大樹に住う精霊師(打ち切り)

鼠野扇

傷だらけの少女

その森に訪れる者

 その建物は鬱蒼と茂る森の中でまるで木と同化する様に建っていた。

 この森の中でも一際目立つ大木の下、まるで気の幹をくり抜いた様に出来た空洞の中に、ほつんと隠れる様に建っている。

 近場の木々を材料にしたのだろうか。辺りの木と同じ様な見た目の外壁に、申し訳程度の木板の屋根が乗っている。

 ここでの雨風はこの大木が守ってくれるから。とでも言いたげな、正直見栄えの悪い建物だった。


 そこに、一人の少女がふらふらとした足取りで近く。

 年頃10歳半ばといったところか。元々は身なりの良い格好をしていたのだろう。しかし今は、片足しか履けていないロングブーツ。反対の脚は素足のまま歩いている。その上、元々が何色かも分からないほど泥で汚れ、あちこちが裂けてしまっているドレス。裂け目からは可愛らしいピンクのショーツが見えてしまっているが、この格好では色気も感じられない。

 長く伸ばした金髪も、小枝や泥でまるで出来の悪い泥人形の様な変な形で固まってしまっている。

 

 やっとの思いで歩いて来たのだろうか。よく見ると衣類の隙間から見える地肌には赤黒く固まった血があちこちから窺うことが出来た。

 それでも彼女にとって幸いだったのは、歩く事が出来たというところか。一歩一歩は遅くても、着実に彼女はこの建物を目指して進んでいた。


 数刻の後、建物のドアの前に来ると彼女は力無い動作でノックをする。

 木製のドアを二度、三度叩こうとするも、まともに音が鳴ったのは初めの一度だけ。

 力無き彼女はドアにもたれ掛かるように、膝は折る。

 そのまま倒れようかという所で、もたれ掛かかったドアが内側に開いた。

 彼女にもう踏ん張る力はなく、開いたドアにつられるように身体は建物の中へ。


「おっと…………これは大変ですね」


 その声は若々しい男の声。

 最初は戸惑いの声を上げたものの、突然倒れて来た彼女の身体を優しく受け止める。その姿を数瞬伺うと、優しい声色と共にで彼女を抱き上げ、建物の内側へと運び入れた。

 ゆっくりと閉まるドア。

 辺りは静寂に包まれ、わずかに揺れる木々の葉音だけが唯一の音となった。

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