勝負の後半戦

気合を入れ直してユーヴェ陣営が臨んだ後半。いきなり得点機が訪れた。

最初のプレーでユーヴェはバルサ陣へと攻め込み、コーナーキックに持ち込む。キッカーは秀徹。ローガンやリヒト、キエルーニなどの身長の高い選手を取り揃えるユーヴェにとって、コーナーキックは一つの武器である。


秀徹が右のコーナーフラッグ地点からカーブをかけたコーナーキックを放つ。それにローガンが頭で合わせる。強烈な叩きつけだったが、ボールが飛んだのは相手GKのシュターゲンの正面。シュターゲンはそのボールを弾き、難を逃れたかのように思われた。が、キエルーニが弾いたボールをダイレクトボレーでゴールにねじ込む。

超至近距離から打たれたシュートはシュターゲンといえども止めようがない。後半3分、アウェイゴール差はあるものの、早くも3-3の同点に持ち込んだ。


今のゴールに関与した二人ともがブットンのことをよく知り、彼をリスペクトしている人物だ。おそらくはブットンに触発されたのだろう。見事なコーナーキックからの崩しだった。

だが、ここからまた両チームによる均衡した試合展開となる。シュートまで持ち込む展開があまり見られず、シュートをするとしても良い体勢で打てない。

それもそのはず、両チームの守備陣はいつも以上の警戒心を持って守備をしており、両チームともらしくないディフェンスラインを低く保った守備戦術をとっている。そして得点の予感がせぬまま、後半アディショナルタイムへと突入した。



後半に入ってからはコストにかえてディブラ、マトウディに代えてラルジーなどの交代がされているが、いまいち成果は出ていない。秀徹が交代させられていないのが救いである。

当の本人である秀徹は焦燥の中にいた。あと何分あるかもわからない状況で果たして自分はゴールを奪えるのだろうか?と。そんな秀徹にローガンが声をかける。


「お前ならやれるさ、お前がゴールを決めるんだ。」


彼は代表以外では意図的にキャプテンにはなっていないが、こうやってチームメイトを励まし、支えるという意味で非常にキャプテンシーがある選手だ。

キャプテンを務めているポルトガル代表でら、Euro16という欧州1を決める大会の決勝にて彼は怪我のせいでベンチにいなければならなかった。だが、エダルという選手に「お前がゴールを決めるんだ」と励ましたら本当にゴールを決めたという逸話もある。

今回も同様になるだろうか。



バルサシティは自陣でボールを回すよりもむしろ攻撃を仕掛けることで時間を潰した方がゴールを奪われにくいだろうと考え、攻め立てている。攻撃は最大の防御理論である。

そして、あと何分あるのかはよくわからないが、マトウディが何とかボールをメーシュから刈り取り、センターサークルの左側にいた秀徹へとパスを通す。秀徹より前に存在する相手選手はGKを除いて4人。どうにかして突破せねば敗退してしまう。そんな焦りも胸に、秀徹は攻撃を仕掛けた。



いつになくボールを大きく蹴り出してドリブルを始め、スピードを上げていく。それに対してはピテが対応しに来ており、少し後ろからはLSBのアリバが追いかけてきている。

秀徹はまず蹴り出したボールに追いつこうとする。だが、ボールの蹴り出し方は誤算があったようで、ピテがすでに触ろうとしていた。


秀徹は持ち前の走力でそれを防いで足を繰り出し、ルーレットでボールを触ろうとしたピテから遠ざかり、そのボールを刈り取ろうとしたアリバも軽快なタッチでかわして中央へと展開しようとする。

バルサのピテの他のもう一人のCBであるラングルも同じように秀徹にアプローチをかけようとしていたのだが、ローガンはその動きを察知して彼を引きつける動きをとる。彼ほど信頼できる味方は他にいないだろう。

ローガンのおかげでラングルは警戒のために秀徹へ近寄れず、秀徹が抜くべき相手はピテの他には残っていない。



アリバを抜いた秀徹はその状況を確認すると、どのようにしてピテを抜こうか思案する。彼とは今後ろ向きに対峙している。ピテを秀徹が背負うような状態とも言いかえられる。

そこで彼はピテを背負いながら右方向へとターンし、サイドから攻めようと決める。右足のアウトサイドでボールを隠しながらターンを実行した。この目論見は見事に成功し、再び秀徹は正面からピテと向き合うことになった。


向き直ってから、ピテは時間稼ぎのために足を出さずにじわじわと後退して、仲間の援護に頼ることにした。一人では熟練のCBであるピテの手にも余るほどの相手だ。実際、秀徹が思っていたよりも攻めるのに時間がかかっており、他のバルサ選手がすぐそこまで来ている。だが、秀徹はピテの思い通りにはいかない選手だった。


ドリブルしてピテに接近すると、右、左、右、左と素早く交互に揺さぶる。ピテは決して足を出さない。出したらその瞬間に何かしらの方法で抜かれることを知っているから。

しかし、出さずとも秀徹が抜く方法はいくらでもあったようだ。ピテは三度目の左への揺さぶりの時に彼のボールタッチと重心の移動が重なった。これは対応できる、と確信したものだった。

ところが、次に秀徹は右へと揺さぶり…と見せかけたエラシコを繰り出す。秀徹はピテが重心を右へと移動させることまでも読んでいたのだ。


隙ができたので、ただちに秀徹は縦へとドリブルを開始。爆速でボールを前へ前へと運んでいく。先程抜かれたアリバも秀徹を追ってきているが、むしろどんどん二人の距離は離されていく。アリバも快速で知られる選手故に秀徹の速さがよくわかるだろう。

ペナルティエリアに入ると、シュターゲンがボールを取りに飛び出してくる。これさえ止めれば試合は終了するだろうからシュターゲンも必死である。



彼のゴール次第でメーシュやローガンをはじめとした多くの選手の運命が変わるという状況の中、彼は驚くほどに冷静であった。ゴールからは少し離れており、このまま普通に打てばシュターゲンに弾かれてしまうだろう。

だが、秀徹にはすでにシュートコースが見えていた。彼が狙ったのはシュターゲンの股下である。GKはボールを触る面積を増やすために体を大きく開いてゴールを守るから、どうしてもそこは開きがちである。とはいえ、そこを狙い通りに寸分違わず通す選手も少ないし、1vs1のような緊迫した状況下でそれを狙える選手も少ない。秀徹の場合は確かな練習量と圧倒的なセンスがその狙いを下支えしていた。



これによってユーヴェは逆転。2-0での敗北を覆す4-1での勝利をユーヴェファンに贈った。

試合後、メーシュは地面に突っ伏して空を見上げ、ピテはボールを高く蹴り上げて不甲斐ない自分たちへの怒りを顕(あらわ)にした。彼ら二人は奮戦したが、バルサの他の選手たちがそのパフォーマンスに追いついていないのは誰の目にも明らかであった。一方で、優勝へ望みをつないだユーヴェの選手たちは大はしゃぎ。

バルサが前半していた美しいサッカーは脳裏に焼き付くようなものであったが、後半の失速感は否めなかった。ただ、同じポゼッションサッカーをする者として、秀徹はバルサのプレーを見て一種の感動のような感情を覚えた。カウンター一辺倒だった頃には全く思わなかったことや、見えなかった物が見えてきたのだ。さらに、


(このポゼッションサッカーを失わせるのは勿体無いな…。)


と、密かに思った。



〜〜〜〜〜



セリエAはユーヴェが順調に勝ち続けた。ユーヴェは最終節終了時点で34勝2分2敗の勝ち点104ptと圧倒的であった。さらに、総得点数も98点と五大リーグを見渡しても上回るチームがないほどの得点力を誇っていた。この得点を守備が堅いことでおなじみのセリエAで記録するのがは本当にすごいことだ。

その得点の約40%にあたる38点はローガンによって決められている。彼はリーグ33試合38点7アシストを記録。36歳でこのような数値を叩き出すのは規格外であるとしか言えない。

また、秀徹もローガンには及ばずも35試合27ゴール22アシストを記録している。ゴール数も超一流の域にあるが、アシスト数は欧州一である。セリエAの最多アシスト記録を5アシストも上回って記録更新を果たした。また、チーム全体としてはコッパイタリア(イタリアのカップ戦)も優勝しており、すでに国内二冠を達成している。あとはチャンピオンズリーグだけである。




高橋秀徹


所属 ユヴェ・トリノ

市場価値:2億5000万€

今シーズンの成績:36試合、30ゴール、18アシスト

総合成績:232試合、190ゴール、89アシスト

代表成績:28試合、21ゴール、9アシスト

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