第28話精神交差
つば広帽子を胸にあて、銀髪の男は軽く頭を下げる。白い肌に青い瞳の青年は微笑する。
「あなたがサンジェルマン伯爵ですか」
闇色のマントを羽織った男に春香はきいた。
「いかにも、私はサンジェルマン伯爵。どうにかこの世界に実体化することに成功したよ」
サンジェルマン伯爵は答える。
その声は春香に助言を与えたものとまるっきり同じだった。
かなり意識がはっきりしてきたので、改めて周囲を見渡すとそこには自分とラルヴァンダード、サンジェルマン伯爵しかいないことに気づいた。
「獅子雄たちは……」
「他の階層にばらばらに飛ばされたみたいなの」
春香の問いに首を左右に振り、ラルヴァンダードは答えた。
「春香くん、君はばらばらになった仲間と合流すべく、このバベルの塔を探索しなければいけなくなった。そこでだ、合流するまで私も君と共闘したいとおもっているのだが、いいだろうか」
「ええ、もちろんです。助かります」
そう言う春香の右手をサンジェルマン伯爵は強く握った。
「それでは善き盗賊ディスマと合流するまで、私はきみたちと共闘することとしよう。私はやつには見つかりたくないのでね」
サンジェルマン伯爵は言った。
「あたしは王様がいいなら、構わないよ」
赤い髪に両手を乗せ、ラルヴァンダードは言った。
その瞳には不本意の色に染まっていたが。
「迷宮探索に私と彼女だけではすこし心もとない、戦力強化をはかりたいが、よろしいかな」
「あたしだけでも十分だよ」
ラルヴァンダードが頬を膨らませ、抗議する。なかなかに可愛らしい仕草だ。
「君は覚醒したばかりだ。ここは慎重にいきたい。ラルヴァンダード、春香くんがなにかの拍子に傷つくのは君の本意ではなかろう」
「まあ、そうだけどね……」
ラルヴァンダードはしぶしぶ納得した。春香を引き合いにだされると彼女も弱いようだ
「
「あ、はい」
アイテムボックスから妖刀村雨を取り出すと、それをサンジェルマン伯爵に手渡した。
黒い鞘をサンジェルマン伯爵は柔らかくなでる。
「やはり、この刀には精霊が宿っているね。春香くんの国の言葉でいうと九十九神といえばいいだろ。どれ、実体化に力をかそう」
ふっとサンジェルマン伯爵が息を吹きかかけると 妖刀村雨は白い煙につつまれた。
煙の中から、小柄な人物が現れる。
水干と呼ばれる平安時代の衣装をきている。
白い髪に狐の耳を生やした愛らしい少女が出現した。
「お初にお目にかかります、拙者は村雨丸と申します。お館さまの命により、微力ですがともに戦いたく存じます」
村雨丸となのる少女は高い声でいい、ぺこりと頭を下げた。
「さて、王様。これから迷宮を探索するんだけど、そのためには散り散りになった仲間の位置を特定しなければいけないんだよね」
じっと春香の瞳を見て、ラルヴァンダードはいう。
「なにか、方法があるのかい」
「ええ、あたしと王様の意識を
形の良いあごに手を当て、ラルヴァンダードは少し、考える。
「口で言うよりもやってみる方が早いね」
そう言い、ラルヴァンダードは春香に抱きつき、額を当てた。
突然、抱きつかれ、春香は驚く。
「落ち着いて、王様。今から意識を
ラルヴァンダードがそう言うと、彼女は目をつむった。そうするとなにか暖かいものがゆっくりと心の中に流れ込んでくる気がした。
春香も目を瞑る。
流れこんでくるものが心を満たしていく。
それはラルヴァンダードの意識そのものだった。
さすが、王様だね。すぐに同期に成功した。
それは心と心で会話をしていた。
さあ、波紋を想像して。
それを広げるの。
このバベルの塔をすっぽりと覆うぐらいにね。
春香はラルヴァンダードに言われるままに波を想像し、その波から産まれる波紋で周囲を包むことをイメージした。
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