ユーリアの決意
食器を洗うユクドの後ろ姿を、ユーリアは注意深く眺める。
何やら鼻歌でも歌い出しそうな。慣れた手付きでテキパキと動く彼の姿。
そんな彼が立つ調理場は、些か奇妙な形状をしていた。
まず目につくのは、明らかに木材でできている、かまど。
ユーリアの知る限り、多くの人が使用しているのは石やレンガで造られている物だ。
勿論、彼女自身もかまどを使用した事もある。その際使用した物はどれもが石かレンガで出来ている物だった。
そもそもの常識として、木材は燃える。
それこそ、かまどなどで燃料に使われるのが木材だ。
だからこそ、ユーリアは不思議に思う。
何故木材で出来ているかまどが燃えないのかと。
他にも、木の枝先から湧水の様に水が流れてきて、お皿を洗っていたり。
ユーリアの視界に入る多くのモノが、不思議に溢れていた。
無論それは、調理場だけにとどまらず。
ユーリアが寝ていた寝室の扉以外にも、左右に一つずつ扉。
この部屋にも窓は無く。明かりは、小枝で升目を大きく開けた籠の様な物に、蝋につけた様な炎。
それが四方に一つずつと、中央の天井に少し大きく造られた同じ物が吊り下がっているのみ。
多少薄暗いが、それでも何故か十分な明かりがそれで確保されていた。
そして、ユーリアは一頻り辺りを見回した後。
この部屋にも、時間を確認する術がない事を確認して。
「あ、あの……」
「ーーはい。何でしょうか?」
遠慮がちにユクドに声をかけると、彼は手を止めて彼女へ振り向く。
「私って、どれくらい寝ていたのでしょうか?」
「そうですねえ。ウチの前でユーリアを見つけてから、ざっと一日くらいですかね」
その返答に、ユーリアは少し疑問に思いつつ。
「ぐ、具体的には……どれぐらいですか?」
その問い掛けに、彼は少し困った様子で。
「すみません。ここに、この森に正確に時間を確認する術は無いんです」
彼はそう答えた。
それは、ユーリアの日常からしたら、考えられない事だった。
学生であろうと、何かしらの仕事に従事している者であろうと。
我々人間は、時間という概念の中で生きているのだから。
時間を知る術が無い。それ即ち必要としない。という事。
どんな生活をしていたら、そんな風に生きられるのだろうか。
彼女の中で、精霊術についても。今日食べた食事についても。そしてここでの生活についても。
興味を惹く事の多さに。そして、どうせもう元の生活には戻れないという事実に。
これからの方針が彼女の中で固まる。
ユーリアは意を決して。彼に頭を下げた。
まだ、彼女は彼の名前すら知らないのに。
「私を、弟子にしてください」
「……へ?」
この時ユーリアの視線は、頭を下げていた事で、ユクドの顔を見る事は叶わなかった。
だが、もしこの時彼の表情を見れていたのなら。
後に彼と生活をする中で、とても良い話しのネタになっていただろう。
それ程、ユクドにしては珍しい。
アホ顔を浮かべていたのだから。
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