伊加利 常継の章②親として。
第23話 くそっ、楽しんでやがる。
セカンドに入った俺は直接センターシティにあるコロセウムに向かったのだが何か壁のような物に阻まれて先に進めなかった。
「東!センターシティに入れないぞ」
俺は端末に向かって叫ぶ。
千明やルルとは文字だけのやり取りだが、東とは会話ができる。
「あー、何かバリア張られてるね」
「お前の世界だろ?何とかしてくれよ神様!」
「それなんだけどさ、あまり良くないニュースだよ。ツネツギ」
マジかよ、コイツの良くないニュース程良くないものはない。
「なんだよ!?これ以上何がある?」
「あの女、僕に隠れて散々この世界に手を出していたようだ。
奪い返すのに随分手間がかかる」
マジかよ?
「それは?何時間だ?」
「…そっちの時間で20日くらい?」
「バカヤロウ!イベント期間とまる被りじゃねえか!!」
「そうなんだよねー」
「軽く言うな!お前は何ができるんだ!?」
「んー、一応だけどあの女のやり口を止めるのは難しいけど、新規でアレコレやるのはいける感じかな?
今のところはある程度ツネツギ達が有利になるように手を加えているから安心してくれ。
ひとまず今は高速移動の能力を付与させたから隣の街から高速移動でコロセウムを目指してくれ」
「わかったよ!」
俺はそう言って移動先を隣のサイバの街にした。
サイバの入り口に降りるとスタッフの何人かが俺に気付いて挨拶をしてくる。
俺はずっとこの世界とゼロとファーストを回って居るので顔は広い。
運営サイドの人間で神の使いと言う事になっている。
「ツネツギさん、どうしたんですか?」
「ちょっと急ぎでな。そっちは何かトラブルはあるか?あったらいつでも言ってくれ。また顔を出す」とまくし立ててセンターシティを目指す。
高速移動はかなり速い。あっという間にセンターシティが見えて来る。
そろそろセンターシティと言ったところで「あー、来たきたー。はぁーい」と声をかけられた。
声の主は魔女で俺に合わせて高速移動をしている。
「お前は!?」
「止まってー、勇者様はセンターシティにアクセス制限かけてあるからこのまま行くと壁に阻まれて大怪我よ」
そう聞いて俺は足を止める。
「アハハハ、はじめまして。って言ってもこの姿も何もかも知っているのよね?」
「ああ、まず聞いていいか?」
「何?」
「お前は使いか?神そのものか?」
「あら、いきなりそこ?
まあいいわ。
私は使いじゃないわ、神よ。
驚いたわ、忘れた頃になって使いからガーデンを滅茶苦茶にしたって連絡が来たから作業を止めて見に戻ったら、世界はあなた達の手で救われててハッピーエンドしているんですもの」
「そんな昔にガーデンに戻ったのなら何故今日まで黙っていた?」
「言ったでしょ?作業を止めたって。作業に戻ったのよ。
それで全部片付けてからガーデンに手を出したの」
作業?まさか…
「ねえ、勇者様。
ガーデンって退屈じゃない?
刺激が足りないって言うか…ね?」
「何を言っている?」
「東京太郎の世界は確かに綺麗。
生まれてくる命も素晴らしい。
でもそれだけ。刺激が無いの」
「何を!?」
そう言う俺の前に魔女が手を出す。
掌に映し出された映像はツネノリがホルタウロスのこん棒を防いでいる所だった。
「ツネノリ!」
「息子さんは元気よ。娘さんもね。
ほら、退屈な世界でも命に限りを与えただけでこんなにキラキラした」
そう言う魔女は心底嬉しそうだ。
「初心者にホルタウロスをぶつけるなんて何を考えている!?」
「あら、キチンと魔物のことも把握しているのね。大丈夫よその為の「勇者の腕輪」ですもの」
そう言ってまた魔女が喜ぶ。
「くそっ、楽しんでやがる」
「他のプレイヤーもそう。VRにしてちょっと過激にしたらみんな輝くのよ」
「お前は何のために俺の子供達を!」
「ああ、それね。
息子さんには伝えたけど、まずは勇者様の仕事を間近で体験してもらう事かしらね。
娘さんには何も伝えてなかったんでしょ?
私はね、そう言う親の気遣いが嫌なの。
知っているでしょ?「龍の顎」も「創世の光」も「暴食の刀」も全部私が東に言って作らせた。
危ないものだろうが全部子供達に与えて考えさせるの」
そうだ、この魔女はかつてゼロガーデンに忌まわしき力を持ったアーティファクトを生み出させて世界を滅ぼしかけた。
「あら、選んだのは人間よ。
私の使い達はキチンと危険性を説明したわ」
魔女が心を読んで話してくる。
「さて、今日はこのくらいにしましょう。
勇者様はこの後どうするの?」
「何が何でもコロセウムに行って子供達を助ける」
「あらそう、やはりそうなるわよね。
いいわ。アクセス制限は外してあげるから頑張って」
そう言って魔女は笑う。
「何を?」
「あら、行きたくないの?」
「いや…」
俺は突然の事に言葉を失う。
「いいの、私と会った事で勇者様もこの世界の刺激になるわ」
「刺激…?」
「ええそう。あら、早く行ったほうが良いわよ。
息子さん、娘さんを庇ってホルタウロスに吹き飛ばされてる」
「何!?」
確かに掌の映像ではツネノリが吹き飛ばされていた。
「ああ、一個だけお願いがあるの。
それさえ守ってくれたらアクセス制限したりしないわ」
「何だ?」
「ふふ、そのいちいち聞き返したりしないで先に進む会話の速さは息子さんと似てるわね。
今私、イベントを管理運営してるの。
さっき息子さんが使ったアーティファクト砲もアドリブで実装予定の技って事にしたわ。
息子さんも娘さんも2人とも役者の卵が演じている事にしているし…ってそこは東にログを見せてもらいなさい。
あなたの事もアドリブで回すから話し合わせてね。
私からのお願いはそれだからよろしくね。
じゃあね〜」
言うだけ言って魔女は消えていた。
「東…、聞こえていたか?」
「ああ、あの女。僕が聞いていたのをわかって話していたな。
僕の世界は綺麗で低刺激か…」
東の声は珍しく苛立っていた。
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