ユニオンの脆弱性

リーグの第21節、レッズにとってここが正念場になっていた。なぜなら特に今季の絶対的なエースとなっていた秀徹が離脱したからだ。

これによって、レッズは大打撃を受けることになる。彼は常に攻撃を牽引する選手であり、レッズのゲーゲンプレス、ハイプレス、スピーディーなコンパクトサッカーなどを実現するには欠かせないからだ。


第21節の相手はビッグ6でもない格下だったが、秀徹がいないというダメージは想像以上に大きく、結果は2-2の引き分け。2点を奪えたものの、攻撃のスイッチが入り切らないような試合になってしまった。



第22節の相手はエヴァートン・ブルーズ。ダービーマッチであり、不甲斐ないプレーを見せたらリーグの首位を走っていようが、容赦ないバッシングを浴びてしまうだろう。

エヴァートン・ブルーズはシーズン前半にポゼッションサッカーをしようとして、大失敗。順位は下位にまで低迷した。が、途中から戦術をショートパスを駆使したカウンターに切り替えて復活。一時は15位まで順位を落としていたが、現在は10位。復調を加味するとかなり勢いがあり、手強いだろう。


相手は4-3-3のフォーメーションで試合に臨む。注目はOMFの万能型チャンスメーカーのジグルリンと、LWGにいるリシャルリンだ。シーズン前半に二人はチームが劣勢の中でも孤軍奮闘し続けてきた選手で、特にリシャルリンは21歳と若いのに起用法も定まらない中でチーム内得点王となっている。彼はドリブルも守備もシュートもすべて上手い。ブルーズの宝石と呼ばれるだけある。


対してレッズはいつも通りの4-3-3で臨み、CFにはフェルノーネが起用された。前節では、クラップがあえてオリゲを起用したのが前線が膠着する原因となっていた。それを踏まえてのことなのだろう。



キックオフ後、レッズは一方的な攻撃を展開した。フェルノーネは秀徹とようなスピード感のある攻撃はできないものの、サリーとマニャのスピードを活かすプレーに徹すれば、秀徹なしでも力強くて速いプレーが展開できる。このようにして、レッズは攻撃を続けていった。


だが、ブルーズが狙っているのは先述のようにカウンター攻撃。相手が前のめりになっているのを察知すると、すぐにプレスをきつくしてボール奪取を狙い、カウンターの体勢に入る。相手チームは中央のジグルリンだけでなく、サイドのリシャルリンやイオブといったスピードのある選手でもカウンターを実行できる。


今年のようなFWが中央に寄る戦術を使っているレッズには速いサイドアタックがとにかくよく効く。イオブは速いだけなので、デークや中盤のフェベーニョらが連携すれば難なく抑えれるが、リシャルリンはかなり難敵だ。

素晴らしいドリブラーは、状況判断力が高い。世界的なドリブラーの秀徹やネイワール、ハザードらもそうだ。彼らは周りの力を使いつつ、随所で自身の技術を発揮できる。つまり、どこで周りの助けが必要なのか判断できるのだ。そういったことも弁えずにドリブルしまくるのは、いかに足元の技術があろうが良いドリブラーにはなれない。イオブはそういうタイプだ。あと上島も。

そういう意味で、リシャルリンは良いドリブラーだ。周りを上手く使いつつ、必要なところで技術を見せつけている。若いのにかなり狡猾で読みにくく、デークも大苦戦している。

対面するアレキサンダーは、対人ディフェンスではかなり強くなったものの、単にドリブルしてくるのではなく相手が複数いたり、読み合いになった場合にはまだ弱い。

改善の余地がありそうだ。


レッズはこのままでは前半の立ち上がり (始まってから15分間)で決められてしまうかもしれないとすら思うほど、カウンターアタックに振り回された。しかし、幸いにも相手の一番の課題が得点力であり、実際点が取れるストライカーがいない。

リシャルリンも本来ならサポートに回った方が良い選手なのに、フィニッシャーをさせられているほど深刻だ。


デークは、秀徹と練習試合で対面する時以外はめったに冷や汗をかいたりはしない。それに冷や汗をかかせるというのは相当なものだが、レッズは最後の最後で踏みとどまって前半25分で0失点。アリオンが神セーブを見せつけているのもあるが、相手に救われたというべきだろう。



さて、ブルーズのカウンターに慣れた頃にはレッズも攻撃を軌道に乗せていた。前半31分、フェルノーネがペナルティエリアでゴールに背を向けながらポストプレーして、走り込むサリーにボールを落としてサリーが右サイドから左へと流れるようなカーブシュートを炸裂させて1ゴール。

さらに前半40分にはイオブを警戒する必要なしと判断したロバートがクロスをあげてマニャが頭でフィニッシュ。


そのまま試合は終わり、アン・スタジアムで行われた白熱のダービーマッチはレッズの2-0での勝利に終わった。



〜〜〜〜〜


第23節も何とかレッズが勝利して、2月に突入。ファンもチームメイトも監督も待ちわびた秀徹の帰還が果たされた。


「アジアカップ優勝したんだってな!おめでとう!!」


アレキサンダーも興奮している。アレキサンダーにとって、最も息が合うし抜け出しも上手いのでクロスやスルーパスを合わせやすいのが秀徹だ。彼の帰りを心待ちにしていた。実際、この三試合でアレキサンダーは0アシスト。プレーでは彼に依存しつつあった。


クラップとしては、彼らが仲の良いことは微笑ましかったが、これから退団するであろう秀徹なしだと力が下がるような選手にはなってほしくなかった。このやり取りを聞いてかなり複雑な思いが溢れた。



第24節で戦うのは、マンチェスターユニオンだ。今年はリーグ4位と少しユニオンにしてはがっかりな順位で折り返しているが、油断できない相手だ。

なぜなら、一昨年から監督を務めていたモウレーニが解任されたのだ。これは普通ならば向かい風にもなりかねないことだが、後任監督にはクラブのレジェンドであるスレーシャを抜擢。これによってユニオンは成績を盛り返し始めたのだ。


彼が監督になってからはここまで8試合で無敗というのが何よりの証拠。レッズもマンチェスター・ブルーズが追いかけてきている中で、引き分けあるいは負けとなることは許されない。全力で勝ちに行った。



今ゲームもアン・スタジアムで行われる。秀徹がピッチに入ると、待っていたとばかりに大歓声が上がる。ここからレッズファンたちの間でも語り継がれる、伝説の第二幕が開演するのだった。


秀徹は数日前から暇さえあれば、ここ最近のユニオンの試合を眺めていた。確かに強いのだが、何か違和感を感じたので繰り返して見てみると、その違和感の原因に気付いた。


(もしやコイツら、戦術がないのでは…?)


なぜそう思ったかといえば、攻撃の傾向があまり掴めなかったこと、リンガーという選手の球離れがあまりにも悪いこと、点の取り方がほぼ個人技だったことなどが理由としてあげられる。これらをあげて何か似たチームを思い出さないだろうか。

そう。森谷ジャパンである。



ユニオンはロングパスによるカウンターが戦術だろうとは認識していたものの、このことに気付いた秀徹にそれを力説されてクラップもその通りなのかもしれないと頷いた。

クラップですら気付かなかったことを気付くのは凄いことだ。これは単に秀徹が不幸にも代表で似た状況に追い込まれているためでもあるが、彼の戦術眼が高いレベルにあることも同時に表していた。



こうして、ユニオン戦ではレッズは変わり種を披露しようということになった。グアディオのような策士と変わり種で戦ってもすぐに対策されてしまうが、こういう戦術性のない監督に変わり種で当たれば、どうすればわからなくなってチームはいとも容易く破綻する。それが狙いだ。

レッズは今回5-3-2という特殊なフォーメーションで挑む。

CBが三人、SBが二人、CMFが二人、OMFが一人、CFが二人といった配置になる。OMFには秀徹、CFにはフェルノーネとマニャがそれぞれ投入される。今回のフォーメーションのコンセプトは抜け目のない守備である。CFからCBまで全員守備が上手い選手で統一されており、珍しくRSBはゴメロだ。



メンバー発表時もスレーシャは顔を曇らせていたが、キックオフ後はほぼ狼狽していた。

そもそもレッズに対してはロングパスによる、いわゆるロングカウンターが通用しにくい。なぜならディフェンスの選手たちが前のめりになって相手選手を監視しているので、ロングパスが来てもCBなどの空中戦に強い選手に弾かれたり、そうでなくともヘディングでの落としのパスをパスカットしてしまうからだ。

今回はそれがさらに強化され、CBは三人になってロングパスを待ち構えている。CFのルカスに対してもデークは競り勝ってしまうので、ロングパスはほぼ通用しないと思った方が良い。


良い監督ならば、すぐに戦術を変えてプランBで臨むのだろうが、スレーシャはそれを持っていなかった。ユニオンはポルバやマトといったパサーもいるので、中盤で繋いで攻めることも可能なのだが、あまりそれで攻め込む方法を練習していない。いくら彼らがパスを交換できても前線との連携が取れなければ効果は出ないだろう。



一方で、レッズは前線の三人、特に秀徹の個人技に攻撃を任せていた。先程個人技に任せるのは良くないと言ったが、それは考えなしに個人技に頼るのが良くないという意味であり、個人技が戦術のうちであれば問題はない。

ユニオンは以前から言っているように、守備が脆弱だ。DFのレベルだけ言えば、リーグの中堅チームよりも低いかもしれない。


過酷な環境で育てたトマトが美味い理屈と同じで、そんな環境で (不本意だろうが)育てられたGKのディベアは異常に強いので得点は取りにくいが、今回のように中央に上手い選手を固めて突破させれば簡単にシュートまではたどり着ける。

秀徹は相手DFを簡単に翻弄できる。彼の個人技に釣られたユニオンDFがマークという概念を捨てて彼に突進してくるのは目に見えていた。


前半10分、デークのロングフィードをフェルノーネが上手く足元に収めると、ポルバを背負いながらバックパスで秀徹へ。秀徹はフェルノーネに気を取られていたポルバを抜いて前線へと行き、ペナルティエリア付近で相手と戯れ始めた。

シザースやリバースだけでなく、ダブルタッチやステップオーバー、ルーレットや軸足当てなどをより大袈裟に動き回って、相手にかけまくった。これは相手を抜くためには繰り出していない。引きつけるためにやっているのだ。

動き回っているので、色んなDFのゾーンに入り込んだようで、その度に他のDFにプレスをかけられたが、彼はひょいひょいと簡単にかわしていく。そのうち、ゾーンを跨いで取りに来るDFも増え、マークが疎かになっていく。30秒ほど彼の独壇場が続き、マニャがフリーになったところでパス。マニャは確実にゴールへと流し込み先制点をもぎとった。


ディベアもこれにはため息しか出てこなかった。このゴールに関してはディベアに一切責任はない。ユニオンのDFたちは余りにもノーマークの敵を多く作るのだ。


(移籍したいなぁ…。)


ディベアは不満と移籍したい気持ちを強く感じていた。



その後、前半37分にカウンターを何とか決めて攻め込んだユニオンだったが、堅い守りは崩せずボールを奪取されてレッズによるカウンター返しをもろに食らってしまった。

秀徹は爆速でハーフラインからピッチを走り抜けた。ユニオンDFが気付いた時にはもう遅く、秀徹は一人でペナルティエリア内へ到達し、最後はディベアにシュートフェイントをかけてからシュートを打ってゴール。レッズは2-0で完封勝利を達成した。



高橋秀徹


所属 リヴァプール・レッズ

市場価値:2億6000万€

今シーズンの成績:28試合、33ゴール、7アシスト

総合成績:134試合、113ゴール、50アシスト

代表成績:20試合、16ゴール、6アシスト


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