ローガンvsメーシュ

チャンピオンズリーグの準々決勝を勝ち上がったユーヴェを待ち受けていたのは、バルサシティであった。


準々決勝の相手は同国対決となるラツィオであったが、お互い手の内を知っている中で優勢を保ったのはユーヴェだった。ラツィオはクラブミラノと同様に3CB制を敷いており、サイドアタックをされるとサイドにおいては対応できない。

もちろん中央で対応すれば良いのだが、それを簡単にできる相手ではない。ユーヴェはローガンとイグアレンを前線に入れ、ヘディングやクロスからのボレーシュートを狙い、3-1での勝利をかざった。



で、問題はバルサシティである。バルサシティは絶対的なエースであるメーシュの今季退団がすでに発表されており、それに伴ってピテやスアリスなどの選手の退団も噂になっている。

メーシュの退団には様々な理由があるものの、年齢的な面も大きいだろう。ローガンは彼よりも2つ年上の36歳だが、ローガンの身体能力が異常なだけであって、あまりフィジカルで売っていないメーシュは、より衰えが強く出ている。エースとしてバルサを背負って15年以上。精神的にも疲労しているようだ。



そんなわけで、集大成となる今年はバルサも本腰を入れてチャンピオンズリーグ制覇を狙っている。国内リーグはクラブマドリードが独走しているため、なおさらである。

4-3-3のフォーメーションを使用しており、特にポゼッションサッカーに力を入れている。昨年、ラ・リーガの三連覇などある程度の実績を残していたバルべ監督を解任し、新たにポゼッションサッカーを好むキセテン監督を招聘した。

バルべ監督の采配では、試合には勝てるが、バルサファンが望むようなポゼッションサッカーを組み立てられなかった。バルサファンは結果のみならずその中身も重要視している。期待に応えられない内容ならば、勝っても容赦のない罵声を浴びせられる。



で、招聘されたキセテン監督は最初こそフィットするのに時間を要したものの、その後は元あるポゼッションサッカーのポテンシャルを引き出すことに成功。平均ポゼッション率が65%を超えるに至った。

今年はCMFにピャナックとラキティックを置いた形が成功している。ピャナックは去年課されていたような守備のタスクから解放されて、のびのびとプレーしている。彼とメーシュの相性は抜群で、攻撃の起点となる素晴らしい選手だ。

また、昨年度加入して適応に失敗し、メーシュとの確執があると報じられたグレーズマンも今年はチームに適応。今日はCFとして、ゲームに臨む。



お互いにポゼッションを基本とする両チームだったが、頑なにポゼッションを展開しようとするバルサ相手に、意外にもサッキはポゼッションを諦め、早い段階でカウンター戦術へと切り替えた。

今日のOMFは秀徹とディブラ。安定のメンバーである。そして、より正確にカウンターを狙うために、前半12分でフォーメーションチェンジをした。組んだ陣形は4-4-1-1である。守備にも攻撃にも貢献できる秀徹を一列下げてRMFとし、サイドの守備や攻撃を牽引させるつもりだ。ポゼッションにこだわらないのであれば、中央を固める意味もない。彼をサイドに流すのは良い判断だっただろう。


そして前半18分、早くも秀徹を右に移して良かったとサッキが胸を撫で下ろすような展開が訪れる。相手のLWGのファビオという選手がボールを持ち、上がってきたのだ。彼は18歳にして今季は27試合で10ゴール7アシストを記録しているバルサの希望のような選手。得点能力が高いだけでなく、ドリブルも非常に巧みだ。

今日はRSBに比較的守備もできるデ・シレオという選手が入っているが、相手はワールドクラスのドリブラー。ここにラキティックやグレーズマンのような選手が関与することも考慮すると、心もとない。


そこで秀徹も守備に参加する。ファビオは爆発的なスピードとボディフェイントで敵を抜く選手だ。スピードならば秀徹も負けない。

彼に対応するために前へと出てきたシリオをファビオはスピードで切り抜けるが、中央から回り込んだ秀徹が対応しにくる。


(なんて速さだよ…。)


初めて秀徹と対戦したファビオはその速さに軽く驚愕する。今まで対戦していた誰よりも速いと言えた。そこで、スピードを緩めて隙を窺う。両者の目が一瞬合い、進路をお互いに探り合うものの、突破する糸口は見つけられなかった。


そうこうしているうちに、ユーヴェ陣に敵も味方も集まってきた。グレーズマンは中央でボールを待つ動きをしており、ラキティックはファビオの助けに入る。だが、追いかけてきたシレオにマークされている。


(もうだめか…、相手に当てて外へ出そうかな。)


と、ファビオが思った時だった。中央から相手を引きつけながらもメーシュがボールを受けに来る。彼が動くと、相手も動く。膠着状態にある場合は彼こそゲームを動かす鍵となるのだ。

ファビオが彼にパスすると、彼は170cmとはとても思えないほど強いフィジカルコンタクトを見せてボールをキープ。秀徹もこれを危険視して対応に向かう。

そして、メーシュと対面するも、重心の方向を見抜かれてまずは左へと揺さぶられ、次に右へと揺さぶられる。左かと思って左へ重心を持っていった途端に逆へと揺さぶるのだから、バランスも崩れるし足も出せない。


こうして秀徹をたったの2タッチで抜いたメーシュは豪快に足を振り抜いて先制ゴール。試合はバルサが有利に立ち回ることとなった。

その後も立て続けにバルサが連続でゴールし、ユーヴェは2-0でバルサのホーム、カンプノンを去ることになった。



苦い苦い1stレグの経験から、即興で仕立てたカウンターでは意味がないことをサッキも察し、ポゼッションではない攻撃方法を探った。その結果、やはりサイドアタックしかないという結論に辿り着いた。

CMFにはマトウディ、ポルバ、ベントンクールという攻守に渡ってバランス良く立ち回れる三人を起用し、LWGに秀徹、CFにローガン、RWGにコストを配置した。この三人は入れ替わってサイド攻撃をすることも可能で、それぞれがワールドクラスのサイドアタッカーである。



バルサには、メーシュの最後に花を添えたいという思いもあってこの大会の優勝は欠かせないし、負けられない。だが、ユーヴェにとっても20年来の悲願を達成するためにも絶対に負けられない。

特に今年は、近年のユーヴェでも最強と謳われるスカッドを組めている。1億€以上の価値を持つ選手を5人も在籍させており、戦術もきっちりと機能している。このチームで優勝を逃せばしばらくチャンスは巡ってこないだろう。


また、秀徹が慕うローガンにとっても数少ないチャンスになりそうだ。すでにシーズン40ゴールをマークしている彼だが、体にはガタが出始めている。スタミナも前のようには持続しなくなってきたし、走力も緩やかにではあるが落ちてきている。

40歳まで現役を続けられる体ではあるが、チャンピオンズリーグ優勝となると最後のチャンスと言われるのを覚悟した方が良さそうだ。



試合が開始すると、ユーヴェはサッキズムを上手くサイドアタックに応用したクリエイティブなサッカーを行った。考えてみれば、去年はまず4-3-3でのサッキズムをしようとしていたわけだし、ナポリ時代には4-3-3でサッキズムを導入させていた。特別に組み合わせとして悪いわけではないのだ。

ただ、ナポリとユーヴェでは求められるサッカーのレベルが違うし、選手の特性も違う。だからこそ失敗したのだが、今はポルバもいる。


いつもよりも中央の枚数が足りないのはブルーズがよく使用している偽サイドバックのような形をとって、サイドバックの選手を中央に入れて補充し、サイドアタックは完全に秀徹、ローガン、コストに任せている。

これによってサイドと中央は分離してしまったものの、安定して中央からサイドへのパス供給が行えるようになり、チャンスは増えた。あとはサイドアタッカー三人衆がゴールを奪うだけだ。



前半15分、コストが中央でベントンクールからボールを受け取ると、ドリブルで右サイドを経由してから再び中央へカットインしてゴールへと迫る。コストは約50mを独走した。彼のドリブルは足元のタッチの幅がばらついており、相手は距離感を掴みにくい。メーシュとはタッチの面では、真逆のドリブルではあるのだが、非常に強力である。


バルサのDFも彼を囲うようにしてプレスをかけるのだが、中々奪えないし、ローガンや秀徹がパスをもらう動きをしているため、人数を割けない。

そうしてペナルティエリアぎりぎりまでドリブルし続け中央へとカットイン。左へ左へと今度は横へドリブルし、最後は左から右へとコースを狙ったシュート。

グラウンダー性のシュートだったものの、威力あるシュートであり、相手GKシュターゲンが飛び込むもぎりぎりで触れることはできず、ゴールへと吸い込まれた。



続けて前半26分、今度はクリストファー・ローガンが動いた。以前からあまり動かずにボールを待つことが多かった彼だが、今季はそれがより顕著になった。

しかし、ボールを持った時のいろいろな意味での爆発力は健在である。守備に奔走し、メーシュからなんとかボールを奪い取った秀徹が左サイドへと思い切りボールを蹴り出し、ローガンはそれへ向けて走っていく。


ローガンに対応するのはジェラード・ピテだ。彼とローガンは幾度となくマッチアップしてきた仲であり、手の内は知り尽くしている。

ピテは振り返る。2017-18シーズンのスーペルコパでも同じようなシーンがあったことを。カウンターから彼に持ち込まれて左サイドのペナルティエリアの角から素早く切り返されて、最終的にはミドルシュートでゴールを許した。

それを思い出したからこそ、あの時のようにはさせまいとローガンの得意なカットインに警戒しつつ、ドリブルするローガンの少し前を走った。


そして、ペナルティエリアに差し掛かる。ローガンはどう出るのだろうかと、ピテも注意深く観察した。おそらく、ローガンもあの時の事を思い出しているのだろう。少しニヤッとしてから左、右、左とシザースを繰り出す。


(ここは横…、と見せかけて縦に来るな。)


ピテはとっさにそう読んで、カットインにも気を付けつつも、大部分の警戒を縦方向に向ける。案の定、ローガンは右足から縦へとボールを滑らせている。


(きたか…!)


そうピテは期待するが、上手(うわて)だったのはローガンだ。ローガンは右足の足裏でボールを前へと滑らせるが、ボールと足が半回転したところで急にそれを止めてアウトサイドでボールを右側へと弾く。

ピテが読み通りにローガンが動いたことで安堵感に浸ったところを突いたのだ。衰え始めてきたといえど瞬発力は数年前までと変わりない。ローガンは弾いたボールにすぐに追いつき、無理な体勢ながらもゴール右隅へとシュートを炸裂させる。


反時計回りの回転がかかったボールは、外側へ外側へとブレていき、ゴールのサイドネットへと突き刺さる。これで2-2だ。


「よっしゃ!!!」


ローガンも渾身のガッツポーズを繰り出す。あとゴールをしていないのは、秀徹だけである。



その後は中々ゴールは生まれず、バルサペースに持ち込まれる。2点を取られておいて勢いを反転させることができるのは、偏にメーシュが全体に喝を入れているからだろう。彼はしばしばクラブを優越するような権力を持つとして批判を集めるが、そうであるが故に選手のモチベーターにもなれる。

今回はそれが奏功している。


前半45分、アディショナルタイムのこと。メーシュがボールを持ち、ドリブルをしていると焦ったマトウディがタックルを仕掛け、倒してしまってファウルとなる。メーシュは世界的なフリーキッカーだ。蹴られてはまずい。

マトウディは倒してしまってから後悔するが、後の祭りだ。悠然とメーシュはボールをセットしてフリーキックの準備をする。

そして、笛がなると、あまり勢いをつけずに軽くクイッとボールを蹴る。フリーキックとは思えないほど軽く蹴っているように見える。だが、これで正確なコースを狙ってゴールに入れてしまうのがメーシュという選手の恐ろしさである。

今回も外すこと無くゴールの端へと流し込んだ。GKのブットンはボールを捉え、触ることは出来たものの、枠外へと弾くことはできずにゴールを許した。これで合計スコアは3-2となった。しかもこれはアウェイゴールである。



ハーフタイム、ドレッシングルームではユーヴェの選手が各々深いため息をついていた。点差は1点だが、アウェイゴールを入れられてしまったので、2点を追加せねば勝ち越せない。すでに2点入れているのにまだ2点入れろというのは精神的にきつかった。

だが、ここでGKのブットンが立ち上がり声を上げた。


「ここで俺たちが負けたら…、結局決勝はスペイン勢の独占状態。そして、またもユーヴェはチャンスを逃すんだぞ。」


その声を聞いて、選手たちも顔を上げる。ブットンは続けた。


「俺はブットンという選手の引退とともに、ユーヴェがチャンピオンズリーグを優勝できないこの時代にも一区切りをつけたいと思ってる。」


その言葉の意味は、彼の引退を指す。つまり、引退するのとともにチャンピオンズリーグ優勝を飾りたいということだろう。

彼は今年42歳。GKという比較的衰えが遅いポジションの選手とはいえ、ハードな練習に肉体は悲鳴を上げている。彼は長年ユーヴェに貢献してきた人物。そのような選手が引退するというのは衝撃的だし、ほかのユーヴェの選手を奮い立たせる。


「やってやりましょう、ブットンさんに笑顔で引退してもらえるように!」


秀徹がたまらずにそう声を上げると、ほかの選たちも一斉に立ち上がってブットンの肩を叩きながらそれぞれの思いを語る。まだまだユーヴェは死んでいなかった。



高橋秀徹


所属 ユヴェ・トリノ

市場価値:2億5000万€

今シーズンの成績:36試合、30ゴール、18アシスト

総合成績:232試合、190ゴール、89アシスト

代表成績:28試合、21ゴール、9アシスト

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