日本にて

クラップが来てチャンピオンズリーグを1試合、リーガを5試合消化した。彼が指揮するようになってから劇的に守備力が向上した。リーガのとある1試合を除いたアスレチック戦も含む今までの6試合で平均失点数が0.5にまで減少した。以前のセキテン時代は平均0.91だったので、かなりの進歩である。


ただし、例外として除外した1試合ークラブマドリード戦ではこっぴどくやられてしまった。守備戦術が統一されたからと言って万事が上手く行くわけではない。クラップの得意なゲーゲンプレスやハイプレスもクラブマドリードのようなレベルのDFにはあまり効果がなく、むしろディフェンスラインを高く設定することで守備がザルになってしまった。

そうしてナバッペに2ゴール、久木に1ゴール、さらにオウンゴールまで献上して結果は4-0。秀徹がいながら完敗であった。


ちなみに、攻撃力もやや向上し、特にコウケーニョと秀徹の間からチャンスを作り出し、ゴールを多く生み出した。秀徹は現在

リーガで18試合12ゴール5アシスト、チャンピオンズリーグでは6試合3ゴール3アシストの結果を残している。

秀徹の強制契約延長の条件は4年間で150ゴールというものだ。一年あたり35ゴールという計算になる。それを鑑みると、シーズン半分が終了した時点で15ゴールというのは物足りない数字に見える。今は調子も上向きなのでその調子を崩さずにゴールをより多く決めてほしいところだ。



〜〜〜〜〜



リーガは他のリーグより比較的早く始まって早く冬のオフシーズンに入るので、長く冬休みを確保できる。なんだかんだ3年も秀徹が所属していたセリエAは、どのリーグよりも遅く始まり、遅く終わるので日本へ帰国することもままならなかったが、今年はできそうだ。

結婚後も秀徹と亜美の関係は極めて良好。スペインにも何の文句も言わずについてきた。非の打ち所のない嫁である。


さて、そんなわけで早めに帰国した秀徹に面白そうなテレビの出演オファーが届く。それは正体を隠してスーパーキッズと対決するという企画と、同じく正体を隠してアマの試合に出場するという企画である。

割と正体を隠してプロや芸能人などが○○するという企画はありふれているのだが、秀徹のような圧倒的な実力の持ち主がやるとまた一味違ったものになりそうだ。



まず、撮影したのはアマとの試合である。これはサッカー経験者などのサッカー好きが集まってその日限りのチームを組んでサッカーをするという交流会である。

秀徹には巧妙な特殊メイクが施されており、恐らく外見から秀徹と判断できる人はいないだろう。


当日、交流会に集まった人数はおよそ50人。4チームに分かれるにはちょうど良い人数だ。秀徹はひげを生やし、カラコンを入れ、メイクで顔つきを少し変えている。外国人とまではいかないが、ハーフぐらいには見られるかもしれない。

この交流会は比較的レベルも高い方で、場合によっては高校などで全国大会に出場した選手なんかも参加している。まあ参加者の大半は趣味程度の実力だろうが。


秀徹は交流会参加後も、もしかしたら話す声で正体がバレるかもしれないという懸念から、あまり作戦会議にも積極的に参加しなかった。結果的にポジションがRSBとなってしまったのは悔やまれるところだが…。

パス練習などはあえて下手くそにやって彼に注目を集めないようにする。秀徹的にはこれが一番難しかった。

ちなみに、この交流会の参加者にははじめから誰かサッカー選手が紛れ込んでいると知らされている。それも三人いるらしい。一人は秀徹なのだが、他は知らされていない。Jリーガーと引退したサッカー選手だとは知らされているのだが…。

つまり、サッカーをやりながら誰がサッカー選手なのかを当てるゲームでもある。そのため、三人以外にも怪しい髭やマスクをしたダミー役の参加者も紛れ込んでいる。



初戦、秀徹は試合に出ずにベンチを温め、二試合目にやっとピッチを踏めた。他の二人の選手は同じチームにたまたま所属していたようで、一試合目で正体が明らかになっていた。

一人は最近引退した中川俊輔選手。彼はフリーキックの名手で、日本の10番としてテクニカルなプレーを長年に渡って披露してきた。

もう一人はJリーガーの宇佐田だ。彼はサイドアタッカーとして日本代表でも活躍しており、海外ではだめだったが日本ではかなり得点も決めれるし活躍できている。


この二人のプレーは、アマと比べるとやはり圧倒的ですぐにバレてしまった。中川は前回の試合でフリーキックから1点を決め、1アシストも記録。宇佐田はある程度手加減しながらも2得点を叩き出し、30分ハーフの試合なのに5-1で勝利していた。

さて、秀徹はRSBで試合に挑む。相手は中川や宇佐田がいるチーム。強そうだ。


あわよくば秀徹はバレないようにこの催しを終わろうとすらしていたので、ボールをタッチするのにも慎重になった。ボールタッチは最小限。トラップも適度な雑さを保ち、パスも少しズレた場所へと送る。彼は試合で目立つための術を知っている。逆に言えば、目立たないための方法も知っているのだ。

前半も30分経過したが、秀徹は他の選手たちに何の不自然もなく溶け込んでいる。評価をつけるならば、平均が6点ならば5.5といったところ。可もなく不可もなく、RSBとして最低限の仕事をこなしている感じだ。


しかし、ここで転機が訪れる。後半4分、宇佐田が0-0で動かない試合にしびれを切らし、ついにあちらから見た左サイドからドリブルを仕掛けてくる。

彼は上島のような選手で、サッカーの上手さはイマイチなのだが足元の技術はとても高い。秀徹も対面せざるを得ないので警戒して挑む。

ここまで彼と対面した選手は誰も彼を止めれていない。ファーストタッチ刈りなど以外では無双しているということだ。だが、秀徹の中の獣と表すべきか、荒ぶる闘志と表すべきか、いずれにせよ秀徹の魂的なものは宇佐田に抜かれることを許さなかった。

彼がシザースをしてから抜きにかかったのに対して正確に足を出し、ボールを刈り取ってしまった。


(そんなつもりなかったのに!!)


秀徹は心の中で叫んだが、やってしまったものは仕方ない。


(マグレでできたんだと思わせよう。)


と気持ちを切り替えてボールを保持する。これ以上注目されないためにも、さっさとパスを出そうとしたものの、先程ボールを取られた宇佐田が秀徹に向かってくる。アマ選手に抜かれたりボールを取られたりするならば秀徹もまあいいかと思えるが、相手はプロ選手。

ボールを取られたくない気持ちが目立ちたくない気持ちに勝ってしまい、宇佐田をひらりとかわしてしまった。このプレーが決め手となって正体当てタイムに突入した。


この正体当てタイムはこの催し特有のもので、プレイヤーたちは全員で5回このタイムを使え、使ってプレイヤーを指名するとその選手の正体を知ることが出来る。この制度で中川と宇佐田はバレてしまったのだ。これは試合中であってもセットプレーになった際に3人以上の参加者の呼びかけがあれば、試合を中断して使用できるようだ。

今回使われる相手はもちろん秀徹。望んでなったわけではないのだがRSBにいるので、そういった経緯を知らない人はDFの選手だと思っているだろう。



それでは正体をお明かし下さい、という合図で秀徹は仕方なく1時間以上かかった特殊メイクを剥がして正体を明かす。髭を取ったところで人によっては誰なのかがわかってしまったようで、観客からは悲鳴のような声まで上がる。

そして、全てを剥がし終えると会場からは一際大きな歓声が巻き起こった。さきほどの二人よりも大きい。世界のトッププレイヤーのプレーを生で見れるのだから当然といえば当然である。



試合の再開後はその圧倒的なテクニックを披露して観客を沸かせた。後半10分、GKからのパスが渡る。宇佐田は彼をマークしていたのだが、全く効果がなかったようで彼ですらまるで赤子かのように扱われる。

ボールを受け取り、味方からの援護がないことを悟った秀徹は右サイドを一人で爆走する。正体がバレたことは不本意だが、バレてしまった以上は全力でやってやろうと思っていた。


相手はどうせ彼に足を出しても取れないことはわかっていたので、足を出さないように徹底的に秀徹についていってクロスなどの行動をさせない作戦に出た。だが、秀徹はあまりにも速すぎた。さらに、あえて相手に足を出させたくなるような距離にボールを置いてドリブルする。

その速さについていける選手はいなかったし、そもそも足を出してしまう選手が後を絶たない。こうして秀徹に1点を献上してしまうことになった。



その場にはワールドクラスの選手が目の前でプレーすることに感動を覚える者もいたし、選手の中には彼からボールを奪う、あるいは彼を抜き去って名を売ろうとハッスルする者もいた。もちろん、そんなことはプレミアリーグの選手でも中々出来ないのだから出来るはずもなかったのだが。

秀徹がボールを触る度に歓声が起こり、少しパスを出すだけで拍手が響いた。この試合は正体がバレた秀徹の活躍で宇佐田と中川という両名がいながらも、秀徹のチームが4-1という圧勝を収めた。秀徹は類稀なる守備、ドリブル、シュートまでを自身ですべて完結させてしまえる選手だ。単純な能力だけではなく、そのマルチに仕事をこなせることが差を生み出したのだろう。



高橋秀徹


所属 バルサシティ

市場価値:3億1000万€

今シーズンの成績:

リーグ 18試合、12ゴール、5アシスト

CL 6試合、3ゴール3アシスト

全公式戦 25試合、15ゴール8アシスト

総合成績:268試合、216ゴール、108アシスト

代表成績:32試合、25ゴール、10アシスト

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