目を覚ますと
どこからともなく聞こえてくるのは、小鳥の可愛らしい鳴き声。
彼女ーーユーリアは重い目蓋をゆっくりと開く。
まず視界に入ったのは木目調、と云うよりはそのまま木の板で出来ているような簡素な屋根。ふんわりと柔らかいベッドに寝転がり鳥の羽で出来てるような軽い布が身体全体を覆う。
霞む意識の中で、それらの情報からここが外でない事を理解して、肩の力を抜くように体を弛緩させる。
一頻り安心した所で彼女を襲ってきたのは体の至る所から発せられる痛み。
体の内側からもだが、多いのは体の表面。肘や膝、太腿などユーリアが覚えている限り、擦り傷や切り傷が多かった部分だ。
痛みに顔を歪めると、恐る恐る痛む体を眺める。
そこでふと、今の自分の格好が、纏っている衣類が下着のみである事に気がつく。
お気に入りのピンクで揃えた上下の下着は、幸いな事に少し汚れているだけで済んでいるものの、この無防備な格好には些か不安を覚えた。
心細い中、下手に動く気にもならず、自分の居る部屋を眺める。
その部屋は何とも言い難い趣きがあった。
家具らしい家具はその全てが恐らく同じ素材、更に細かくいうのなら同じ木材から出来ているのだろう事が窺えた。
良くいうのなら統一感がある。悪くいうのなら拘りが強すぎるといったところか。
机に椅子。書棚に収納家具。良く見れば寝ているベッドの木枠まで。一見すると木目のデザインなどに差があるものの、何故がそれが同じ木材から作られている物である、と分かるのである。
そんな不思議な感覚にユーリアは首を傾げていると。
「おや、目が覚めましたか」
音も無く部屋の扉が開き、そこから一人の男が姿を現した。
その男は、少年と呼ぶには大人過ぎて、成年と呼ぶには若過ぎる。そんな印象の男だった。
声は柔らかく慈愛の宿る声色。
長身と言う程高くも無いが、それなりに上背があった。
筋肉質、というには程遠い、なで肩の細っそりとした体型。
それがユーリアの第一印象だった。
ただ不思議と、男の体型に真っ先に目が行ってしまったが、最も目にひくのは、その男の格好だ。
まるでお伽話の魔法使いが着ていそうな黒いマント。
マントの中に着ている服も、黒々としたダボったい長袖長ズボン。
ユーリアのセンスから言わせてもらえば、限り無く0点に近い1点。勿論100点満点で。
その1点も服装での得点ではなく、男の顔立ちのお陰だ。
笑顔の似合う整った顔立ち。
長過ぎず短過ぎない清潔感のある髪型。
金髪と言うには白過ぎる髪色。
黒い瞳にはどこか全てを見透す様な恐ろしい印象と共に、不思議と全てを委ねられる様な安心感を覚えた。
そんな彼への総評は『悪い人ではなさそう』といった、中途半端な評価。
男はゆっくりとした足取りでユーリアに近づくと、近くにあった椅子を引き寄せ、ベッドの側に腰を落とす。
「具合はどうですか?」
「……身体のあちこちが痛いわ」
ユーリアは僅かに頬を染めながら、掛けていた布を抱き寄せる様にかき集め自身の体を必要以上に隠す。
年頃の彼女にとって、異性に肌を晒すのは例え怪我で痛む身体に鞭を打ってでも、あってはならない事なのだ。
と、少なくともユーリアは考えている。
そんな彼女の仕草に何か思い付いたように、頷くと、席を立つ。
「おっと。申し訳ありません。治療の為にボロボロになっていた衣類は脱がさせてもらいました。変わりの衣類を用意してますので、気になる様でしたらお着替え下さい」
「…………ッ!」
ユーリアは羞恥で熱を帯びる顔を隠す為、掛けていた布を頭までかぶると。
「ありがと……遠慮なく着させてもらうから……早く持ってきてもらっても良いかしら。勿論その後は一度出て行ってね?」
そっと小声で呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます