お互いの事

 恐る恐るユーリアは顔を上げると、ユクドは神妙な表情を浮かべ、彼女を見つめていた。

 その瞳からは、まるで見えない何か。人の思惑全てを読み取ろうとするかの様で。


 怖い。


 それが素直なユーリアの感想だった。

 だが同時に、彼に普通じゃない何かがある事を確信させる。不思議な瞳。

 今まで生きてきた中で、多くの大人が見せたことがない。否、見せる事など出来ない様な深みを感じさせる。


 それでも、質は違うがこの様な瞳をする人を、ユーリアは一人知っていた。

 実の父。最も、気軽に会える様な方では無かったが。

 数少ない父との会話。その時に見た父の瞳はーーやはり怖かった。


 真っ白いキャンバスを真っ黒に塗りつぶされる様な、そんな感覚を受けたのを覚えている。

 それと比べると、彼の瞳は優しさがある。

 ただそれは、沢山描いたキャンバスに白で塗られて、まるで無にされてしまった様な。そんな恐ろしさも感じるが。

 恐怖と興奮が同居する心。

 ユーリアは彼を見つめる。




『ププッ。今の顔一生忘れない様にしないと』

 その声は、ユーリアには聞こえない。

 限られた一部の人間のみが聴くことの許される、神聖な音。

『は〜。傑作。他の子にも自慢しちゃお。』

 最も、声の主の発言は、俗物的だが。


『ユクド〜。どうするの? どうするの〜?』

 煽る様にユクドに語りかける声の主に。

 彼の事を良く知らないと分からないレベルで。

 ユクドの頬がヒクヒクと動く。


 ユーリアの手前、下手な発言は出来ない。

 表情は務めて変わらず。

 だが、内心は嵐の様に。


 そんな時。

『でもユクド』

 声の主の声色が変わる。

『彼女。貴方と同じ臭いがするわ』

 その声は悲しげに。

『後悔と絶望を味わった昔の貴方の様』

 そして、思いやる様に。

『でも、この子はまだ貴方ほどじゃない』

 

 慈愛に満ちた声で。ユクドに語りかける。

『今なら救えるわ。私が貴方を救った様に』


 頑張りなさい。

 そう最後に言い残すと、声の主の気配が消える。


 ユーリアが居心地が悪そうにソワソワと手を動かしながら。ユクドの顔を心細そうに見つめてくる。

 


 ユクドは心の中で一度ため息をついた。

 悪戯好きな彼女が言うのなら、きっとユーリアは大丈夫なのだろう。少なくとも彼女のお眼鏡に適ったと言う事だ。


 もう、ほぼ答えは決まっていた。

 けれど、ユーリアが救って欲しいと思っているかは分からない。

 だからまずは……


「一先ずゆっくりとお話をしましょうか。お互いの事をね」




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 ここまでの読んで頂きありがとうございます。

 次から新しい章として、物語を進めていきたいと思います。拙い文章の為、読み難い等あるかと思いますが、何かあればご意見等下さい。

 今後ともよろしくお願いいたします。

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