ローマの意地

リーグ第29節は主力メンバーを温存しての戦いだったため、秀徹は出場せず、アウェイゲームだったのもあって2-2の引き分けに終わった。


リーグ第30節はクラブトッテナム戦だ。すぐ目の前に迫るチャンピオンズリーグ準決勝に対応するためにも主力温存を図りたいところだが、クラブトッテナムに負けるわけにいかない。

というのも、現在トッテナムは3位につけており、レッズは4位。勝ち点差はわずか2ポイントだ。もしここで勝てれば逆転できる。

勝てなくとも引き分けならば差はとりあえずは離されないが、負ければ差は5ポイント。ひっくり返すのが難しくなる。

そこでクラップ監督は思い切った策を用意した。


「フォーメーションは4-3-2-1だ。」


練習では一応練習したことはあったが、実際に使うのは初めてであるその陣形に選手たちは驚く。これはいつもより守備的な陣形であり、ほぼ全員で守り固める。

1トップに起用されるのは秀徹。MFの上の2枚ですら守備的なミレナーと守備ではないが守備もできるチェレンバンというメンツなので、いかにこれが守備的かよくわかるだろう。

このフォーメーションの鍵は実のところ秀徹である。とにかく守り固めて彼に攻撃をほぼ丸投げするつもりである。クラップ監督も出来れば使いたくなかった陣形だろうが、主力の温存と勝ちに行くというのの間を取った結果の苦肉の策だ。

ちなみに、秀徹はかなりスタミナもある方だし、何とか代わりを補えるポジションの選手なので彼がこの試合で使われている。


この試合では秀徹に相手のマークが二人べったりと張り付き、秀徹にボールを出させないようにした。彼さえ潰せば攻撃の芽は全く出てこないからだ。

一人で攻撃を完結させるという観点では、秀徹は世界的に見ても五指に入るほどの実力者だ。油断すれば強豪チームでも一人で崩してしまう。



さて、ここ数ヶ月間、秀徹はオフ・ザ・ボールの動きを練習をしていた。クラップ曰く、


「君もこれから警戒される選手になるだろうから、どうやってボールを受けるまでに相手を出し抜くかを学ぶべきだろう。」


とのことだった。そこから、デークやミレナーなどの戦術理解度の高い選手を相手にそういった動きについて学んだ。

そして、今日の試合ではまさにその動きが問われることになった。二人にマークされた時の対策というものも存在する。


前も説明したが、それはマークしてくる二人の選手同士のゾーンを曖昧にするという方法。二人でマークする時には、一人は近くからマークし、一人はもう一人が抜かれた時のスペースをカバーするようにマークする。そして、それらは自身のポジションに近い方が近くからマークする。受け渡し式なのだ。

ということはそのポジションの際どいところを狙って動けば、どちらがどうマークにつけば良いか混乱させることが出来る。


それを実行するには、相手のマークの受け渡し場所を正確に見極め、動き回ることが重要だ。秀徹をマークするのはデレベレとフェレトンゲルである。

デレベレはCMFの選手で、1vs1のディフェンスにはそこそこ強いがディフェンスの動きは然程(さほど)良くない。逆にフェレトンゲルはCBなだけあって、1vs1のディフェンスもディフェンス時の動きも素晴らしい。プレミア・リーグ屈指のDFだ。


秀徹は動き回って受け渡しのゾーンを把握する。そして、カウンター時にボールを受け取る前にフェレトンゲルを前へと引きつけてミレナーに裏へのスルーパスを出させてスピードでフェレトンゲルを抜き去った。さらにボールを持つとテクニックでデレベレをかわす。そこからはキーパーとの1vs1であった。

こうして厳重警戒されていた秀徹はかくも簡単にゴールを奪ってしまった。



〜〜〜〜〜



このリードをレッズは堅実な守備で守りきり、1-0でトッテナムに競り勝った。これでレッズはリーグ3位に成り上がった。



チャンピオンズリーグ準決勝の相手はローマFCだ。他に残ったのは、クラブマドリードと、ミュンヘンFC。レッズがローマに勝てばどちらかと決勝戦で当たることになる。どちらも当たりたくない相手だが…。

ローマと最初に戦う場所はアン・スタジアム。こうなるとかなりレッズが有利だ。最初にアン・スタジアムで相手の心をへし折るような試合をしてから相手の本拠地に乗り込み、そこでもボコボコにする。これでブルーズも倒してきた。


ローマはレッズ相手に、イタリアの古典的な堅守速攻の戦法をとった。ローマはサリーが抜けてしまったとは言え、ウイングやサイドバックの選手が上手いサイドアタック型のチーム。今年は中央にパストールという身長の高いOMFも加わり、さらにクロス攻撃が武器として定着していった。

何より、このローマはバルサシティを破ってここまで来た。油断は禁物だ。


サイドアタックが来るとわかっていたので、レッズもそれに合わせてサイドを守備が出来る選手 (ゴメロら)で固めて攻撃は前線と中盤の選手たちに頼る。

だが、試合開始後すぐに試合は膠着状態に陥った。ローマの守備を崩せないのだ。特にローマはサイドバックの質が世界でもトップレベルに高い。それに加えて、CBのマナラスという選手は足がめちゃくちゃに速い。サリーやマニャを止められるほどに。


今日の先発メンバーは左からマニャ、フェルノーネ、サリーだ。秀徹はベンチには入っているが、先発からは外れた。

三人は果敢に攻めているが、いつもはアレキサンダーやロバートによるサイドアタックやクロスをオプションとして持っているのに対して今日はそれがない。攻めあぐめるのも無理はない。

それでも何とかPKに持ち込んでサリーが1点を叩き込み1-0。それで前半を折り返した。


クラップは最初から手詰まりを起こすだろうとは思っていた。攻撃のオプションも限られており、相手はサイドから攻めて中央で守る、こちらは中央で攻めてサイドから守る。戦術同士がマッチしており、当然のことながら膠着状態になるのだ。

そこで秀徹をOMFとして投入することにした。彼とチェレンバンが二人で中央の攻撃を牽引すれば必ずローマは崩れると思ったからだ。また、秀徹をOMFにすると前へ飛び出してしまうという問題点もあるが、今回のようにチェレンバンとともに起用してしまえば、そうであってもチェレンバンがボールの受け手になってくれるので大丈夫だ。


実際、彼が投入されると戦況は劇的に変わった。例えば左サイドでマニャが攻めあぐねていると、秀徹が外側から回り込んで数的有利を作り、内側には斜め後ろにチェレンバン、斜め前にはフェルノーネが待機する。パスだけでも3つの選択肢を確保できる。

これでレッズの攻撃は一気に変幻自在となり、固かったローマのディフェンスは崩壊していった。

後半9分、マニャから外側でパス受けした秀徹が中央へと折り返し、フェルノーネが1点をもぎ取ると、14分にはチェレンバンがボールを持ち、ローマディフェンスが秀徹らを警戒して空いたスペースからミドルシュートを放ち豪快に1点を奪った。


この時点で3-0。前回のブルーズのように、ローマの心も折れ始めた頃かと思われた。が、ローマのメンタリティは異常に強く、ここから追い上げが始まった。

相手は4-2-1-3で2枚のCMFを置いていたのだが、それをあえて1枚のCMFにして、OMFに長身のパストルを入れ攻撃力を高めた。

後半23分、LWGのシャーレビィが左から攻撃を仕掛け、ゴメロが対応するも、オーバーラップしたLSBの選手にパスされそのLSBがクロス。長身のジャコがきっちりとヘディングで合わせて1点を返した。


鬼気迫るような攻撃に、クラップ監督は思わず唸る。以前倒したブルーズは勝つことに慣らされていて、負けた時の対応がなっていない。その点、ローマは上位チームとはいえどしばしば負ける。だからこそ負けている時の乗り切り方をよく知っているのだ。


「こういう時は守りを捨ててでも攻めに転じるのが大事だってことをよくわかってるなぁ。」


クラップはしみじみとそう思う。このまま得点がないままローマがアン・スタジアムを去れば、彼らは収穫が0のまま次戦を迎えることになる。

だが、得点できれば結果はどうあれ勢いはつく。相手の監督は曲者だと理解する。


「だが、こちらもやられてばかりではいかん。攻めに転じるぞ!」


クラップは得点された後にメンバーを入れ替える。サイドバックの2人を守備的な選手からアレキサンダーとロバートという攻撃的な主力にしたのだ。

そこからは前半とは打って変わって、残りの25分間ほどで3点が動く超展開となった。ローマはサイドの守備が緩くなったのにつけ込んで一気に攻め立て、レッズは強化されたサイドからの攻撃だけでなく、秀徹やチェレンバンがいる中央からも攻撃を加えた。


ローマが1点を、レッズが2点を奪い合い合計スコアは5-2。前半からは考え難いような打ち合いに終わった。

スコアだけ見れば圧勝に思えるが、ほぼ勝負が決まったところから2点を奪われたことは事実だし、もしクラップがあの時攻撃的な選手交代をさせていなかったら防戦一方であったかもしれない。危ないところだった。


一週間後のセカンドレグでは最初からローマは攻撃的なサッカーを展開したのに対して、レッズはカウンターを狙った守備的な配置で臨んだ。

結果的にはローマは攻撃的なサッカーを展開して4点をもぎ取った。だが、レッズも堅実にカウンターを決めて何とか2点を返し、合計スコアは4-2。


秀徹はこの2試合で1ゴール3アシストを記録。熾烈な撃ち合いの貢献者となった。



高橋秀徹


所属 リヴァプール・レッズ

市場価値:1億6000万€

今シーズンの成績:35試合、27ゴール、16アシスト

総合成績:98試合、72ゴール、39アシスト

代表成績:6試合、4ゴール、1アシスト

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