第18話 蹂躙の時間

「格闘家が体育座りでダウンって一番見せてはいけない情けない姿だって葛城先生に教わらなかったの? まだ夜じゃないですよぉ? 寝るのは早いですよぉ~……オイ! クソゴミムシの親玉! 起きろやコラぁ!」


 でも、阿蘇部長クソゴミムシのおやだまは屍のように全く反応を見せない。

 まだ奥歯は残っているだろうから全ての歯を叩き折ってやろうと阿蘇部長に近づいた。


「ま……待てよ周佐! これ以上はやり過ぎだろう!」


 穴済先輩が何時の間にか屋上に出てきていたらしく、怯え交じりの声で私を引き止めた。


「はぁ? 何言っているの? まだ水でもぶっかけて目覚まさせれば戦えるでしょ?」


「そんな訳ねーだろ! こんなのヤクザじゃあるまいし、酷過ぎると思わねーのか!」


「……これが酷過ぎる? 女の子を暴行していた貴方達がそんな事を言うの?」


 私はさっきまで人だかりが出来ていた屋上の隅に目をやると制服を脱がされ、下着姿で意識も無く横たわっている麗衣ちゃんを見つけ、改めて血流が沸騰した。


「それに貴方含めて全員死刑だから他人の心配している暇なんて無いよ♪」


「何だと……調子に乗るな!」


 穴済先輩はバリカンに似た形状の黒い道具をポケットから取り出した。


「コイツはスタンガンだぜ! 電圧は5万ボルトだけどよぉ、後遺症が残ったり死亡者が出た事もある危険な奴で発売が中止されている、いわくつき奴だぜ!」


 穴済先輩がスタンガンのスイッチを押すと、先端内側にある針金の様な二つの電極間に激しいスパークが走る。


「下手すりゃ少年院ネンショー行だからよぉ……出来ればコイツだけは使いたくなかったから下手したてに出て居たらいい気になりやがって……」


「心配しなくて良いよ。そんな物が私に当たると思うの? 良いよ。死にたければかかって来なよ♪ ザコムシ先輩♪」


「舐めんなよコラァ!」


 穴済先輩ザコムシは大きく振りかぶって、私にスタンガンを叩きつけようとする。

 私は体を左に躱しながら右手刀で穴済先輩のスタンガンを持つ腕を強く受け、上足底をまげて右足で廻し蹴りを横腹に叩き込んだ。


「ぐっ!」


 右手刀の衝撃と横腹に蹴りを受けた衝撃で穴済はあっさりとスタンガンを落とし、膝を着いた。

 空手の護身術で対短刀の訓練も受けていた私にこんな物が当たる訳がない。


 私は膝を着いた穴済先輩の顔にスナップを効かせた前蹴りでサッカーボールのように顎を蹴り上げると、大きく顎を逸らしたまま勢いよく地面に頭をぶつけ気を失った。


「テメー殺す!」


 穴済先輩の友達らしきマスク姿の不良は歯の裏がセレーションと呼ばれるギザギザに波打つ刃渡り15センチ以上ありそうなサバイバルナイフを私に向けると、私の腹を突き刺すように突いてきた。


 私は左に身を躱すと同時に、肘を中心に外側より半円を描いて表腕をヒネリながら手首で横に打払う中段左手受けでマスク姿の不良のナイフを持つ腕を払い刀身を逸らすと、右手で不良の腕を掴みナイフを奪いながらマスク姿を引き付け、肘関節のバネを利用して縦にスナップを効かせ左手の甲で顔面を打った。


 中段受け、ナイフを奪う、裏拳で顔面を撃つ。


 マスク姿が単にナイフで刺そうと一つの動作を行う間に、私は流れる様な三つの動作でマスク姿を無力化した。


 これも対短刀術だが相手に剣術の嗜みでもあれば、とてもこんなに上手くいかないものだろうけれど、素人が使う凶器など、殺傷力がある飛び道具でもなければ私にとって物の数にも入らない。


 武器をもってしても相手にならないと悟った彼らは逃げ出そうとするが、私は屋上の出入り口に壊れた人形のようになっている穴済先輩を放り投げ、逃げ道を塞ぐと、恐れ戦いた先輩えさ達はチアノーゼ状態のように蒼褪めながら足を止めた。


 誰も許さないよ

 誰も逃がさないよ

 誰も生きて返さないよ


 先輩達は私の怒りと破壊衝動を満足させるためだけの只の餌なんだから♪


 そして、一方的な蹂躙が始まった。

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