚の光で光っていた。


魔女め遊んでいるな…。



召喚の光が張れた俺達は山に居た。

「山?」

「うわー、すっごい景色~」

千歳が景色に感動をしている。

そう言えば昨日モニターで魔女がセカンドの景色を売り込んでいた事を思い出した。

外の世界は本当に美しい景色は珍しいのかもしれない。


そうすると大きな音が聞こえてきた。

俺と千歳は音のする方向に向かう。


そこには大きな羊の魔物と戦う集団が居た。


槍と斧を持った男性が2人。

持ち運びが可能な大きさの大砲を持った男性が4人。


槍と斧の2人が近接戦闘を仕掛けて、羊の動きが止まった所で大砲を打ち込むと言うスタイルだった。


槍と斧の2人がこちらに気付いて手招きをしてくる。

「一緒に倒しましょう!」

そう呼ばれた俺達は断ることもなく巨大な羊との戦いをしていく。

ある程度斬り込んだ所で斧の男から「避けて!」と声が入ったので避けると大砲の弾が羊に直撃した。

まだ羊は動く。

千歳が畳み掛けるように殴り付けていく。


本当に千歳は刺すや切るが無ければいい動きをすると思った。


しばらくすると羊は倒せた。


ポイントは8だったのでランク4の魔物のようだ。

昨日のホルタウロスはランク3。

戦える人なら人数さえ居れば何とかなるな…


そう思っていると槍の男が話しかけてきた。


「援護ありがとう!

君達はアレだよね?

昨日、特別招待枠でホルタウロスと戦った初心者の人。

僕はトビー、こっちはイク」


そうすると斧を持った男も挨拶をしてくる。


「すまない、少し聞かせて欲しいんだが…」

俺はこれ幸いとトビーに質問をする事にした。


「ここは何処だ?」

「え?君達は自分の現在地もわかってないの?」


「そうなの、急に転送されて…」

「ああ、特別招待枠だからかな?昨日も試合が終わったら足元が光って消えて居たよね?」

「そう、それなの」

千歳がうまく話を合わせてくれる。


「ここはフナシにある山だよ」

フナシはサッガサとセンターシティの真ん中に位置する街だった。


「スタッフカウンターに行きたいのだが?」

「じゃあ、僕たちも街に戻る所だったから一緒に行こう!」

トビーに連れられて街に行く事になったのだが、周りを見回したが大砲使いたちは居なくなって居た。

俺は疑問に思ってその事を聞いてみると「彼らは僕たちが戦って居たら突然助けてくれただけだよ、ガーデンだとそう言う戦いが出来るのがいいよね」と答えてくれた。


改めて思ったが東さんのシステムは良くできている。

奪い合い等にならないように戦闘に参加して最後まで戦った者には等しくポイントも出荷場からの報酬も渡される。


それなのに魔女はごく一部からの仲間を巻き添えにするバトルスタイルが許せないから同士討ちを認めて欲しいと言った声を採用した。

その事がどんな問題になるかを俺にはまだわからない。


街に戻るまでの間にホルタウロスが二体と先程の羊の魔物を倒した。

これで更に20ポイントが手に入る。


街に着いて俺達はスタッフカウンターに行く。

そこに居たスタッフはサッガサからフナシに飛んでいた事に驚いて居たが、特別招待枠として企画部から飛ばされたと言ったら事態を理解して東さんに話を通しておいてくれると言ってくれた。


まだお金には余裕があると伝えると預かってくれると言っていた。


そのまま俺達は夕食を摂るためにオススメのご飯処を聞いて歩いていると、トビーとイクが付いてくる。

「僕たちはもうすぐタイムアウトするからそれまで話とかさせてくれないかな?」

「タイムアウト?」

外の世界との事は千歳が察して動いてくれるので助かる。


「あれ?君の端末にはタイムアウト設定とかされてないの?本当に長期ログインしてるんだ!」

トビーが千歳と俺を見て驚いている。


「じゃあ、とりあえず食事をするからそこで話してもいい?」

「うん、そっかVRだと食事も楽しめるんだよね。凄いね!」


そう言って店に移動することにした。


店は後で千歳に聞いたら街の洋食屋さんと言った佇まいで味も美味しかった。

多分父さんが足で見つけてきてくれたのだろう。

父さんは凄いと思った。


トビーとイクとの話を聞くと、一般のプレイヤーは外の時間で3時間セカンドに来ると強制的にタイムアウトと言って向こうの世界に送り返されて、外の時間で3時間はクールタイムと言ってセカンドに来れなくなるらしい。


俺達の事を聞かれたので千歳が上手い事「ここで夜寝ている間だけログアウトが許されてて、その間にトイレやお風呂、食事なんかを済ませる事になっている」と説明してくれた。


後は昨日のイベントの事や「勇者の腕輪」の事を聞かれたので千歳が可能な範囲で上手い事説明をしてくれた。


俺たちが初心者と言うのは、最初は信用されなかったがそれが運営の手法だと伝えるとあっさりと納得された。

あまりにも世間知らずに見えたらしい。


「君達は…。あー…名前聞いてなかったよ」

「俺はツネノリ、こっちは妹の千歳」


「え?兄妹のなの?」

「そういう設定?」


「ご想像にお任せします」

千歳のこう言う柔軟さには本当に助けられる。


「2人はさ、このポイントアップ期間の目標ってあるの?」

「運営からはランク9になるように言われてるの」

千歳が困ったと言う顔で説明をする。


「9!?それはまた凄いね。まあ、僕達みたいにタイムアウトが無いならギリギリいけるのかな?」

「な、もしかしたらタイムアウトが無い場合の検証かも」

トビーとイクは2人で納得をしている。


「明日以降、まだフナシ山でランク上げをするなら、また一緒に戦おうよ!」

トビーから嬉しい誘いがあった。


「助かる。こちらこそよろしく頼む」

「あ、でももしまた運営に飛ばされてたらごめんなさい」


「いいって、その時はその時だよ。

じゃ、もうタイムアウトだからまたね!」

「おやすみ」

そう言ってトビーとイクは外の世界に行く…


だが、目の前にはトビーとイクは座っていた。


お店のスタッフに声をかけると、今店には誰もプレイヤーが居ないからと言って説明をしてくれた。


父さんのツネジロウと同じ状態で急に向こうの世界に帰られると困るので帰った後も姿は残っていて、この後はスタッフカウンターの後ろにある簡易宿泊所で次にセカンドに来るまで寝て待つらしい。


とにかくこの世界はうまく出来ているなと思った。

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