ポゼッションサッカーのぶつかり合い

サッキズムが機能し始めたユーヴェは、リーグでもチャンピオンズリーグでも連戦連勝。圧倒的な力を見せつけていた。

具体的には、今のところセリエAを8節まで終えて全勝している。2位のクラブミラノが6勝2分だということからも強さがよくわかるだろう。


中でも光っているのは、新加入のポルバとその先でゴールを狙う秀徹ーローガンのラインだろう。


ローガンが活躍している理由は大きく3つある。

1つ目はポジションと戦術が起因している。今までは2トップ、あるいは3トップの一角だったが、今年から彼は1トップとして攻撃参加することになった。

これにより、彼にいっそうボールが集まるようになり、シュートを打てる回数が増加したのだ。さらにチームの戦術が上手く行っていることも彼のボールタッチ回数の向上に寄与している。

2つ目は単にセリエAに順応したからだろう。順応せずにここまで約60試合で50ゴールを決めれるのもまた凄いが、順応してからはもっと凄くなった。

3つ目には秀徹が彼の援護に徹する環境が整ったということが挙げられる。

ここまでリーグでは7試合10ゴール2アシスト、CLでは2試合3ゴール。両者得点ランキングで上位に立っている。

秀徹も8試合5ゴール4アシストと結果を残しており、チームの好調に貢献している。



また、ポルバはプレシーズンから一貫した質の高いプレーを見せているが、特にここ数試合のプレーは特に圧巻だ。彼は守備やパスにも秀でるが、元々攻撃的な選手。攻撃参加すればさらなるクオリティの向上が期待できる。

なので、時折攻撃に参加し、ボールキープしたりスルーパスを通す、ミドルシュートを打つなどの方法で結果を残している。今のところ2ゴール2アシスト。守備の片手間に攻撃している選手としては上々の成績だ。


さらに先程は取り上げなかったものの、デ・リヒトの覚醒もチームの好調に影響を与えている。

昨シーズンは、チームのコンセプトに馴染めず、キエルーニが怪我したので出場機会は確保できていたが、彼の復帰後は定位置を確保できなくなっていた。同時に加入したデメラルの方が上手いとすら言われる始末だった。

だが、今季はタッグを組む選手と分業してディフェンスすることで実力を発揮。巨躯を活かしたシュートブロックや、高い危機察知能力を活かしたカバーリングでチームの危機を救っている。

ラインを高く保つディフェンスにも慣れつつあるので、これからより守備力の向上が見込めるだろう。



全ての歯車が噛み合い始めたサッキ率いるユヴェ・トリノ。勢いはそのままにチャンピオンズリーグ第3節では同じくポゼッションサッカーを駆使するマンチェスター・ブルーズと対戦する。



〜〜〜〜〜



「に、にわかには信じられない速さだ…。」


ユーヴェのトレーニングスタッフたちは驚きを隠せない。この日は、2ヶ月に渡って取り組んできた秀徹の走り方の改善が終了し、タイムを計測をする日だった。


秀徹は走り方にも色濃くローガンの影響を受けていた。ローガンは背筋を伸ばして走っている。これによってローガンはバランスを保ちつつ速さを手に入れていいるわけだが、この走り方が誰にとっても良いわけではない。

秀徹は体がかなり柔らかく、柔軟性に富んでいる。そして、体がバネのようになるので背筋を伸ばすよりも適宜伸ばしたり縮めたりした方がよい。

ここを改善することによって、彼の走り方は大きく変わった。最初は中々慣れなかったようだが、持ち前の運動神経を活かして徐々に適応。


今回の計測では、なんと100mを10.5秒で走ってしまった。彼が最初から陸上選手として鍛えられていたら、10秒をきるようなタイムを出す陸上選手になるに違いない。スタッフたちは皆そう思った。

だが、それが勿体無いとは誰も思わなかった。なぜなら彼には類まれなるサッカーの才能があるのだから。



〜〜〜〜〜



マンチェスター・ブルーズはバルサシティでグアディオ監督の完成させたティキタカをさらに発展させたサッカーをするチームだ。

グアディオ監督はしばしばサッキ監督と比較されることがある。お互い、独特な哲学を持ったポゼッションサッカーの使い手であり、非常に強い。完成したユーヴェのポゼッションサッカーがブルーズにどの程度通用するのかは見ものだ。


フォーメーションはいつものように4-3-2-1。鉄板の組み合わせである。

ブルーズは今季、チームを10年間に渡って支え続けたOMFのシムバの退団という大きな試練があった。かなり選手としては高齢ながらも巧みな技術で未だにチームの主力となっていた。

彼の代役など誰にも務まるものではないのだが、今年の世界最優秀選手候補のデブライルは彼の穴を感じさせないほどのプレーを披露している。秀徹がレッズにいた頃より洗練されたブルーズの攻撃がユーヴェを襲った。



ブルーズの主な戦術はティキタカと偽サイドバックだ。偽サイドバックは以前も解説したが、サイドバックを中央に寄せさせることで中央でのパス回しを円滑にするものだ。多少はサイドが手薄になるものの、特にユーヴェは中央から崩す戦術なので比較的相性は良いだろう。


そんなふうにして、中央の攻撃力を強化したブルーズはユーヴェ陣へと侵入した。シムバの代わりにはギュウドンアンが入っており、スキルやチャンスメーク力は落ちたものの、デブライルをサポートする体制は確立できた。

これでさらにデブライルのチャンスメーク力が光る。


前半3分、デブライルからブルーズから見て左に位置取るスターレングに絶妙なスルーパスが通る。ユーヴェのRSBは昨年コンバートされたクアドレードだ。彼の守備力ははっきり言って高くない。

少なくともデブライルの絶妙なスルーパスに反応し、なおかつスターレングの巧みなドリブルを止める技術はなかった。

カットインを成功させたスターレングはそのまま中へと切り込んでいく。そこへリヒトが止めにかかる。



彼は、シュートブロックやパスカットを得意としており、アグレッシブな守りでは得意ではなかった。だが、仲良くなった秀徹との特訓を経て、比較的苦手だった対人守備の能力に著しい向上が見られた。その守備強度は、CBなだけあって以前の秀徹のパートナーだったアレキサンダーの比ではない。

スターレングはプレミアリーグで現在1位のドリブラーである。当然ながら警戒すべき相手だ。


彼は左足でシザースをする。リヒトはそこに足を出そうとした。

すると、スターレングはすかさず右側へとカットイン。リヒトを抜いた。…と思われた。だが、リヒトが足を出そうとしたのもフェイントであった。そうやって隙を作れば、スターレングが仕掛けて来るだろうと踏んだからだ。

なので、リヒトは足をまだ出しておらずバランスも崩していない。カットインを図ったスターレングをその後も追い回し、結局ボールを奪取してしまった。


(お前はプレミアリーグ1のドリブラーかもしれねえが、俺が居残りで練習してる相手は世界1のドリブラーなんだよ!)


倒れ込むスターレングを見て、リヒトはなぜか誇らしい気持ちになる。ここからユーヴェの攻撃もスイッチが入っていった。



中盤の底でボールを受けたポルバがボールを運んでいく。彼はボールホルダーとしてとても優秀である。ボールを持つと、前へ前へと推進して絶対にロストしない。そのプレーに前線へ行かずに残った秀徹やディブラが絡むと強力である。

今回も秀徹とポルバで縦の関係を構築し、横にはマトウディとベントンクールがついていく。ベントンクールは成長著しいウルグアイの選手であり、攻守に渡ってチームに貢献できる。


この四角形が作られてしまったら、もう誰にも止められない。ブルーズは中央を固めているものの、前線に張っているディブラやローガンの警戒にも戦力を割いているので、全力で止めにいける状況ではない。

特にローガンはオフ・ザ・ボールのスペシャリストだ。ボールを持っていない時の抜け出しが抜群に上手く、スプリント能力も高いので警戒せねばならない。


サッキズムサッカーでは時に後ろにボールを戻すこともある。だが、それも確実に前進するためのバックパスであり、意味のないパスは存在しない。

秀徹はボールをポルバへと戻し、自身はもらう場所を探して走る。勘違いしがちだが、ポゼッションサッカーというのは動かないサッカーではない。もちろん、動かずにボールをポゼッションする場合もあるが攻撃の際には動き回ってパスを繋ぐスペースを創出するのこそが強者のポゼッションサッカーだ。

日本がいつもしているあれは似非ポゼッションサッカーといえる。



ユーヴェの選手たちは走り回り、パスコースを見つけようと努力する。そして、ポルバからベントンクールへとパスが回ると、サッキズムの醍醐味であるボランチを起点とした攻撃が炸裂した。

ベントンクールから秀徹へ、秀徹からワンタッチでマトウディへ、マトウディから上がったポルバへ…、どんどん前線へと上がっていく。

パスの役目を終えた選手はまたターンして裏へ回ったり、横へと抜けたり、中央へと寄せたりと、実に様々な動きでスペースを創り、あるいは敵を惑わせる。このリズムを刻むようなパス回しがサッキズムが美しいと言われる所以である。







高橋秀徹


所属 ユヴェ・トリノ

市場価値:2億2000万€

今シーズンの成績:1試合、1ゴール、0アシスト

総合成績:197試合、161ゴール、72アシスト

代表成績:28試合、21ゴール、9アシスト

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