第29話 私は全てを知ってそれでもあの人を好きになったの。
私は東さんに連れられてセカンドガーデンのセンターシティから徒歩で北に2日ほどの場所に位置するグンサイの街に来た。
今、この街のホテルに3人は居る。
道すがら東さんからイベント…主に戦闘の記録を見させて貰った。
千歳が皆の足手まといになっていて、それをツネノリくんや主人が身を挺して守ってくれていた。
主人からはあまり聞かないようにしていたが、ツネノリくんは主人とルルさんの愛情をしっかりと受けて立派な男の子に育っていた。
その点、千歳を見ると少し情けなくなった。
ルルさんの方が育児は得意なのかしら?と思った。
「今、もう1人の僕がツネツギ達と話をしている。
部屋を一部屋にしたいツネツギと男性と同じ部屋を拒む千歳の話になっていてね。
その為に千明に来てもらったんだ」
はぁぁぁぁっ…
思わず大きなため息が出てしまう。
この状況下で千歳は何を言っているの?
それに今までの約3時間でツネノリくんがどれだけ紳士的な男性かわからないの?
なんだか段々と苛々してきてしまう。
「千明、顔が怖いよ。さあ、もう一人の僕が呼んでいる。行くよ」
その声と共に私の足元は光って次の瞬間には主人と娘、そしてツネノリくんが目の前に居た。
「あなた…、千歳…。無事で良かった。
ツネノリくん、久しぶり。
こんなに大きくなって。
千歳を守ってくれてありがとう」
「千明」
「お母さん!?」
2人は私の登場に驚いている。
「東さんのご厚意で今日は千歳と一緒の部屋で寝ることになったの。
あなた、千歳が1人でなければまだ安心よね?」
「あ、ああ…」
主人は驚いて言葉が出ないでいる。
「ツネノリくん」
「は…はい」
「そんなに緊張しないで。昔、まだあなたが1歳の頃に私達一度だけ会っているのよ。
こんなに大きく立派になってお母様の育て方がきっと素晴らしかったのね」
「…ありがとうございます」
複雑そうな表情でツネノリくんは私を見ている。
そうね、突然自分の父親のもう一人の妻が外の世界からやってきたら困惑するわよね。
「さあ、とりあえず千歳と千明でシャワーを浴びておいで、その間にもう一部屋の方でツネツギとツネノリがシャワーを浴びる。それから話してもいいんじゃないのかな?」
東さんが場をとりなしてくれたのでその通りにした。
シャワーを浴びながら千歳の髪についた砂や土なんかを落としてあげる。
そうしながら千歳の身体を見てみるとほとんど怪我がない。
主人やツネノリくんに感謝しかない。
「お母さん、お母さんはガーデンに来た事あるの?」
千歳がこちらを向かずに聞いてきた。
「ええ、お母さんの仕事はお父さんが手を尽くしているガーデンがどうかを実際に行動してみて評価をする仕事なの。だから仕事の日はガーデンに来ているわ」
「じゃあ、何であの私のお兄さん、ツネノリって人には会わなかったの?」
「住む世界が違うからよ。私が仕事で回るのは彼の住むガーデンとは違うガーデンなの」
「何それ?よくわかんない」
「出たらお父さんと東さんが説明をしてくれるわ」
「じゃあ、その前に一つだけ聞かせて」
声色で分かる。
真剣な質問だと…。
「お母さんは、アイツ…父さんに家族が居たことは知っていたの?
それでも結婚をしようとしたの?」
そう、娘からしたら異様な話だと思う。
だが、ここでキチンと答えなければいけないと私は思った。
「ええ、私は全てを知ってそれでもあの人を好きになったの。
それで交際を申し込んだわ。
お父さんはね、最初交際を拒否したわ。
お父さんはとても誠実な人だから、ガーデンの家族を裏切る真似は出来ないと言っていたの。
それでもガーデンの奥様と私とよく話し合って、最終的に父さんは交際を、そして結婚を承諾してくれたのよ」
「なにそれ?意味わかんない」
「そうね、今の千歳には難しいわね。
シャワーを終えてお父さんと東さんの説明を聞けばわかると思うわ」
そう言って熱いシャワーで身体を温めてから出る。
千歳の髪を乾かしきったころ、主人とツネノリくんが階下の部屋から戻ってきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます