無念なシーズン

はっきり言ってしまえば、ユーヴェにとって2019-20シーズンは失敗のシーズンだった。セリエAの10連覇は達成されたものの、最終的なラツィオとの勝ち点差はわずかに2点。ぎりぎりの戦いであった。

クリストファー・ローガンは終盤も追い込んだものの、わずかに得点ランキングでトップを走るインモーズレに届かず、31点で今季のセリエAを終えた。インモーズレは33点。

今季に関しては、インモーズレが圧倒的であったと言わざるを得ないだろう。


あれから秀徹はドリブラーとして、またチャンスメーカーとしての力量を発揮した。得点力は下がったものの、キーパス、アシスト、クロス、ドリブル突破、パスなどのスタッツが軒並み向上。

ドリブル突破に関しては成功数が200回の大台に乗り、成功率は74%を誇った。回数も成功率も欧州1位である。また、キーパス回数もディブラに次ぐ52回を記録。パスの質や精度も上がってきている。


今までは彼はOMFを担当することもあったものの、ウイングやCFとしての方が評価されていた。だが、ここにきてビルドアップや起点づくりができる選手としての評価も得られた。41試合20ゴール17アシストは今までの秀徹としては評価に値しないレベルではあるが、アシストを大量に記録できたのは大きい。


何より、結果はそうであったとしても、ローガンの40試合35ゴール8アシストという記録に貢献できたことに秀徹は喜びを感じている。ローガンへのアシストは実に11回にも上り、これがなければローガンも評価を得られる記録とはならなかっただろう。



話をユーヴェに戻すと、ユーヴェは根本的に中盤が脆すぎる。やはりピャナックの守備が脆く、この位置はマークもされやすいので、フィジカル的にも強靭な選手が必要だ。新たな選手の獲得に乗り出すようだ。

ピャナックはピャナックで、やりたくもないボランチの底をやらされて疲弊しており、移籍を希望している。つまり、ピャナックを売って代役を獲得する算段なのだ。


ユーヴェはリストを作って誰を獲得するべきなのかを検討する。

リストアップされたのはロンドンブルーズのジョルジェーニョ、バルサシティのアルテール、クラブマドリードのクロイスなどだ。その中でも、特に獲得に近かったのがマンチェスター・ユニオンのポルバだ。


彼はそもそもユニオンの下部組織出身だがユニオンで満足行く出場機会を得られなかったので、ユーヴェが無料で獲得。その後ユーヴェでは10番を任せられるような選手に大成。するとユニオンはポルバを1億€で買い戻した。

ポルバは若かったし、それでいて確かなクオリティを持っていた。だが、低迷するユニオンではそれを完全に発揮することができず、評価は下落している。

そんな彼にはクラブマドリードなどが興味を示しているものの、クラブマドリードも中盤は飽和状態にあるため、移籍の話は進まない。


さて、そういった中で、まずバルサシティがピャナック獲得に乗り出し、6月中にオファーが確定。5500万€で完全移籍することが決定した。30歳という年齢を加味すればかなりの移籍金になる。

また、ユーヴェはピャナックを売ったとしても中盤の人数が多いので、レンタルしていたキャンをドルトに2300万€で完全移籍させ、ユーヴェでは活躍できなかったラベオを3500万€でマンチェスター・ユニオンへと売却した。


これでユーヴェは1億€ほどのお金を工面できたので、満を持してポルバにオファーを送る。評価が下がったとはいえ、移籍金インフレ時代にあるので、1億€ほどの移籍金は必須となる。

マンチェスター・ユニオンも、ポルバの扱いに苦戦していた面もあるし、お金が欲しいところ。すぐにクラブ間の交渉は成立した。本人は、クラブマドリードに行きたかったようだが、サッキの熱意や現在のユーヴェがローガンや秀徹などのトップレベルの選手を集めていることを考慮して、移籍が決定した。


これによって真のサッキズムが完成するのだった。



欧州全体を見渡せば、バルサシティのメーシュの去就が注目されたりしたものの、大きな動きのない移籍市場となった。

昨年のチャンピオンズリーグ優勝者はマンチェスター・ブルーズ。念願だったグアディオによるCL優勝にイングランドは沸いたものだった。ちなみにユーヴェはベスト16でマルセイユに敗北。ホーム戦では3-1と善戦したものの、アウェイゴール差で敗北してしまった。


注目された選手としては、ノルウェーの天才・ヘランドがあげられる。彼はノルウェーのCFで、秀徹よりも年下の19歳にして37試合44ゴールという圧巻の成績を収めた。

オーストリアのリーグでゴールを量産していたため、来年以降はどうなるかわからないが、ドルトに冬の移籍期間で移籍してからも16試合16ゴールを記録している。

ナバッペ、秀徹の二人に強力なライバルが現れた形になる。



さて、ポルバを戦列に加えたユーヴェは最適なフォーメーションを追い求める。まずは4-3-3を試すが、ナポリ時代よりもハイレベルなポゼッションサッカーをするなら、出来る限り中央に寄せたい。というか、ユーヴェでやるならばナポリ時代よりも高いクオリティが求められる。

次に試したのは4-3-1-2。去年の基本形だ。しかし、このフォーメーションだとOMFの選手への負担が重く、そこを徹底的にマークされたら攻撃が立ち行かなくなる。


そこで考案されたのがこのユーヴェ結論陣形となる4-3-2-1である。秀徹は昨シーズンでOMFとしての素質があることを証明した。パスもドリブルも全てのレベルが高い。

決定力に関してはCFが1枚になろうが、ローガンがいる限り全く問題はなさそうだ。なので、ゲームメーク上の課題を取り払える2OMF陣形はチームにとって完璧だった。


また、昨シーズン問題になっていたボランチの問題もポルバによって解消された。彼は190cmある大柄MFで、守備力も高くフィジカルも強い。

またパスも上手く、サッカーIQも高く、攻撃力も高い。まさにこのサッキズムのボランチを務める最適解と言える人物だった。彼はパス回しの中心となり、ディフェンスにも積極的に取り組む。

中央の守備に問題がなくなったことで、マトウディやラルジーといったCMFもサイドに開いたり、攻撃に参加できるようになり一石二鳥である。


さらに、このように3-2という中盤になったことで、中央のポルバがCMFの二人に後ろから、OMFの二人に前から四角形を作るように囲まれることによって、格段にパスの通りが良くなり中盤の支配がしやすくなった。今季のユーヴェはひと味もふた味も違ったサッカーができそうだ。



〜〜〜〜〜



2020年、東京オリンピックの開催年である。サッカー選手にとってはあまり関係のない話だが、オリンピックにもサッカー競技がある。23歳以下の選手が出場可能であり、秀徹にもお呼びがかかっている。

というかむしろ日本の要的な存在である。


急激にサッカーを勉強し、戦術などを知り始めた森谷は改めて秀徹の偉大さを知り、彼を中心に代表チームを組み始めた。それは良いのだが、彼は五輪チームの監督も担当しているので、どんな日本代表のチームに行っても森谷と離れられない。正直、あまり良い状況ではない。



イタリアから秀徹は飛行機で日本を目指す。亜美と仲睦まじく、今回の旅も一緒だ。というより、いくら彼氏や夫がサッカー選手でも、その試合の全てについていく彼女や妻は少ない。

だが、亜美はレッズの2年目の冬あたりで同棲し始めてからは常に秀徹に付き添っている。これは元々彼女がサッカーファンであることも、少なからず影響しているだろう。


日本に着くと、おびただしい数のファン、マスコミなどが空港に押し寄せており、それらの対応に追われる。秀徹はファン対応には熱心だ。場合によっては10分以上サインを書き続けていたりすることもある。

今回も、サインを書いていると、後ろから声をかけられる。


「おう、久しぶりやな!」


そこにいたのは本多だ。彼はブラジルのチームに所属して、このオリンピックのオーバーエイジ枠を狙っていた。オーバーエイジ枠とはその名の通り、24歳以上でも3人までなら出場権を得れるシステムで、ネイワールもブラジルからオーバーエイジ枠で出場している。


「サインなんて書かんでもええから、ほな、いきまひょ。」


本多はそう言って秀徹の肩を持って歩き始める。


「なあ、リトルホンダが言うには、学校の宿題なんてやらんでもいいらしいで。」


どうでもいい会話をしながら、秀徹と本多は空港を出て練習場へと赴く。実のところ、本多をこの代表に選出させた立役者は秀徹だ。

クラップに影響されて秀徹の助言をよく聞くようになった森谷が、次は秀徹にオーバーエイジで欲しい選手は誰かと尋ねた。

色々候補はいた。岡田もいいし大隅もいいし香取もいい。だが、咄嗟に思いついたのは奇しくも本多だった。


当初、本当に彼が選出されるわけはないと秀徹としても思っていたが、なんだかんだあって案が採用された。彼は良い選手だが、秀徹は衰えや戦術が噛み合うかまでを加味して提案したわけではない。この選択が吉と出るか凶と出るか。見物(みもの)だ。



数日前に終了したEURO2020はフランスがワールドカップでも見せた強さを発揮して優勝した。そこにも出場して、オリンピックにも呼ばれているナバッペなどの若手はすぐに東京に集まっている。

普段は注目されることの少ないオリンピックのサッカー競技だが、今年は特に注目されている。何しろ、若くして超一流となったナバッペ、秀徹それにネイワールが参戦しているのだ。


それに、スペインからはクラブマドリードのキャプテンのセルジオ・ランスも参戦。スターも勢揃いしている。

オリンピックには16チームが出場。グループステージで2チームのトーナメント進出者を決めてから決勝トーナメントを開催する。


今年の日本は監督はともかくとして強い。歴代最高の日本人プレーヤーの高橋秀徹を10番とキャプテンに迎え、去年はラ・リーガのマヨルカにおいて33試合5ゴール5アシストの活躍を見せてレギュラー定着した久木、セリエAで評価を高めるCBの冨岡などが招集されている。

多分、歴代最強といえる言える陣容だ。


さらに自国開催であるという事実が日本を後押しする。蒼き侍の挑戦が今始まった。





高橋秀徹


所属 ユヴェ・トリノ

市場価値:2億€

今シーズンの成績:41試合、20ゴール、17アシスト

総合成績:196試合、160ゴール、72アシスト

代表成績:26試合、20ゴール、9アシスト


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