第13話緑の森

 冷たい涙が頬に落ちるのを春香は感じた。

 涙に潤んだ零子の茶色の瞳をじっとみつめる。

 数秒思案し、春香は答えた。

「君だけを強化してこのリヴァイアサンゲームを生きのびれるのかい?」

 ときいた。

 ただ黙って、零子は答えない。

「この世界を生き残れる保証がない以上、君だけを贔屓するわけにはいかないよ」

 春香は言った。

「私が欲しくないの?」

 猫のように甘えたききかただった。

 普通の男ならその言葉を聞いたら、我を失うだろう。

「正直、君はとても魅力的だよ。でもね、だからといって一人だけを特別扱いできないよ」

 ふっと微笑し、零子は春香の頬の口づけした。

 とてつもなく柔らかな感触だった。

「君はもしかするとあのディスマの言う通り、本当に王様なのかもしれないね」

 そう言うと零子は部屋をでていった。



 翌朝、皆はリビングに集まった。

「休息はとれたかい」

 ディスマの少女のような声が響く。

「ああ、大丈夫だ」

 春香が答える。

「じゃあ、扉を出ると次のステージだからね。気をつけてね、みんな。次のステージは“傲慢”がんばってね」



 コテージの扉を出ると、そこはうっそうとした緑がひろがる森であった。

 土地は冷たく湿っており、空気は冷たかった。

 日の光が伸びきった木の枝や葉でふさがれ、全体的に薄暗かった。

「さてさて、今度は鬼がでるか邪がでるか」

 と竜馬が皮肉を言う。


 陣形は亜矢がいなくなったことにより、変更を余儀なくされた。

 前衛をこれまで通り、獅子雄と零子が守る。中央は海斗と空美が春香を守る。後衛は美穂と竜馬が務めることになった。



 森の中を濡れた地面を踏み、落ちた枝を踏みながらしばらく進む。


「あんた、夜中に春香の部屋にいっただろう」

 前方を警戒しながら、獅子雄はきいた。

「ああ、えこ贔屓してくれって頼みにいったんだ」

 魔銃フェンリルをくるくるまわしながら、零子はこたえた。

「断られたけどね。あいつはもしかすると、なかなかのタマかもしれないね」

「知ってるよ」

 どこか嬉しそうに獅子雄は言った。


 カサカサと何者かが走る音がする。

「気をつけろ、なにかいるぞ」

 竜馬が後方から注意をうながす。

 その足音はだんだんと数がふえ、こちらに近づいてくる。

 両手を組み合わせ、空美は精神を集中させた。

 彼女の固有特技ユニークスキル聖霊を使用する。

 薄い光によって周囲が包まれる。

 「聖霊」の効果によって全員の身体能力が向上する。精神が高揚し、集中力がます。


 ガサリと何者かが空中から飛び出してきた。

 それは緑の肌をした小人だった。身長は一メートルと少しほどだろう。ひどく痩せていて、黄色い瞳は濁っている。

 錆びたナイフを手に握りしめていた。

「あれはマモンの一族、緑の小人だよ。ゴブリンっていったほうが、皆には分かりやすいかな。ものすごく凶暴だから、注意してね」


 ゴブリンはナイフを頭上にかかげ、春香たちに飛びかかる。


 魔銃フェンリルを構え、零子は引き金をひいた。

乾いた音をたて、弾丸が発射される。

 弾丸は緑の小人ゴブリンの額にきれいに命中した。

 額からどす黒い血をながし、ゴブリンは倒れた。


「どうやら、囲まれたみたいですね。春香くんを中心に円形に集まってください」

 海斗が皆に指示する。

 春香を中心に綺麗な円形の陣をとる。


「これはまたぞろぞろと」

 竜馬が愚痴をいう。

 彼らはおおよそ三十匹ほどのゴブリンに包囲されっていた。







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