バルサの初戦

プレシーズンマッチで随分戦術の調整は済んだものの、まだ安定しない中でバルサはラ・リーガの開幕を迎えた。

秀徹は段々とバルサの戦術に適応しつつあり、パス回しには欠かせない存在となりつつある。ただ、秀徹にとって気になるのは、監督があまりにパス回しに固執している点である。

もちろんバルサにとってパス回しが大事なものというのは分かっているのだが、以前の日本のようなつなげるためのサッカーになっている気がしてならない。本当に大事なのは、攻撃につながるパス回しだ。どうも監督は、パス回しをすることにおいては色々策を考えているようだが、それをいかにして攻撃につなげるかはあまり考えていなさそうだ。秀徹は確実にそこが穴になるとはわかりつつも、とりあえず監督の采配に乗ってみることにした。



〜〜〜〜〜



毎年恒例の世界の市場の動きについて解説する。

秀徹に関係のあるクラブを見ると、昨年度はレッズにとって苦難の年であった。年明け早々に世界最高のCBであるデークが負傷。レッズは彼のおかげで失点数が少なかったが、彼が抜けると途端に守備が脆くなる。さらにサリーやフェルノーネの相次ぐ負傷によってリーグでは4位という残念な結果に終わった。

決してこれは監督が悪いわけではなかった。強いて原因を言うなれば、それを見越した補強をしようとしなかったレッズのフロントが悪かった。だが、示しがつかないレッズはなんとクラップ監督を解任。今年は新監督を招いての戦いになる。


今年はクラブマドリードからモドルリッチが退団。彼は世界最優秀選手賞にも輝いた名選手。高齢とはいえ、ファンからは惜しむ声が相次いだ。他にもロドレゲスやベレルなどの不良債権化した選手を数多く売却し、ナバッペを獲得するに至った。秀徹をライバルであるバルサに取られるというのは痛恨のミスだったが、どちらにせよ圧倒的な強さを誇るのは変わらなさそうだ。

ラ・リーガではまず優勝候補の筆頭に挙げられるし、チャンピオンズリーグでも期待がかかる。

ユーヴェは秀徹を売却した利益で、彼の代役となり得るマンチェスターのブルーウッドを獲得。ローガンは今季限りでユーヴェを退団すると公言しているので、その代役も必要となるだろう。

今季の移籍市場話題はほぼラ・リーガの所属チームがかっさらっていった印象だ。



さて、ラ・リーガ、あるいはリーガエスパニョーラの初戦が始まる。バルサのホームである世界屈指の巨大スタジアム・カンパノルも約9万5000人を収容し、ほぼ満席である。

もちろん観客のお目当ては秀徹である。彼のローガンパフォーマンスは物議を醸した。メーシュが好きなファンにとっては複雑な思いもあっただろう。だが、メーシュのことを快く思わないバルサファンも一定数いるのだ。彼はあまりに偉大で強大だったから、クラブやファンに対する冒涜とも言えるような行為を度々行っていたからだ。一種の傲慢だった。

それを塗り替えようという意味で肯定的に捉えたファンもいる。どちらにせよ、これで秀徹のことを嫌ったファンは少なかった。ICCでは不快に思ったファンも6試合5ゴール2アシストという結果で納得させたからだ。故に期待値は高い。


今日のメンバーは

GK シュターゲン

DF ロベルタ、ピテ、ラングル、アリバ

MF ビザル、ヤング、ピャナック

FW ファビオ、グレーズマン、秀徹

という感じだ。秀徹はLWGでスタメン出場。当然ながらゴールを期待されている。


試合開始後には、バルサがボールを持つ展開が続いた。相手はバレンシアシティというリーガでも上位に入るチームだ。昨シーズンは若きポルトガル代表・LMFゲレスという選手が覚醒。彼は公式戦41試合で20ゴール12アシストを記録し、チームをリーガ5位まで引き上げた。ドリブルもフィニッシュも上手いので要注意だ。

また、キャプテンのパルホにも注意が必要だ。彼は結果を残せるプレーメーカーであり、ゲームを組み立てつつフィニッシュやアシストで結果を残せる。バレンシアの得点力をどう抑えつつ自分たちのサッカーを実現できるかが課題だ。



しばらくして秀徹は改めて思った。パス回しは出来ている。だけどそこからアタッキングサードへ持ち込むまでにいかない。思い切ってパスを前線に放り込む選手がいないのだ。

以前のバルサには日本でもお馴染みのイエニスタがいた。彼はいかなる状況でも前を向いて攻撃にどう繋げるかを考える選手だった。だが、代わりに入ったピャナックはパスを繋げることにはイエニスタ以上に長けているが、ユーヴェではより深い位置にいたせいか裏を狙ったり、思い切ったパスをしようとは思わないようだ。

秀徹がパスをもらいに行けば正確なパスを供給してくれるが、結局そこから秀徹がチャンスメークしなければならない。そうとなれば、後ろの方からロングパスの一発で秀徹につないでも大差はない。要はティキタカをやっている意味がないのだ。


前半で最もバルサがゴールに迫ったシーンはサイドバックのオーバーラップからだった。LSBのアリバがサイドを駆け上がり、ヤングがスルーパス。それを察知した秀徹が中央へと少しポジションを絞ってアリバとワンツー。アリバが高い位置に上がるのを助け、バルサのFW陣はアリバのクロスを待った。

供給されたクロスに反応したのはグレーズマン。上手くそれに合わせたものの、惜しくもゴールポストを叩くことになった。

つまり、前半は驚異のポゼッション率68%を誇ったバルサはゴールを決められなかったということだ。ハーフタイム突入のホイッスルが鳴ってドレッシングルームへと下がっていく選手たちにファンは容赦ないブーイングを浴びせる。特に秀徹にそのブーイングは激しく浴びせられた。



〜〜〜〜〜



秀徹はドレッシングルームで悩んでいた。決して負け惜しみではなく、彼は決めようと思えばゴールを決めれた。最低でもそれへと近づけた。そうしなかったのには理由がある。

当初、秀徹にフォルト会長はバルサのティキタカを取り戻すプランを提示した。秀徹にはそれに協力してほしいと要請もしていた。それ故に秀徹としては、彼が個人技を発揮してゴールを決めて本当に良いのだろうか、と疑問すら感じていた。彼が個人技を見せつけることはティキタカの破壊を意味するだろう。

そんな風に悩んでいる時、コウケーニョが話しかけてきた。


「なあ、なんでドリブルとかしないんだ?」


「このチームの戦術を考えると、ドリブルはあまりやるべきじゃないかなって思って。」


コウケーニョはどうやら秀徹の悩みを見透かしていたようで、それに対して、


「あのさ、別に当てつけで言ってるわけじゃないけどメーシュはティキタカ全盛期にもドリブルしてたぜ。」


とアドバイスする。


「そんなことはわかってるけど、俺と彼はまた違う選手だし…。」


「だから何だよ。ドリブルもティキタカの一部だってことだってことな。確かにドリブルのし過ぎはティキタカを壊すかもしれないけど、今のバルサには推進力っていうか、パス回しを攻撃につなげるつなぎ目が欠けてるのは事実。

いずれは克服しなきゃいけないけどよ、まだリーグ初戦だぜ?最初から完成形を求めるのは無茶なんじゃねえか?」


これは秀徹が戦術オタクであるが故に見逃してしまっていたことだが、戦術というのは日々変化していく。進化したり退化したり、あるいは全く違うものへ変わったり。様々だ。

バルサのティキタカだってこれから進化させていけばいい。だから今は秀徹が足りないところを埋めてあげるのだ。


「確かにそうだな…。コウケーニョ、ありがとう。」


秀徹はそう言うと立ち上がり、ピッチへと戻っていく。少し彼は頭が硬いところがある。それを解してやることが自分の仕事だなあとコウケーニョはしみじみと思った。



後半の立ち上がりはまさに秀徹の独壇場となった。ピャナックからボールを低い位置で受け取ると、CMFのビザルとともに中央を駆け上がっていく。こう見るとかなり動きはメーシュに近いのだが、ややスピードや突破力が歳の影響で落ちてきていた近年のメーシュに比べると、より相手からすると怖い相手だろう。

ラ・リーガは非常に個人技が光る国だと言われている。スペインという国柄、戦術をどのチームも凝っているので、ある程度戦術の面では拮抗することが多い。そうなると物を言うのは個人技であるからだ。


秀徹はあっという間にペナルティエリア付近まで迫っていく。バルサの攻撃はタイミングこそが命。秀徹もなるべくワンタッチで抜くことを意識してドリブルしているから本当に速い。

そして、ペナルティエリア手前で一旦止まり、グレーズマンにわかるように合図した。彼はその合図を受けて走り出していく。また、外側からファビオも走り出していく。


だが、秀徹の狙いは中盤から恐ろしいほどのスピードで走り抜けてきたビザルであった。二人のFWと秀徹自身への警戒やマークに奔走していて、バレンシアの守備陣は誰もビザルに意識が向いていなかった。

グレーズマンとファビオは贅沢な囮。秀徹は真の狙いであるビザルへとバックスピンをかけた浮き玉を出す。そのボールはペナルティエリアへと抜け出したビザルの目の前でぴたっと止まり、ビザルは足をまっすぐ振り抜いてインステップ (足の甲)から強烈な一撃を放った。


ボールは低い弾道で相手GKの股を抜けてゴールへ。本来のティキタカとは少し趣旨は違うが、とりあえず先制点は決まった。秀徹にとっては意外だったが、観客はこれに大満足の様子で、大盛り上がりしていた。まだスペイン語は片言であるが、秀徹を称賛していることはよくわかる。

ここで、秀徹は、


(本当はバルサファンはティキタカが見たいんじゃなくて、綺麗なサッカーが見たいのかもしれないなあ。)


と思う。バルサファンの核心を突くような指摘である。

実際、この指摘は99%正しい。最近はパス回しをするよりもメーシュらの独力での崩しの方が人気が高い傾向にすらあるし、中盤が関与してチーム全体で行うティキタカとは真逆にあるネイワールがいた時代に戻れたらという声がティキタカ復興よりも頻繁に上っていた。だから正直なところ、ゴリゴリのカウンターをやっても、勝てて美しければ受容されないということもないだろう。

ただ、厄介なことに一度ティキタカの美しさを知った人々は、他のどんな美しいサッカーを見てもティキタカのことをふと思い浮かべてしまう。これこそがティキタカの人気が根強い理由だ。



さて、秀徹がバルサの真理に迫った後、バルサは選手交代。ピャナックに代えてコウケーニョを投入した。コウケーニョが今季身につけるのは7番。10番を渡すと言われた手前言えなかったが、秀徹が一番欲しかった番号だ。

彼はピッチに入ると、レッズ時代よりも低い位置に陣取り、CMFとしての役割を果たそうとする。彼の持ち味は前へと大胆に推進できるドリブルと、チャンスメーク力だ。ピャナックとは違うと証明しなくてはならない。


彼が入ってから、パス回しの質自体は多少落ちたものの、ポジションの距離も近くて連携もよく取れている秀徹とのホットラインが開通。そこからシュートへと持ち込む展開も増えていった。そして、後半21分、ヤングからのパスを受けたコウケーニョがボールを持って前進、サイドに張っていた秀徹へとボールを預けた。

秀徹は相手を引きつけつつ、中央でボールを呼んだコウケーニョに再び渡して自身も走り出した。コウケーニョはここでポストプレーに徹し、秀徹がしたように相手を引きつけて秀徹の上がりを待って彼がペナルティエリアに接近すると優しくボールを落とす。


秀徹はいわゆるコウケーニョゾーン、あるいはデレ・ピエロゾーンと言われるような位置からカーブシュートをねじ込む。ボールは美しい軌道を描いてゴールへ。コウケーニョが入ったことによって攻撃が円滑に進んだバルサはもう1点をさらに追加し、初戦を3-0で終えた。


所属 バルサシティ

市場価値:3億2000万€

今シーズンの成績:1試合、1ゴール、1アシスト

総合成績:246試合、201ゴール、99アシスト

代表成績:32試合、25ゴール、10アシスト

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る